蓮池楓の東京log3
___大体だな。
〝嫁が死んだので元いた愛人と再婚します。そんで息子が嫌がったんで即名古屋で1人暮らしさせます〟
になるわけないだろうが。
一旦会場内に設置された椅子にドカッと腰を下ろして、LOEVEのフラメンコからペットボトルの茶を取り出した。
この際だから陰キャの整合性の無さをを1つずつ紐解いていくことにしようと茶を呷りながら一息つくと、すぐにあのアホみたいに広い陰キャのマンションが頭に浮かぶ。
まず腐っても応慶出身の一人息子だってのに、とっと(笑)が名古屋に追いやる奇行を親族は誰1人として反対しなかったんか?
ここがもうおかしいんだよ。
双方のジジイとババアはどうした。
食堂で聞いた支離滅裂な話を思い返してみても母親の
見舞いにせっせと行ってたのはあいつだけで、今まで
あいつの口から祖父母の話なんて一言も出たことがない。
……嫁側の親が一切出てこない理由なんて1つ。
とっと(笑)と駆け落ち同然で結婚して実家から絶縁
された、それしかねぇ。
頭の中で思い切り眉根を寄せた夕太くんが、
『でんちゃん、それほんとなのぉ?』
と怪訝そうに聞いてくるが本当だっての。
あの陰キャを見ていたらよう分かる。
見てくれはとっと(笑)にそっくりだけど中身は確実に母親の生き写しなんだよな。
あいつの変に品があってバカみたいに素直に何でもかんでも信じてしまうとこは、亡くなった母親から遺伝した資質だろ。
きっと母親は良いとこの箱入り娘で、あまりにも純粋
培養に育てられて世間知らずだったに違いない。
そんで何にも疑わずに恋して信じたのがとっと(笑)
だった……に決まっとるわ。
あの陰キャが桂樹にハシャぐ姿とまるっきり同じ構図で、つい鼻で笑ってしまった。
大恋愛の末に実家と揉めに揉めて絶縁までしたなんて
アホとしか言いようがないが、あんなイキりHARMANIジジイのどこに魅力があったのか。
頭の中の夕太くんが、
『でんちゃんさぁ……何を根拠に言ってるんだよ』
とまた口を出すけど、俺の直感がそうだと言ってるん
だから間違いないってと1人頷く。
とてもあのとっと(笑)が陽キャだったとは思えず俺はスマホの写真フォルダに入っているあの伝説の著者近影をアップにした。
いつ見てもとっと(笑)は品がねぇな……。
このオジに足りないのは品だよ、品。
自分にはない家柄を手に入れたくてあいつの母親と結婚しただろうに、さっさと愛人作って死んだらそいつと再婚しますだなんて何をどうしたらその選択になるんだ。
楓「はぁーーーーーっ」
1度考え出したら連想ゲームみたいに頭が止まらなくなるのは自分の悪い癖だが、まぁ、いいと会場を見渡すと
目の前の黒い花器に活けられた一輪の椿が目に入った。
___これこれ。
これこそ、品性の塊ってもんだわ。
自分には無いものを最初の結婚で手に入れたつもり
だったんだろうけど、そもそも品性なんて時間をかけて育てるものだっての。
この作品のようにどっからどう見ても品があって、
〝俺は生まれも育ちも元々良いですけど何か?〟
ってしたかったんだよな。
それを自ら台無しにするなんてアホだわぁ。
モテてますけど何か?
ブイブイ言わせてますけど何か?
良い男ですけど何か?
そうやってスマートに気取り散らかしてたはずが、愛人との生活を優先して息子を名古屋に厄介払いするなんて愚の骨頂。
アホだわぁ……。
アホ丸出しだわぁ……。
本懐を遂げずしてどうするんだ。
結局とっと(笑)は自ら育ちの悪さと品性の無さを証明したことになってしまって、詰めの甘さにせせら笑ってしまう。
やっぱりモテずに青春を謳歌できなかった陰キャが急に金を手にして成金になると潜んでいた化け物みてぇな
承認欲求が溢れ出て仕方ねぇんだな。
あいつの家の諸事情と相変わらずのとっと(笑)のアホさを整理し終えてスッキリした俺は後でこの話を夕太くんに教えてあげようと決めた。
『全く……でんちゃんはいつだって1人悪口掲示板
なんだから……』
そんな声がどこかから聞こえる気がするが、夕太くんは絶対興に乗るだろうと立ち上がる。
ちなみにこの品性の塊は誰の作品だと札に目をやれば
桜山んとこのボンクラ息子のもので思わず眉間に皺を
寄せた。
楓「……上手いわ」
研ぎ澄まされた美しさは自分とは真逆で、俺と同じ立ち位置のボンクラ息子は陰キャと同じくらい平和ボケしてるのに生まれも育ちも天下一品の男だった。
明日も小話!
続きます✨




