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柊夕太の原宿log2




ポップアップ会場の狭いスペースにはトルソーが着た

星や月のモチーフが散りばめられた新作ドレスにアクセサリーがずらりと並んでいて、いちねぇの気合いが伝わってくる。


このポップアップのストレスからくる現実逃避とはいえ、いちねぇは忙しかったはずなのに俺らが文化祭で

着る衣装の下準備までしてくれたのを思い出す。



夕太「いちねぇ、任せてよ!!今日明日で俺が全部売り切れにしてみせるさ!!」



いちねぇの頑張りに応えたくて、ドンと胸を叩いて

見せた。



「……頼もしい。ね、皆で写真撮ろ?グランマが見たいんだって」


「あんたらだけメイクに衣装で私1人スタッフ感丸出し

じゃんかよ!!」



メイク道具を片付け始めたみー姉ちゃんは文句を言いつつも3人の自撮りとポップアップの様子をスマホで撮ってくれる。



「……グランマが喜ぶね」



いちねぇは嬉しそうに言うと片付け終わったみー姉

ちゃんと店内の最終チェックをしながら販売の確認を

し始めた。


いちねぇの代わりに俺が撮った写真をスマホでアメリカに住むグランマに送ろうとした瞬間、



夕太「……そういや、雅臣のグランマは?」



ふと疑問が頭をよぎってそのまま口から出てしまった。


よくよく考えたら色々あったとはいえ高校生がすぐ

名古屋で1人暮らしになるか?


グランパとかグランマのとこに住むみたいなそういう

流れを経てからじゃね?



夕太「……ん?」



親戚の話なんて雅臣の口から一言も聞いたこともないよと首を傾げた。


雅臣の母ちゃんって…確か37とかで死んだんだっけ?


大須で蘭世先輩たちとクレープを食べに行った時に母親の年齢の話題になって……。


雅臣は今16だから……。



夕太「えええっ!!!若くね!?」



俺は思わず大声を上げてしまった。



「うるさいなぁ!!何なの夕太!!」


夕太「ご、ごめんって!でもでもっ!!」



打ち合わせしている2人に睨まれちゃったけど、それ

どころじゃない。


だって雅臣の母ちゃんが21の時の子ってことなら、

親はワンチャン学生時代にデキ婚したってことじゃん!!


でもでも、雅臣の母ちゃんが短大卒とかなら学校出て

直ぐにとっとと結婚したとかの可能性もあるわけで……。



てか、そもそもとっとは今何歳だよ!?



名古屋に帰ったら絶対雅臣からさりげなく親の年齢を

聞き出そう。


そんでこの後でんちゃんと合流したら、この気になる話を絶対にしないと!!!


こういう絶妙なネタはでんちゃんに限ると思いながら、俺は育ちの悪いもの同士、雅臣にますます親近感が湧いてしまった。


世紀の発見に興奮しすぎてストローの刺さったペット

ボトルの水をチューチュー吸ってしまう。



ふふふふふふ。



雅臣ってば俺と同じデキ婚の末の子だったのかー。


まだ確定とは言えないけど、やっぱ雅臣も俺と似て

イロモンだったんだな。


俺たち仲間じゃん!


そう思うと前よりもっと友達らしい気がして、名古屋に帰ったら直ぐに雅臣の家に遊びに行こうと決めた。


それにしても、それなら何で雅臣はあんなズレた自認になってたんだろ?


あの頃の雅臣は伝説のとっとの著者近影に通じるものがあって、



〝誰よりも気高くて品のいい家庭で育った俺ですけど

何か?〟



ってくらい気取り散らかしてたよな。


つい鏡の前でとっとのポーズを決めてみるが、やっぱ

これだけは無いと涙が出そうになるくらい笑ってしまった。


これ以上笑ったらメイクが崩れてきちゃうと無理やり顔に力を入れるけどマジで笑い死にしそうでヤバい。



___大体さ?



三木先輩はカメラマンに乗せられたからって言ってた

けど、まともな人ならこんな変なポーズで著者近影を

OKしないんだよね。


それにとっとが名家出身なら学生結婚なんて有り得ないし、母ちゃんの葬式が済んで速攻愛人と再婚話をする男なんてただの成金なんじゃないの?


