43.【一触即発】
夕太「2年の教室入るの初めてだー!」
梅生「俺らの教室が空いてて良かった」
自分の担任がまだ教室に残っていることに気がついた一条先輩がその場で許可を取ってくれて、今日は2年4組で活動することになった。
俺らの教室と位置が違うので、普段窓から見える景色も少し変わって新鮮な気がする。
夕太「あ!俺生徒会室行ってくる!」
蘭世「お前、一々あの人らに許可取ってんのかよ」
夕太「一応ルールだからさ、それに……」
渋々自分の教室に戻ってきた梓蘭世に柊がふっふっと謎の笑みを浮かべ何かを言いかけたが、直ぐにこれは秘密だったと走って出ていってしまった。
……相変わらずバタバタと慌ただしい奴だな。
聞こえてたぞ、何なんだよ秘密って。
意味分かんねぇなと頭を搔くと一条先輩に空いてるとこ座りなよと声を掛けられ入口の近くに座る。
俺らがサークルで教室を使うと知ったからか、残っていた他の2年4組の生徒達も次第に帰り出した。
しかし、その内の何人かが一条先輩だけでなく梓蘭世にも声かけていている事が信じられない。
あの暴君に普通に話しかけるだなんてどんな神経をしているんだ?
「蘭世!明日の体育賭けしねぇ?」
蘭世「短距離だよな、…勝ったら?」
「ラーメン奢る、一条も一緒にやんね?」
梅生「俺はいいかな、2人の見てるよ」
……何だよ。
ラーメンなら乗った!と梓蘭世が笑いながら、普通に楽しそうに話す姿を見て不快に思った。
そんな風に笑って話せるなら同じ一般人の俺にもそうしてくれよ。
いつでも俺ばかり謎に当たり散らされ怒鳴られ、たまったもんじゃない。
それに一条先輩だって、友達がいないと言う割には梓蘭世以外にも話す人がいるじゃないか。
恨み言が自分の中に蓄積され、クラスメイトを妬んでるみたいな自分が嫌になる。
別の事を考えようと鞄に突っ込んだままの読みかけの小説を取り出す。
しばらくすると2年の教室に俺ら3人だけになった。
静かな2年生との空間に、俺だけ取り残されてもそこまで気まずくないのは一条先輩がいるからだろうか。
いっそのこと一条先輩1人だけでいいし、俺も一条先輩みたいな静かで優しい友達が欲しい。
蘭世「てか梅ちゃんさ、鬼まんじゅうって何だよ」
人の気も知らないで、梓蘭世は先程の話を聞いていたのか後ろの席に座る一条先輩の顔を覗き込んだ。
梅生「テスト前かな?柊と藤城と買いに行ったんだ」
一瞬俺の方を見て眉根を寄せる梓蘭世だが、己の愚行を思い出したのか何も言わなかった。
それもそうだろう。
アンタが不機嫌になって勝手に出て行った日だからな、俺は何も悪くないぞと本を開く。
梅生「蘭世知ってた?東京には鬼まんじゅう無いんだって」
蘭世「え、マジ?あー…でも確かに見た事ねぇわ」
梅生「もし東京に仕事行くなら手土産に持って行ったら?喜ばれるかもよ」
お?
おお…?
なんか、普通でいい感じじゃないか?
初めてこの2人が自然な会話をしているような気がしてつい見てしまう。
普段痴話喧嘩みたいな会話から始まり、突然梓蘭世が不機嫌になりキレて退場、そして一条先輩が落ち込むまでのワンパターンがほとんどだった。
いつもと全然違う自然な感じで、それまでの一条先輩を思うと何だか俺が喜ばしい。
このまま上手くいってくれという俺の願いを邪魔するように、ガラッと大きく扉の開く音がした。
「夕太くんは?」
柊が戻ってきたのかと思えば蓮池だった。
蓮池は入口に突っ立ったまま俺ら3人を見ると、開口一番柊の居場所を尋ねる。
口を開けば罵詈雑言か、夕太くん。
お前の頭ん中その名前しかないのかよ、気持ち悪ぃな。
蘭世「あいつ生徒会行ったぜ」
梓蘭世が居場所を教えると、蓮池は何しにここまで来たのか教室に入らずくるりと身を翻し来た道を戻ろうとする。
雅臣「金魚のフンかよ」
楓「……」
どうせ柊の所に行くんだろと思わず本音が口をついて出てしまった。
蓮池は無言で立ち止まりゆっくりこっちを振り返るだけで珍しく何も言わない。
いつもなら噛む勢いで秒殺にかかってくるのにどうした?
