3.【追いかけては来たものの】
夕太「俺はちゃんと入口を聞こうって言ったよ」
「しょうがないよもう開けちゃったし」
雅臣 「おい!!」
ダッシュで追いかけ、やっと追いついた俺は立ち呆ける2人を見つけた。
そのままおかっぱ男の肩を勢いよく掴んだ……が、痛いくらいの視線を感じ前を向くと扉が全開になっていることにたった今気がついた。
体育館にいる父兄、新入生一同、全員が後ろを振り返りその全ての咎められた視線の先に俺達がいた。
ヒソヒソと困惑した小声が聞こえ始める中、怒りに燃えて真っ赤な顔をした教師の1人が早足にこちらへ向かってくるのが見える。
____うわ。
俺、もしかしなくても叱られるのか?
教師から叱られたことなんて今までないが、遅刻はさておき式を台無しにしたとかなんかで、流石に親に連絡が……
いや、それが理由でこっちに連絡が来たとしても無視すればいいのか。
やはりあの時、校門前でさっさと引き返せば良かった。
そうすれば今頃こんな事にはなっていなかっただろう。
できるだけ面倒な事にならないよう、おかっぱ男の肩を掴んだ手をそっと離す。
気が滅入る俺の前で、未だに2人は呑気にべらべらと話し続けているが視線も怒りも全く気にならないその度胸には称賛を送りたいものだ。
「そこの新入生達!」
壇上から突然、マイクに響く拍手の音とともに高らかな声が聞こえた。
「皆様静粛に。今から新生徒会長のアタクシが送る歓迎の言葉の時間よ。そこの君たち3人はそのまま静・か・に・後ろに立ってなさいね」
その出で立ちに俺達への注目は完全に逸れ、全ての意識が前に向いた。
新生徒会長とやらは壇上からシッシッと俺達を手で追い払うと同時に、怒りに燃えすぐ近くまで来ていた教師に、早くここに並べ!と指を差し睨まれる。
その指示に従い壁沿いに、俺、夕太、おかっぱと3人並んで立たされた。
先程までの全ての感情は、聞こえてくる新生徒会長の話し方にかき消された。
それもそのはず。
………余りにもそちらの。
…………そう、そちらの方ではなかろうか。
この学校の生徒会長ということは紛うことなき男ではあるが、サイドにゆるく寄せた三つ編みは俺の髪を優に超す長さがある。
更に言えば、遠目に見ても背もかなり高いが、一人称や語尾がどうも気になる話し方で、動作の一つ一つが目についた。
生徒会長の風貌がこんなにも気になるのは俺だけなのかと周りを見渡せば、同じように眉根を寄せて怪訝な顔をする保護者や呆気に取られる新入生の顔がちらほら見えた。
そうだよな、気になるよな。
ふと『寛容な校風』と謳う学校案内のパンフレットを思い出したが、ここまで寛容なものか。
……そうか、これが流行りの多様性ってやつか?
いやそんな事はどうでもいいじゃないか。
気を取り直して真剣に話を聞こうとするも、黙ることを知らないのか出来ないのか横に並んだ2人のヒソヒソ声が聞こえ始める。
夕太「…でんちゃん、本物だね」
「あれは本物だね。これじゃ誰かさんが時代劇のコスプレに見えちゃうなあ」
夕太「やめなよ、大河ドラマが好きなのかもしれないだろ」
絶対俺のことだな。
2人を視界にこそ入れていないがもうわかる。
また見当違いな俺の話をしているのだと。
話を集中して聞こうにも明らかに俺の事を話しているので気になって仕方がない。
チラ、と視線を横に移すと、
夕太 「多分V系?ってやつを目指してるんだと思うんだよね、俺にはわかる」
ねー?と夕太がニコニコ笑いかけていたが、俺は口角が引き攣るのがわかる。
勘弁してくれよ。さっきから的はずれなことばっか言いやがって。
こっち見んな。
夕太 「バンドとか…」
「違うよ夕太くん、ただ周りの気を引きたいだけなの」
おかっぱ男の返答が再び俺の癇に障る。
雅臣「おい、そんなこと一言も言ってないだろ」
「は?お前に話しかけてねぇよ自意識過剰かよ」
夕太「もう、すぐこうなる」
再び鼻で笑うおかっぱ男を睨みつけると、呆れ顔の夕太がその腕を引っ張り止めろと牽制した。
「黙って前向いてろよ」
自分の口角が引き攣り収まった怒りが蘇る。
雅臣「いい加減にしろよ!俺が何を_!」
夕太「___あっ!!ちょっと!!退いて!!見えない!!」
おかっぱ男の前に進み出ようとした瞬間、その間にいる夕太は突然大声をあげ俺を突き飛ばした。
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