46.【レッツ栄探索】
蘭世「柊、大須でいいのかよ?」
夕太「うん!クレープ屋あったよね」
柊の後について、覚王山駅4番出口の階段を降りていく。
駅なんて1番自宅から近いのに実は一度も利用したことがない。
新しい街での生活……というより、学校に慣れるのに必死でどこかに遊びに行く余裕など無かったのだ。
普段の買い物は歩いて行けるスーパーホランテかコンビニ、元々自炊は得意だし他の足りないものは全部ネットで注文して届けてもらっていた。
東京から引っ越してきた時も、調べるのも面倒でそのまま名古屋駅からタクシーに乗ったことを思い出す。
俺が切符を買う間3人に少しだけ待っててもらい売り場の路線図を眺め〝おおす〟駅を探す。
東山線、桜通線、その他にも路線があり一体〝おおす〟は何処なんだ?
ふと〝一社〟という文字が目に留まり、これはもしかして桂樹先輩が言ってた一社じゃないかと謎に感動するも、東山線の路線図には目当ての〝おおす〟とやらは載っていない。
雅臣「おおす?はこの線で着くんですか?」
全然見当たらずすぐに音を上げ一条先輩に尋ねると、
梅生「あ、ごめんわかんないよな。蘭世、乗り換え?それとも栄から歩く?」
〝さかえ〟という駅から歩けるくらいなら、東京から大手町くらいの距離なのか?
……名古屋なんて東京より狭いのに、右も左も分からなすぎる。
家に帰ったら少しは名古屋の街について調べようと考えていると、
蘭世「どっちでもいい、……けど、そういや藤城お前栄とか出んの初めて?」
……お、おおおお!?
あ、あの梓蘭世に普通に話しかけられたぞ!!
今までが今までだったので少し身構えるも小さく頷いた。
よくよく考えればあの梓蘭世とクレープ食べに行くなんてやばくないか?
普通の友達とかではなく芸能人と一緒にクレープを食べる事に少し浮かれるも、ふと最後に誰かと遊びに行ったのはいつだったかと首を傾げる。
確か幼稚園くらいの時、家族で遊園地に行った記憶はあるがさすがにそれは昔すぎる。
最近で、直近で誰かと遊んだり、食べ歩きとか___
夕太 「え!雅臣、栄行ったことないの?」
その時、柊がびっくり眼で大声を上げたので呼び起こそうとした記憶がかき消されてしまった。
蘭世「あーじゃあ栄で降りて大須向かいがてら歩いて店紹介でもするか?」
名古屋なんてなんもねえけど、と笑う梓蘭世に一条先輩も柊も頷く。
柊が片道240円だと教えてくれて、急いで小銭を入れ切符を買う。
東京では定期を買っていたが、名古屋に来てからは一切使う必要がなく持ち歩いてもいなかった。
切符なんて久しぶりに買ったなと改札を通り抜け、〝栄・名古屋・高畑〟と書かれたホームへの階段を全員で降りながら電車を待った。
隣で柊が鞄を地べたに置き、本当に名古屋なんてなんも無いんだよとしつこく言っている。
三大都市の1つなのに何も無いわけないだろと思うが、確かに思いつく観光名所はないし、B級グルメが有名としか聞いたことがない。
……そんなことより、学校帰りに制服のまま遊びに行ってもいいのか?
山王の校則はどうなんだと生徒手帳を取り出そうとすると、ちょうどホームに電車が来た。
初めての東山線は意外と混んでいたが、それでも東京の電車に比べれば楽勝だと4人で乗り込む。
東京の時は中学生だったし学校帰りなんて俺はそのまま家に帰っていたよなと、懐かしい東京の満員電車を思い出す。
他の奴らはどうしていたか分からないが、中学も学校終わりの寄り道は禁止されていた。
山王は堂々と制服で寄り道なんて許されるのだろうか?
梅生「藤城、栄まで10分もかかんないよ」
はぁ、と小さく頷き、親切に教えてくれるこの優しい一条先輩に聞いてみようかと口を開きかけるも、
〝陰キャ野郎〟
〝ボッチ〟
と斜に構えて笑い罵る蓮池が思わず脳裏に浮かんだ。
………………。
いや、いや待て、待て、落ち着け。
ここで〝すみません、帰りに制服のまま遊びに行っても大丈夫ですか?〟なんて聞いたら俺がまるで蓮池の言う通り陰キャみたいじゃないか!?