普段俺ばかり言われっぱなしでムカついていたから、ここぞとばかりに詰め寄った。
雅臣「柊いないと何もできねぇのかよ」
いつしか2年の会話も止んで、思いの外シンとした教室に俺の声がよく響いた。
まるで喧嘩を売ってるようで小っ恥ずかしいが、俺は悪くないぞ。
蓮池のいつもの態度を見ていたら俺が言い返したくなるのもわかるだろうし、俺にだってこの位言う権利がある。
しばし嫌な沈黙が流れるが、蓮池は特に気にする様子もなく肩を竦めて鼻で笑った。
楓「友達でもねぇのに話しかけてくんなよ」
雅臣「はぁ!?」
吐息混じりに呟きそのまま行こうとする蓮池に相手にされず、何だかバカにされた気もして頭に血が上った。
歯を剥いて立ち上がり蓮池の肩を掴むと受けて立つつもりでいるのか、蓮池は抵抗もせずに俺を真正面から見据えた。
視線の鋭さに怯みそうになるが、今日こそは絶対言い負かしてやると俺も睨んだ。
楓「……お前さ__」
夕太「あれ!?でんちゃんもう来たの?」
蓮池が何か言いかけたが、ちょうど生徒会室から走って戻ってきた柊の大声で全てが掻き消されてしまった。
……何だ?
……今なんて言った?
柊がすぐに剣のある顔した幼馴染に気づき、どした?と蓮池と俺の顔を交互に下から覗き込む。
……こいつ何か食ってきたな?
柊をよく見ると口の端にチョコレートのような汚れを付けて、全身から異様に甘ったるいバターの香りが漂ってくる。
同じように匂いに気づいた蓮池が顔を顰めて離せよと俺の手を払いのけた。
楓「〝タコパ計画2年4組〟だけ送ってきたの夕太くんじゃん…何か口ついてるし、」
そう言ってポケットからハンカチを取りだし柊の口元の汚れを拭き取る。
楓「何食べてきたの?」
お互い甘い匂いに意識が逸れ、喧嘩する気がなくなったと同時に、蓮池も気になったのか俺の胸の内と同じことを聞いた。
仕方なく俺が席に戻ろうとすると、
夕太「でんちゃんブタかよ。あ、申請通りました!」
柊が容赦のない一言を蓮池に向かって放ち、その手を軽く払いのけ自分の制服の袖で雑に口を拭いた。
2年にお待たせしましたと一礼してから、そのまま教壇に上がっていく。
夕太「ジュリオン先輩の歓迎会とテストお疲れ様会を兼ねて、皆でたこ焼きパーティーを企画したいと思います!」
そしらぬ顔で今日のサークル内容を告げる柊だが……さすがにあんまりにもじゃないか?
蓮池だって、柊が口を汚していたから気になって聞いただけだろうに。
ブタだなんてあまりにも酷い。
楓「どーせデブは鼻がいいって言いたいんだろ」
蓮池は不貞腐れながら渋々柊がいる教壇の近くの席に座った。
別に誰もそんな事言ってない……が、今のはさすがに柊が悪い。
チョコなんて目立つから蓮池が気を使って汚れを拭いてやってたのに……。
俺の蓮池に対する言い方なんて可愛いもので大したことなかったなと柊を見て思う。
夕太「でんちゃんが一応頑張って勉強してたので、タコパの日程は追試とズラして考えてます。まず今日は具材を先に決めようかなって……」
蓮池の追々試の可能性を無視して柊はどんどん話を進めていく。
前回のピザパーティーとは異なり、今回は自分達で作るのか入れたい具も決めれるらしい。
確かにピザの時は担任が味を選んだ感じだったなとやったことの無いタコパに少し胸が踊る……、
______いやいや待て待て。
俺まで慣れてきているが本当にこのサークル大丈夫か?
パーティーばっかで〝作詞作曲歌っちゃおう〟は一体どこへ行ったんだ。
これじゃあまるで〝パーティばかりやっちゃおう〟サークルだぞ。
そう思うも、今回は桂樹先輩の歓迎会も兼ねているので反対する事もできず、参加しない選択肢は俺に無かった。
いつも俺をフォローしてくれる桂樹先輩にはとても感謝しているのでこれは参加する。
決してたこ焼きに釣られてるわけじゃないと頭を振ると、
蘭世「たこ焼き器は?」
夕太「これはツテがあるので大丈夫です!安心してください」
肝心のたこ焼きマシンをどこから調達してくるのかはわからないが、柊が自信アリげにふっふと微笑んだ。
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