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蓮池楓の東京log5



セリルアンタワーホテルのロビーは名古屋の同系列の

ホテルよりも飛び抜けて天井が高かった。


壁には控えめながらも上質な金箔の装飾が施され、日本の伝統と東京の洗練されたデザインが融合したロビーの一角には季節の花を活けた巨大な花器が静かに鎮座している。


夕太くんから到着がギリギリになると連絡を貰った俺は早めに着いたのもあってホテルのラウンジでゆっくり茶を飲んで待っていた。


もう着くからと連絡が入ってロビーへ移動すると、入口から走ってくる夕太くんを見つけてギョッとした。



楓「夕太くんさぁ……」


夕太「何さ」


楓「その格好、止められなかった?」



夕太くんは着替える暇もなかったのかゴスロリ伯爵の

フル装備のままだ。


濃紺のテーラードジャケットにフリル付きシャツ、膝丈のショートパンツにハイソックスと革靴。


懐中時計までぶら下げた姿で現れたせいか着物姿の俺と並ぶと有り得ないくらい浮いてる。



夕太「フランス語話してたし余裕余裕」


楓「ジャパニーズカルチャー楽しみフランス人風を

装ったんだね」


夕太「何そのサイゼみたいな言い方」



……本当にフランス人形みたいで可愛い。


青すぎるカラコンとほぼ白髪のグレーな髪がゴスロリの重厚な装いと妙にマッチしていて、まるで絵本から抜け出してきたような雰囲気だ。


コスプレみたいな違和感なんてどこにもなく、あの

ロリータ姉貴は弟の良さを引き立てる方法をよく分かってやがると舌を巻いた。



夕太「てか俺も来てよかったの?場違いじゃね?」


楓「敵と2人で飯なんて息が詰まるよ。それに向こうが

いいって言ってるんだから気にしなくていいさ」


夕太「桜山流の跡取り息子とご飯なんでしょ?」


楓「そう、それでもって応慶3年」



俺が言わんとすることが分かるのか、勘のいい夕太くんは面白そうにふーんと口角を上げる。


桜山から渋谷のセリルアンタワーの高層階にある鉄板

焼きで食事をしようと連絡が入ったが、よく予約取れたなと少し驚いた。


どうやら連絡さえすれば個室を開けて貰えるほど贔屓にしてる店らしく、あいつは俺と同じで身売りでもしてんのかと疑ったが、シンプルに格の違いを見せつけられたみたいで腹が立つ。


もし不味かったら許さないからなと考えていると、



桜山「楓くん!!」



ちょうど到着した桜山のボンクラ息子が駆け寄って

きた。



桜山「待たせてごめん……ね……、」



いそいそとこっちへ近づきながら俺の隣に立つ夕太くんを見た桜山は明らかに



〝ホテルに場違いな格好で来るこの人が本当に楓くんのお友達なの?〟



と言わんばかりに目を見開いた。


どいつもこいつも全部顔に出さないと気が済まないのかバカがよ。


それとも応慶は『感情は分かりやすく全部顔に出しま

しょう』ってアホみたいなカリキュラムでもあんのか。


例の元応慶陰キャを思い出し、こっちはこっちで何か

文句があんのか?嫌なら帰るぞって感情丸出しの顔を

してやる。



桜山「ず、随分……こ、個性的なお友達だね」


楓「あ?てめぇ___」



伝わったのか全てを飲み込み笑顔を取り繕う桜山にどこポジだと俺が声を出すより先に、




夕太「ま、雅臣!?!?」




夕太くんがロビーに響き渡る程の大声であいつの名前を叫んだ。


……はぁ?


あの陰キャ金がなくなるとビービー泣いとったくせに

このホテルに来る余裕はあるんかと桜山のバカのより

腹が立って何か一言言ってやろうと振り返る。



楓「……うわ」



夕太くんの視線の先にいたのはHARMANIの新作スーツを着込んだいかにも紳士ですけど何か?と気取り

散らかした男。


それを見て俺は口角が引き攣るのを感じた。



「い、今、雅臣って……」



完璧に整ったジャケットとネクタイにタイピンはバカ

高いプラチナのものなのに、俺たちの声に反応して大げさに目を見開くその顔まであの陰キャにそっくりだ。


俺と夕太くんは思わず顔を見合わせた。



………こいつが〝とっと〟だ。



見てるだけでイラつき鼻につくこの感じは出会った当初の陰キャとそっくりで、こいつが例の愛人作って再婚したバカ親父だとすぐにわかった。


俺の目が輝き出したのに気づいた夕太くんに背中を

ぶっ叩かれるが、夕太くんだって過去1口がにやけて

いる。


どうアプローチをかけてやろうか……。


同業者の桜山がいるというのに何故か俺はこの男に

言ってやりたいことが山ほど湧き出て、とりあえず

タイミングを伺うかとワザと上から下までじっくり

見る。


それに気づいたとっとは失礼なガキだと分かりやすく

顔に出していた。



桜山「藤城さんじゃないですか、こんばんは!」



だがその瞬間、桜山が朗らかな声を上げてとっとに頭を下げた。



……マジかよ。



桜山の知り合いかと俺の心臓はガンガン高鳴り、一世

一代の大チャンスを見つけた俺はとっとに歩み寄った。



「あ、あぁ、幸太郎くん。この前はありがとうね」



夕太くんに突然息子の名前を呼ばれて驚いたとっとは

我に返ったのか桜山だけに丁寧に挨拶をする。


次に着物を着ている俺を桜山の関係者かもしれないと

疑ったとっとは無礼な男だが仕方ないとばかりに軽く

会釈した。


もちろん夕太くんはガン無視で、あの陰キャの無意識に人を見下す失礼さはここからきてんのかとパズルの

ピースが完全にハマるような感動さえ覚える。



桜山「この方、この前できたばかりの華道会館あるだろ?それの建設者なんだよ」


「……幸太郎くんの関係者かい?」



気を利かした桜山が俺たちに詳しく紹介してくれるが、とっとは俺としか目を合わさず俺の隣にいる夕太くんは無視したままだ。



楓「………」



声まで陰キャにそっくりじゃねえか。


返事もせずにまた上から下まで穴が空くほど見つめる

とっとは不満げに眉根を寄せるが、その対応を見た桜山の方はもっと怪訝そうな顔をした。



……いいぞ、桜山。やりゃできんじゃねぇか。



〝藤城さん、楓くんに絶対失礼な顔しないでくださいね〟



と丸出しの表情をするせいでとっとに絶妙に圧がかかっとるわ。


さも幸太郎くんと名前を読んで親しさを装っているが、ボンクラ息子の親の家元の方がとっとより立場が上なんだろう。



「……え、っと、初めまして」



桜山流に失礼のないよう先に折れたとっとは夕太くんには見向きもせず俺にだけ名刺を差し出してくる。


俺に渋々声をかける姿にほくそ笑みながら、さてどう

やって一発かましてやろうかと企んだ。







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