37.【意外と乗り気】
夕太「……先輩方に頼みたいことがあります!」
立ち上がった柊は突然2.3年生に向かって姿勢良く90度に頭を下げた。
夕太「どうか……!どうか過去問を下さい!そしてSSCで勉強会をやらせてください!」
楓「げ」
_____なるほど。
先輩達まで巻き込んで、蓮池を無理やり勉強させようということか。
さすがの蓮池とて先輩方には強く出れないのを見越しての作戦に、いつものくだらない思いつきよりはいいとなと少し感心する。
しかし何度も言ってるが、ここは本当に何のサークルなんだと言うくらい横道に逸れている。
まあそれは今更としても、先輩まで巻き込んで大丈夫なのか?
何より3年は受験もある訳で、過去問を渡すだけならまだしも……こんな集中とは無縁のメンバーで勉強会だなんて嫌じゃないのか?
少なくとも俺は静かに1人で勉強したい。
しかも蓮池のための勉強会となると、蓮池の参加は確定で余計に俺は参加したくない。
もし頼まれたとしても、バカを相手に何か教えるだなんてしたくもないしテスト前の貴重な時間が勿体ない。
どうか誰か反対してくれという俺の願いは届かないのか、
桂樹「俺テスト問題とか全部捨てたわ」
蘭世「桂樹さん2年のテストとかもねぇの?」
桂樹「俺は終わったら全部捨てる主義なの。他の奴は?」
桂樹先輩、優しいのはいいですが勘弁してください。
勉強会なんて嫌だと一言言ってください。
ついでに梓蘭世まで乗り気なのも困る。
誰か1人くらい静かに勉強したいと言う人は居ないのか、と辺りを見渡すとこの部活で1番静かな一条先輩と目が合った。
一条先輩は静かに集中して勉強したいですよねと願いも込めてじっと見つめるが、
梅生「俺1年の頃のテスト問題全部取ってあるから持ってくるよ。初めての中間テストだと緊張もするだろうし」
そう言って微笑む一条先輩の優しさが憎くなるだけだった。
何でそんなに全員乗り気で……
いや………、
待てよ………?
俺も過去問を見せて貰えるならラッキーなのか?
各教科の出題傾向もわかるし対策もできる、そう気がつくと過去問だけは喉から手が出るほど欲しくなった。
同時にら過去問だけ貰って勉強会は出席しないという考えが頭を過ぎったがこれを言ったらまた蓮池に図々しいと言われる気がして頭を振る。
しかし何も捗りもしない勉強会には参加したくない。
楓「え、いらないですよ。貰ってもやらないし」
思考を巡らせていると、俺が勉強会に参加したくない理由の張本人がろくでもないことを言い放った。
何言ってんだこの馬鹿!!!
図々しいのはお前だ阿呆!!!
有難く貰えよ、そしてやれ。
一条先輩の好意を無下にするな。
お前がやらないで一体誰がやるんだ。
そもそもお前がとんでもなく馬鹿なせいで勉強会をしようという流れになっているのに、この時間を無駄にするな!
頭の中で悶々と目の前の馬鹿をボロクソに貶す。
その時、それまで黙っていた柊が伝家の宝刀と言わんばかりに口を開いた。
夕太「じゃあでんちゃんが追試の時に俺達だけでタコパしちゃうからね」
はあっ!?と息を巻き声を荒らげる蓮池は、勉強はしたくないがたこ焼きだけはどうしても食べたいという本心が丸見えだった。
こいつの事が嫌いな俺でさて、いい加減思考パターンが分かってきたぞ。
大食らいな蓮池は、食い気が何よりも勝るのだ。
三木「俺も1年の時のテストは全部ファイリングしてあるはずだから探して持って来てやるよ」
桂樹「テスト1週間前は部活もサークルも休みになるから、やるなら今週中だな」
合唱部の方もあって忙しいだろうにこんな勉強会にも参加意欲があるなんて桂樹先輩は優しすぎるという気持ちと、3年なんだから大人しく自分の勉強に専念していてくれという気持ちがせめぎ合う。
蘭世「三木さんに出るとこ予想して貰って叩き込めよ」
勉強が嫌…というよりたこ焼きが食べれないかもしれない事に対し既に不貞腐れる蓮池に、梓蘭世がデコピンした。
夕太「蘭世先輩だめ!!叩くと覚えたことが全部出ちゃうかも」
蘭世「こんなバカの脳にはまだ何にも入ってねーよ」
楓「顔も頭も背も全部デカいのに脳は小さいって言いたいの?はいはいどうせ俺は馬鹿ですよ」
蓮池の斜め上の返しを聞いて、そんな事誰も言ってないだろうがとため息が出た。
お前がデカイのは態度だろうと呆れてモノが言えない。
夕太「雅臣はノートもう纏めてる?」
雅臣「え、まあ…」
柊が俺に話を振るので先輩達の前で拒否することもできず仕方なく頷く。
夕太「さすが!これで勉強会ができる!よーしでんちゃん詰め込むぞー!」
これではノートを貸したくないとか参加したくないなんて言えない展開になってきた。
しかもこの流れで過去問だけ見せてください、とは絶対に言えない。
梅生「皆で勉強会とか俺初めて!」
蘭世「…俺と2人でやってたじゃん」
少し楽しそうな一条さんに梓蘭世は不満気な声を出す。
また女子みたいな喧嘩が勃発するぞと身構えるも、桂樹先輩が2人の間に入ってニヤニヤしながら一条さんの肩を組んだ。
桂樹「今週は蘭世のヒスに付き合ってる暇ねーんだよ、なあ一条」
梅生 「……え、あっ、ま、まぁ…」
本人を前にしてそうですねとは言いにくいのか、一条さんが顔を赤くして口篭る。
蘭世「ヒスって何だよ!大体勉強会って言っても学年も違うのにやる意味あんのかよ」
ヒスと言われ納得がいかないのか、折角の仲裁も意味をなさず梓蘭世がキレ気味だがこれは良い兆しが見えてきた。
このまま梓蘭世がもっとキレてこの勉強会が無くなってはくれないだろうか。
過去問は最悪一条先輩に頼めば何とか貸してくれそうだしと1人ほくそ笑むも、
三木「過去問も手に入るし同学年でノートの見せ合いも出来る。蓮池には俺らが山を張ってやればいいし、お前らも分からないところはすぐに聞ける。中々有益だろ?」
桂樹「そーそ、そして俺は三木のノート丸パクリできる」
三木「リオお前……またコピーする気だろ」
笑いながら矢継ぎ早に飛び交う3年の乗り気な会話を聞いて、この勉強会が無くなることはないと確信した。
明日はどの教科をやるかで盛り上がる皆を横目に、ですよね、とため息を着くことしかできなかった。
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