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50.【俺の友達】



夕太「銀のからとり、美味いでしょ!」



柊オススメの店に連れて行かれ一緒に並んでチキンナゲットに近いスナック感覚の唐揚げを購入した。


勧められて1口頬張るも、さっきから心が晴れずあまり味を感じない。


柊は甘いものに飽きていたのか、次から次へと唐揚げを口に入れていくその姿は頬にパンパンに詰め込んだハムスターにそっくりだった。


俺は柊にバレないよう軽くため息をつくも、誘われなかったからといって何をそんなに悩む必要があるんだと悩みそのものを否定してみた。


しかし、一度胸につかえた感覚は一向に拭いきれない。


柊が後ろ手に見える赤い建物を指さし、あれは大須観音という寺だと教えてくれて顔を向ける。



夕太「そうだ!あっちに行くと大きい招き猫があるから見に行こう!」



そっちの方にはたい焼き屋もあるらしく、案内するからと寺とは反対方向に歩き出す。


大須の地形に詳しい柊の後をついて、洋服に食べ物以外にもゲームやアニメグッズ……となんでもありの大須をぶらぶらと2人で進む。



夕太「名古屋の学生だと、遊ぶのは大須がテッパンだけど東京だと原宿とか?」



唐揚げを食べ終えた柊が、東京に憧れる面持ちで向こうはどんな風かを尋ねてきた。



雅臣「……多分、そう」


夕太「多分ってなんだよ、原宿とか新大久保とか…遊び歩いてたんだろ」



首を傾げた俺をこの都会人!と柊が横から勢いよく小突いてきたが、そんな場所を遊び歩いたことのない俺には全く分からない。



夕太「東京ならUFOチキンとかレインボーハットグとか流行った瞬間すぐ食べれたろ?」



いいなぁと肩を竦める柊の求めるような答えは俺には言えなかった。



雅臣「行ったことないから知らねーよ」


夕太 「……えっ」



そう呟くと柊は立ち止まり、陽に透けると茶色い大きな目を細めて俺を見上げた。



夕太「行ったことが、ない?」


雅臣「……だ、誰にだって行ったことがない場所くらいあるだろ!」



信じられない生き物を見るような顔をされると、酷く馬鹿にされた気がして言わなければ良かったと後悔する。


柊が挙げた食べ物が流行ったばかりの頃、テレビで見て食べに行ってみようか迷った時もあったが、1人でそんな所へ行くのも気恥ずかしくてやめた。


東京の学生皆が原宿や新大久保で遊ぶと思ったら大間違い……だ…ぞ………、



………………。


……あれ?




俺、最後に友達と遊んだのいつだ?




梓蘭世や柊の勢いでうやむやになってしまったが、俺が1番仲の良かった友達は誰だったのかという疑問が再び浮かぶ。


思い出そうと記憶を遡ろうとするより早く、



夕太「まぁそっか。雅臣お母さん病気で忙しかったんだよな…家の事とかもあるし」



悪い、と一言告げた柊は食べないならちょうだいと俺の唐揚げをひょいと摘んで勝手に頬張った。



〝お母さんが病気だから〟



改めて言われた柊の言葉が妙に冷静にさせる。


それが理由で忙しかったのかと問われれば、そうではなかった。


母さんの見舞いには行っていたが毎日行っていた訳ではないし、俺が大きくなってからは家事も親父と全て割り振り当番制だった。


その家事だって特に大したことはしていない。


2人しかいない部屋でも汚れることを嫌った親父がハウスキーパーを雇っていたので、俺は自分の物を片付けるくらい。


洗濯だって2人だと大した量もなく、洗濯機に突っ込めば勝手に乾いて畳むだけ。

マンションのサービスの一環にクリーニングもあったから洗濯しづらいものはそこに出して終わり。


食事だってネット注文して定期的に届く食材で簡単なものだけ作り、後は買ってきたもので済ませていた。


何なら1人暮らしの今の方がやることが多く、改めて考えてみると柊の言うように忙しかったわけではなかった。


じゃあその簡単な家事以外の時間を、俺はどう過ごしていたんだとうっすら眉を顰める。



学校に行って、その後は何をしていた?



予習や復習した後に1人で好きな本や音楽に囲まれて、たまにサブスクで映画を見るだけ。


休みの日も同じように過ごし、仕事に忙しい親父と出かけることもほとんどなかった。


あとは寝て起きての繰り返し。


思い返せば返すほど本当に何もない、生産性ゼロの日々に唖然と目を剥いた。



いや待て、そんなはずは………、



慌てて今日みたいに友達と遊んだのはいつだと思い起こしても、小学校の終わりにたまたま行った公園でサッカーに混ぜてもらったくらいが精々だった。


家に友達が来て遊んだ事もないし、友達の家に招かれる事もなかった。


そして中学に入って3年間、誰ともどこにも行った事がない異様さに気がつくとさっと青ざめた。



夕太「なぁ、東京の友達って今でも連絡取る?」


雅臣「……あ、……ああ」



咄嗟についた嘘に鼓動がどんどん早くなり、嫌な汗がゆっくりと背中を伝う。




れ、連絡なんて………


こっちに引っ越してきて、誰かから来たか?




山田、大友、小辻……、


幼稚舎から持ち上がりで、中3の時のクラスメイトを適当に羅列してみるが、あいつらと今日みたいに学校帰りどこかに寄ったことなんて1度もなかった。


いや、俺にも学校で普通に話す友達くらいいただろうと焦る気持ちが抑えられない。


急いで何人か思い浮かべてみるが、柊と蓮池、梓蘭世と一条先輩、三木先輩と桂樹先輩のような関係性を友達だと言うならば全員当てはまらない。


俺はいつも人の話を聞いているだけで、それも俺に話していたわけではない周囲の会話を聞いていただけで、自分から何かを話す事なんてほとんどなかった。


挨拶を交わす程度、近くの席の奴と次の授業が何かなど当たり障りのない会話をするだけの関係で友達だと思っていたのか?


