柊夕太の放課後2
楓「あんのクソジジイはよ死ねばいいのに」
夕太「でんちゃんすごいブスになってるよ」
おじいちゃんに何を言われたかは分からないけど、鬼の形相で帰ってきたでんちゃんの開口一番の予想は外れた。
耄碌こいてやがるだと思ったんだけどな。
楓「それにしてもここ、鬼まんじゅうしか美味しくないよね」
どかっと音を立て畳みに胡座をかくでんちゃんの片手には新しい鬼まんじゅう。
戻る途中で台所に忍び込み1つ拝借してきたんだろう。
足が丸見えで本当に行儀が悪い。
夕太「本当にね。梅ちゃん先輩と雅臣も一緒に買いに行ったんだけど、多分雅臣はあの後普通のお饅頭も買いに行ったんじゃないかな」
一連の流れを教えてあげると、
楓「夕太くん忠告してあげなかったんだ、意地悪いね」
そう言ってでんちゃんは鼻で笑いながら右口角を上げた。
夕太「人聞きわるいな。ちゃんと忠告したけどあれは絶対信じてなかった」
でんちゃんはあの甘ったるいだけの饅頭を思い出したのか、身震いして口直しするかのように鬼まんじゅうにかぶりつく。
そんな話をしていたら静かに襖が開いて、おばさんがお盆にお茶と鬼まんじゅう、おまけの和三盆まで乗せて持ってきてくれた。
お盆に乗っている湯のみは昔瀬戸の校外学習で焼いたやつ。
意外と長持ちしてるよなとでんちゃんが描いたヘタクソな猫の絵を見て懐かしさでいっぱいになりながらお茶を啜ると、俺の大好きなほうじ茶で密かに喜んだ。
楓「夕太くん今日泊まってくから。湿気た飯作んなよ」
「あらまぁそうですか。お夕飯どうしましょうかね」
献立まだ考えてないのと言うでんちゃんのお母さんは本当に料理上手で、絶対和食が食べたい俺は必死に脳内でメニューを思い浮かべる。
夕太「リクエストいい?俺鯵の南蛮漬け食べたい!」
楓「えぇ…ステーキとしゃぶしゃぶにしようよ」
夕太「肉ばっか最悪、センスない、でんちゃんのデブ」
ギャーギャーうるさい俺らのやり取りを屈託のない笑顔で見守るでんちゃんのお母さんは、どちらも作りますよと立ち上がる。
「買い物に行って参りますね」
楓「ベンツ出せよ、俺らも行く」
でんちゃんも立ち上がり、顎で俺にも来いと指図する。
夕太「…でんちゃんは荷物運ぶの大変だから着いていくよって言いたいんだよね」
出会った時からあー言えばこー言う口と態度の悪さ。
頭も悪く、そのまま背が高くなっただけの幼馴染み。
どうかこのまま変わらないでいて欲しいと思う。
ヨイショと俺も立ち上がると、
楓「ババアみたいに鮮度の悪い肉選ばれたらかなわねーからだよ」
フォローを台無しにするところも全く変わってないのが窺える。
いくらでんちゃんがたった1人の跡取り息子とはいえ、甘やかしすぎだよとおばさんに目線を送れば、
「ふふ……何でも言葉にしてくれる方がいいわ。楓さんは心が分かりやすくていいのよ」
と遠い目をしながら、今はここにいない黙って出て行ってしまった人を思い出してるのだろう。
でんちゃんのお姉ちゃんはとても聞き分けのよいしっかり者でそれはたおやかで美しく、駆け落ちするなんて誰も思っていなかった……。
と、これは俺の母ちゃんから何回も聞かされた話。
俺とでんちゃんのように、俺の母ちゃんとおばさんも元同級生の幼馴染みで仲良しなんだ。
でんちゃんのどデカい瀬戸の家の隣に俺ん家はちんまりと建ってるんだけど、超高齢出産で蓮池家に男の子をとおばさんが無理やりでんちゃんを捻り出したのが15年前。
そして何故か俺の母ちゃんまで同じタイミングで俺を捻り出した。
蓮池家が1年で1番忙しい元旦の日。
それが俺とでんちゃんの誕生日。
病院で産まれた時から今まで俺達はずっと一緒。
これからも変わらない俺達は、何事もなくそのまま大人になれたらいい。
このままずっと、この関係のままで。
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おばさんの身体に見合わないサイズのデカいベンツの後部座席に2人で乗り込むと、ゆっくり車は発進した。
正直でんちゃん家からは歩いた方が近いスーパーだが、荷物が多くなるのが目に見えてるのでおばさんが車を出してくれて正直助かる。
スーパーホランテに着いて早々、でんちゃんはカートにカゴを2つセットして俺に渡した。
その後でんちゃんも同じようにカートを準備する。
地下の駐車場が空いてないから外の駐車場に停めてくるわねと言うおばさんを置いて、俺とでんちゃんは先に降りて買うことにしたのだ。
楓「夕太くん卵取ってきて、10個を3つ」
夕太「でんちゃんはニワトリに恨まれた方がいいよ」
楓「うるさいな恨まれる前にニワトリごと食ってやるよ。それに卵なんか何個あってもすぐ無くなるだろ」
でんちゃんが毎朝卵を5個も使った豪華な卵焼きを全部食べちゃうからすぐ無くなるんだろ。
脂質がすごそうと思いながら指示された通りに俺は卵のコーナー目指して取りにいく。
でんちゃんの好みの赤卵を探して割れないようにカートに入れる。
それからお魚コーナーに今日は小鯵があるのか見に行こう。
もし無かったらしめ鯖でもいいなと1人浮かれていると、鮮魚コーナーの奥からでんちゃんの罵倒が聞こえてくる。
相変わらず聞くに絶えない言葉を連発している。
ステーキ食べたいって言ったのでんちゃんなのに、本当に都合のいい脳みそしてるよね。
ため息をつきながら声の聞こえてくる方にカートを動かすと、ストーカーの如くその様子を見つめる人がいる。
いくらでんちゃんが目立つからって、こいつ見すぎだろ。
…………。
…………あれ?
見たことのある後ろ姿に顔を確認しようと覗き込めば、
夕太「あれ?雅臣?」
雅臣だった。
夕太「さっきぶり!雅臣も買い物?」
ワタワタ慌てている雅臣の視線の先は案の定でんちゃんとでんちゃんのお母さん。
雅臣「あ、あぁ…いやそれより柊、あそこにいる蓮池が__」
驚きを隠せない雅臣を見て、助けてやれば?と言おうとするも口を閉じた。
雅臣がいないと困るのは俺だ。
でんちゃんと変わらない毎日を過ごすために選んだ友人。
暴言を吐かれているおばさんを見過ごすことが出来ないくせに、何もせず見てるだけ。
いつも見てるだけで行動には移さない、図々しい雅臣がちょうどよかった。
初めて会った時から、雅臣の全てがでんちゃんの癇に障るとピンときた。
……こいつしかいないと思ったんだ。
雅臣には少なくとも後半年、同じクラスの間だけでも俺とでんちゃんの間に居てもらわないと。
雅臣とでんちゃんを交互に見て頷くと、お前が言ってくれるのかと雅臣の顔が歓喜が溢れて緩むのが分かる。
手間がかかるなーと小声で呟き、何もしない雅臣を置いてフォローに向かった。
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