もうすぐ開店するというのに俺はでんちゃんが乗り

移ったみたいに次から次へと思考が渦巻く。


それにさぁ。


ロクデナシ成金のとっとがちゃんと息子に関わってこなかったから、雅臣が悩みまくって泣いちゃったんじゃないか。


雅臣の自認がずれたのはとっとの責任と思うとだんだん腹が立ってくる。


可哀想な雅臣はボッチどころか原宿も新大久保も、

ゲーセンとかプールみたいに若者が遊ぶような場所すら行ったことなかったんだよ。


そんな雅臣は今頃何してるんだろうとスマホを手に取りTmitterを開いてみる。



……あれ、2日前から音沙汰無し。



いつもならパンの写真が上がってるはずなのにどうしたんだろう。


もしかして、また風邪ひいたとか?


雅臣はああ見えて風邪引きやすそうだし、名古屋帰ったら1番に電話かけてあげないと。


だって俺たちは友達だもんね!


明日バイトが終わったら東京人なのに原宿にも行った

ことのない雅臣へ何かそれっぽいお土産を買っていこうと決める。



……そうだ。



俺も帰りに原宿っぽい食べ物摘んじゃおうかな。


でんちゃんの敵情視察が終わったら原宿の方来てもらって、すんごいカラフルなでっかいわたあめとか食べるのもいいよね!!


そしたら人生で1回も原宿に行ったことがない奇跡の男、雅臣に写真送ってあげよう!!



「夕太、最後にリップ直すよ」



打ち合わせも終わって会場まであと5分ってとこで、

水の飲みすぎで取れかけたグロスをみー姉ちゃんが

直してくれる。



「相変わらず夕太はこういうの似合うね。でんのバカは最初絶対夕太のこと女だと思ってたろうよ」


夕太「えー?どーだろね?」


「よーし、完成!!これで完璧気品に満ち溢れた王子の出来上がり!」



どう?とみー姉ちゃんは俺の肩を掴んでくるりといちねぇに見せると、満足げにぐっと親指を突き出してくれた。



___気品、ね。



お客さんの前に立つならと全身鏡でもう一度自分を振り返るけど、ただ服が可愛いだけでそんなもんはとても見受けられない。


俺と違ってでんちゃんは口も態度も1級に悪いけど、

やっぱりどっか品があるんだよなー。


でんちゃんはどんなに見た目を派手にしてもコスプレ

みたいにならないし、気持ち悪いおばさん達を侍らしていてもホストに見えることはない。


生まれながらの育ちの良さから滲み出る品性はどうしたって損なわれないんだよなぁ。


花を生ける時なんか顕著に仕草に気品が溢れていて、

伝統あるものを背負ってる風格が見えるんだよね。



「……夕太、開店」


夕太「はーい!」



ラフォーラ原宿が開店したことを知らせる音楽が流れたと同時に、ちょうどポケットのスマホが鳴ったので音量をオフにしようとしたら、



夕太「あれ、でんちゃん」



でんちゃんからのチャットが連続で送られてきてた。



〝夜同業者もご飯に来ることになった〟


〝仕事関連で話さないとなんだよね、ごめんね〟


〝終わったら渋谷のセルリアンタワーに来れる?〟



急いで内容を確認するけど、これって俺もいていいの?


……ま、いっか。


俺がでんちゃんとご飯が食べたいし、その後雅臣のことも話したいもんね。



夕太「どうぞゆっくり見ていってくださいね」



いちねぇのポップアップを目当てに階段に並んでいた

お客さんが次々と店内に入ってきて、俺は夜を楽しみに接客を始めた。




本日も小話!

明日からは楓視点の小話に戻ります✨️

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