俺が勝手に都合良くそう捉えていただけで、本当のところは……と衝撃が走る。



夕太「なら友達が名古屋来た時大須教えてあげなよ!」


雅臣「そ、そうだな」



また1つ柊に嘘を重ねた俺は、パズルのピースが1つずつ揃うように恐ろしく物事がクリアに見えてきてしまった。



俺は〝母親が死んだ事〟を何でも自分にとって都合良く置き換えていたに過ぎないのか?



浮かんだ疑問符に、いよいよ気持ちが落ち着かなくなる。


中学時代、俺の近くの席にいた奴らが今日みたいに学校終わりどこかへ行こうと話題になったが俺は誘われなかった。


柊みたいにうるさくなくて蓮池のようにキツくない、家庭の事情がある俺を気遣ってくれる穏やかな面々だから敢えて俺を誘わないんだと信じて疑わなかったが今ならわかる。



そんな訳ないだろう。



自分から母親が死んだなんて言ったのは今日が初めてで、親が病気で入院してます、だなんて話したことは今まで一度だってないじゃないか。


これまでの考え全てが検討外れなのではないかと気がつくと、自分の考えなさに愕然とする。


俺の母親が病気な事と俺に友達が思い浮かばない事には何の関係性もない。


何故事情を知るはずもない周りが俺に気を遣ってくれているだなんて都合良く思えていたのだろうか。


ひたすら考えるも恐ろしい結論しか思いつかず、思わず小さく喉が鳴る。




俺が誘われなかったのは……、




_____お、俺は東京で嫌われていたとか……?




夕太「夏休みとか友達に会いに東京帰ったりする?」


雅臣「……っ、」



もう嘘がつけない。


俺にはそんな友達が1人もいないと、今まで信じてきた友達の定義が足元から崩れ落ち倒れそうだ。


俺が友達だと勘違いしていたのはただの同級生で、そいつらからしたら俺なんか友達でもなんでもない、知り合い程度の人なのだろう。


こっちに来てからだってそうだ。


俺が辞めるためでもあったが、サークル設立のため名前だけ貸してほしいとクラスメイトに頼んだ時、全員が微妙な顔をして断ったのは蓮池が嫌われているせいだと疑いもしなかった。


本当は俺自身が嫌われている、好かれていないから皆いい顔をせず断ったのだと思い至って死にたくなる。



夕太「………雅臣?どしたの?」


雅臣「い、いや何でも、ない…」



それなら、今目の前にいる柊は?


縋るように見つめるも、こいつが友達かと自問すればまだそんな関係ではないと思った。


あの場でわざわざ誘ってくれたということは、柊に嫌われてるわけではなさそうだが、その場の雰囲気で俺だけ誘わないのはバツが悪く仕方なく誘ったとも思えるのだ。


俺だから誘ったんじゃない、柊はたまたまお付き合いで仕方なく流れで誘っただけ……… と反芻すれば胸が痛い事実を認めたくなくてかぶりを振るった。


東京で俺はいつも誰かが声をかけてくれるだろうと待っていたし、誘われなかったら俺に遠慮しているということにしてたが、事実に気がついた今そんな言い訳は自分にはもう通用しない。




〝どう見ても友達いないし、これから出来ることもなさそうだし…〟



〝初対面の相手にそういう事言っちゃうんだ、お前コミュ障?〟




ふと脳裏に、言われた言葉の数々が思い浮かぶ。


陰キャ、図々しい、など主に蓮池に散々言われそんな訳がないと怒りもしたが、正直何を的外れな事を言っているんだ、俺は至って普通だと自分の中で笑い飛ばしてきた。



でも………もし、これが全部本当の事を言われていたのだとしたら?



ぐるぐると疑問符が渦巻くばかりで答えが出ない。




「夕太くん」




刹那、その声が聞こえてきて心臓が止まりそうになり飛び上がった。



夕太「え、でんちゃん何してんの」


楓「は?夕太くんがヤバカツの豚の写真だけ送ってきたじゃん。あれ今日トンカツ行こって意味でしょ?」


夕太「すごい勘違い、でんちゃんほんとブタみたいに嗅ぎつけてくるよね」


楓「はあ!?意味わかんない俺めっちゃ頑張って稽古終わらせてきたのに」



蓮池は柊と遊びにわざわざここまで来たのか、いつも通り2人はギャーギャーとうるさい。


しかし、こうやって言いたい放題言える相手が俺にはいない事実と今まで蓮池が俺に放ってきた暴言が混ざり合い、俺は本当にぼっちでコミュ障なのかもしれないと改めて思うと余計に落ち込んだ。



夕太「しょーがないなもう……、じゃあヤバカツ食べに行こ。雅臣、こっから1人で帰れる?」


楓「ガキじゃねぇんだから自分で調べて帰れるだろ」



今度は、柊は俺を誘わなかった。


嫌われているからなのか、俺と友達じゃないからなのか境界線が分からない。



………もし今ここで、このタイミングで俺も行きたいと言ったらどうなるんだろう。



でもトンカツが食える心境でもないし、蓮池となんかごめんだという言い訳めいた考えが頭に浮かぶがハッとする。


何故俺はいつもそんなに行きたくないと言うくせに、誘ってくれるかもしれないと密かに期待しているんだ?


いつも俺はこうやって心の中で考えてるだけで、いつだって本当の気持ちが言えないままだ。



だって、どう伝えればいいのかなんて分からない。



またな、とすらも言えず俺は楽しそうな2人の背中を見送るしか出来なかった。




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