……クソ、あいつが普段俺を罵ってばかりだからこんな変な考え方になるんじゃないか。
柊とどのクレープを食べるか楽しそうに話す一条先輩を見て、この如何にも真面目そうな人が制服のままクレープを食いに行く気満々なんだからさして問題はないだろう……と無理矢理結論づけてみるが……、
…………ほ、本当に、大丈夫か?
電車に揺られながら栄駅に着くまで、葛藤はずっと続いた。
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夕太「名古屋の繁華街なんて名駅か栄しかないよ」
と、隣を歩く柊が教えてくれる。
ついでに名古屋駅の略称が〝めいえき〟とまで教えてくれた。
栄駅に着いてすぐ、大須に近い出口ではないけど観覧車あるからと柊に腕を引かれ4人で出口を上がると本当に観覧車があった。
これに乗る名古屋人はいない、と謎に胸を張り話す柊に先輩達はウケていたから多分本当なのだろう。
さすがに覚王山と比べて人が多く、そのうち栄は表参道みたいな場所に出るんですかと聞けば、前を歩く梓蘭世が身体を折って爆笑した。
蘭世「栄なんてパルコと松坂屋…まあ三越とかそんなんしかねーよ」
本当にそうなんだろうか?
疑いの目で3人の後をついて歩けば、どこのビルも全体的に低く緑が多いのが印象的だ。
……確かに梓蘭世の言う通り原宿でも渋谷でもなく、ましてや表参道でもない。
ただの街って感じでこれといったシンボルになるものもないのだ。
このまま真っ直ぐ歩いたら大須に着くよと柊が指差す方に皆で向かう。
蘭世「うわ、烏踊総本店ってまだやってんだ」
夕太「ここのクリームあんみつ最高ですよね!梅ちゃん先輩食べた事ある?」
……か、からすおどり?クリームあんみつ?
ういろと書かれたのぼりを眺め、ショーウィンドウから見える和菓子を見て甘味処だと分かった。
梅生「昔蘭世が連れて来てくれたよね」
蘭世「ちょうどこの位の時期だったよな」
ぞろぞろ4人連なって歩くが、1つ気になったことがある。
……この街カフェが多すぎないか?
数メートル感覚でチェーン店から個人経営店まで至る所にカフェが乱立している。
歩けば当たるカフェにモーニングの文化があるからと言ってこんなにもカフェだらけなのかと辺りを見渡す。
蘭世「な?何もないだろ?」
暑くなったのか梓蘭世が笑いながら学ランの上着を腰に巻くき、それに続くように一条先輩も上着を脱ぎ、通学鞄にしまい込む。
外はほとんど初夏の陽光で随分暑い。
俺も脱ごうかなと制服に手をかけるが、自分と身長が大差ないのに腰の位置が恐ろしく高い梓蘭世を見ると嫌気がさしてやめた。
ふと周りを見ると、すれ違う人々の視線が自然と梓蘭世に集中するのが分かる。
モーセのように歩けば周りが距離を置き、必ず振り返る。
ただ歩いてるだけで注意を引きつけるなんて才能だよなと感心した。
夕太「……ここの信号って絶対渡り切れないよな、あ、あそこヤバカツだよ!雅臣ヤバカツ知ってる?」
雅臣「聞いたことはある」
しばらくして20分も歩けば大きな豚のキャラクターの銅像が見えてきて、柊が可愛い可愛いと擦り寄り抱きつきに行った。
トンカツ屋なのにこんなキャッチーなキャラクターにしたら食いにくいだろと眺めていると、柊もじっと見つめ何度も瞬きをする。
夕太「でんちゃんみたい」
少しの沈黙の後、柊の一言に思わず吹き出してしまい梓蘭世もつられたのか声を上げて笑う。
蘭世「こんなデブじゃねーだろ!」
梅生「……ど、堂々としてる感じが?」
心優しい一条先輩は何とかここにいない蓮池をフォローしようとしているが、肩が震えている。
似てるとは言えないが、皆ピザパーティーでの蓮池の食いっぷりを思い出したんだろう。
これが蓮池とは言い得て妙で、柊のセンスに全員笑いが止まらない。
蘭世「はーおもろ、写真撮って送ってやろうぜ」
梅生「蓮池今頃くしゃみしてるよ、やめなよ蘭世」
勉強会を経て、梓蘭世はわりと蓮池に容赦なくなり、距離が縮まった感じがする。
それに全体的に先輩たちとの雰囲気も中々良くなっていて、勉強会も無駄ではなかったなと改めて思う。
再び目的地のクレープ屋へ歩き出す3人と大きなブタを横目にこれからトンカツを食べる度に思い出しそうでまた吹き出した。
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