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36.【馬鹿のために】



結局、昨日はスーパーの隣にあるイタリアンの店で手軽に夕食を済ませてしまった。


その後は自宅でテスト勉強をしていたが、食べたパスタの量が足りなかったのか夜中に腹が減り、本当に申し訳ないと思いつつも飾り棚に備えたばかりの鬼まんじゅうを頂戴する羽目になった。


6時間目の現代文を受けながら昨日の出来事を思い出し、今日の帰りは何があろうとも買い出しに行くぞと意気込んでいるとゴンゴンと聞き慣れた音が響く。


視線を少し下げると、目の前の柊が起きろと言わんばかりに蓮池の椅子を蹴飛ばしていた。


…しかし、本当に不味い饅頭だったな。


柊のくるくる頭を見る度に思い出すレベルだ。


斬新な味と言えば聞こえが良いが、柊の忠告通りあそこの店では鬼まんじゅう以外二度と買わないこと胸に誓う。



小夜「中間テスト範囲ここまでな〜明日からは授業なしで自習だから」



チョークを置いて手についた粉を払う担任の言葉に、身が引き締まる。もうそろそろ本格的に勉強しないとまずい気がしてきた。


自分の偏差値より低いこの山王に来てるから特段勉強に励む必要はないが、1年から成績が良いと大学の推薦が取りやすくなるらしい。


それを知って、できる限りトップでいたい気持ちが芽生えてきたのだ。


後で担任に基準を詳しく教えて貰おうと考えていると、



小夜「赤点とったら追試、それもダメなら追々試。更にお情けの追々々試やって、まあそれもダメなら留年か退学だからなー」



担任は口元こそ笑っているが、確実に今も尚最前で寝ていて何も聞いていない蓮池に向けて大声を放つ。


……大丈夫なのか、あいつは。


毎日どれだけ夜更かししてるのか知らないが、体育以外の1限から6限まで蓮池がノートを取ったり授業を聞いている姿を見た事がないぞ。


何なら教科書を鞄から出した所も見た事がないし、机の上に乗っているのも見た事がない。


これで実は天才でした、なら問題はないが柊が口癖のように言う『でんちゃんバカだから』が何だか現実味を帯びそうで怖いのだ。


それに昨日の事も含めて、蓮池の常識の無さが本当のバカなのだと証明した。


後ろから幾度となく椅子を蹴る柊の姿は幼馴染を思いやってのことなのか知らないが、いい加減放っておけばいいのにと頬杖をつきながら眺めていると終わりの鐘が鳴ってそのまま終礼に突入した。



小夜「じゃ、また明日」



担任の挨拶が終わる頃やっと身体を起こした蓮池を柊が脇から腕を突っ込んでとっ捕まえ、そして俺の方を見て、



夕太「雅臣、着いてきて」



非常に神妙な面持ちで俺を呼び止めた。





____________________





夕太「第1回、でんちゃんを退学にさせないぞの会を開きます」


蘭世「…は?」


夕太「今日のサークルの議題です」



梓蘭世の間の抜けた声が調理室に響く。


今日のサークルは前にも使用した調理室で行われているのだが、普段明るい柊があまりに神妙な面持ちでアホな議題を抜かすので集まった全員が訝しげな目で見ている。


退学が確定してるかのような言いっぷりに2年は呆れ顔だし、3年は半笑いだ。



夕太「本気なんです!……でんちゃんって本当にバカで追々試までは確実に落ちるから!……それでその次も落ちて、そのまま退学になったらSSCの人数足りなくて廃部になっちゃって、せっかく出会えた梅ちゃん先輩と俺が離れ離れになってしまう…」



蓮池が退学になる心配より、自分が一条先輩と離れる方が悲しいという途中からは自分の心配しかしていない柊を見て蓮池が舌打ちする。



三木「まあ確かに…退学は大変だな」


桂樹「真に受けんなよ三木、留年の選択もある。で、どんくらいできねぇの?」



長い足を持て余すように組み直し、桂樹先輩が尋ねると後ろ手にしていた柊が項垂れながら口を開いた。



夕太「これくらいです」



あ!と蓮池が言うより早く、柊が何故か用意周到に持ってきた蓮池の小テスト結果をトランプのように机に広げて見せた。


蓮池に奪われないよう柊が体を張って押さえ込んでいる間に、先輩たちも俺もそのテスト用紙を覗き込む。



梅生「こ、これはまた…」



どの教科の小テストも赤字でバツと0点しか書かれておらず、見たこともない数字に目眩がしそうだった。


2つか3つ、苦手な教科がありそれが赤点ならまだ理解ができる……が、こうも漫画のように美しく全てにゼロが並ぶと逆にお見事としか言いようがない。



桂樹「まあ……、解答欄全部埋めてるのは偉くね?」


蘭世「全部√2の数学見えねーのかよ桂樹さん」



桂樹先輩が優しいが故に無理やり絞り出したフォローも虚しく、数学の答案用紙を手にした梓蘭世に秒速で打ちのめされる。



梅生「こっちは勿体ないな。スペル違いだね」


蘭世 「梅ちゃんもよく見ろって、そもそも答えがちげーじゃねぇか。スペル以前の問題だろ」



英語の解答用紙を片手に優しく蓮池を慰める一条先輩も、梓蘭世が滅多打ちにした。


その場にいる全員がテストを見て、柊の言う通り、蓮池は本当に頭が悪いと理解し始める。



楓「ねぇ夕太くん、人の小テスト盗んでこうやって拡げて楽しい?」



蓮池は柊をギリギリと睨みつけるが、そんな睨みは柊は動じる訳もなく淡々と言い放つ。



夕太「俺は盗んでないよ?机の奥でぐしゃぐしゃになってたからちゃんと伸ばしてファイルに入れてあげただけ。善意のついでだよ。ちなみにテスト範囲ここからも出るって知ってた?」


楓「…それは伊藤に聞いたよ」



伊藤………あぁ、あの蓮池が花を用意したというクラスメイトか。


しかし教えてもらったからと言って、この小テストの結果的に活用すら出来ないのではと不安になってくる。



三木「よし、話を戻そう。それで柊はどうしたいんだ?」



三木先輩がやっと本題に移してくれるも、謎の緊張感に苛まれ全員が真剣に柊が口を開くのを待つが、俺だけはまたくだらない柊の思い付きだろうと小さくため息をついた。



読んでいただきありがとうございます。

読んでくださってる事がわかるととても嬉しいです!

ブクマや感想もいただけると書き続ける励みになるので、よろしくお願いいたします♪♪

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