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蓮池楓の東京log2



ハゲとババアは一旦荷物を置きに東京駅からタクシーで国帝ホテルへと向かい、俺と夕太くんは別のタクシーに乗り込んだ。


夕太くんを原宿ラフォーラの前で降ろすと、



夕太「でんちゃん、今日の夜ご飯一緒に食べようよ」



と振り返ってニコッと笑った。



楓「いいよ。また連絡して」


夕太「おけ!敵情視察ファイト!」



窓から夕太くんに小さく手を振り返し、俺はそのまま

タクシーを渋谷のストリーミングホールへ走らせた。


桜山流の会場は渋谷駅直結のホール。


しかも4階のエントランスから5階のホワイエ、6階の

フラットホールまで使って展示するなんてほんと派手にやりやがる。


金山の湿気た会館のエントランスで細々とやってる俺とは大違いで、あの耄碌こいたジジイも俺にでかい面するならもっとマシな会場抑えてこいっての。



楓「……クソがよ」



苛立ちながらタクシーを降りて、そのままホールのエレベーターに乗り込んだ。


4階の会場に足を踏み入れた瞬間、



楓「おぉ……」



花の香りがふわりと鼻をつき計算し尽くされた花々が

目に飛び込んできた。


入口の白い芍薬は朝露のように照明を反射し、濃紫の

菖蒲が静かな威厳を放っている。


一見穏やかな美しさなのにその奥には都市の鼓動を閉じ込めたような力強い生命力が脈打っていて、さすが

名を馳せてる流派なだけあると感心する。


それに渋谷という場所のせいか、訪れる人は明らかに

華を目当てに足を運んだ年配の客だけじゃない。


デート中のカップルもいればスーツ姿のサラリーマンもいて、思い思いに作品の前で立ち止まり解釈を重ねている。



〝華は人々の心を繋ぐ橋〟



大層な理念を具現化しているだけあるな……。


会場を進むにつれ、いけばなの配置はより大胆にかつ

繊細になっていく。


中央に鎮座する大作は巨大都市を彷彿させ、鋭角に切り取られた枝と鮮やかなカラーで彩られた花々がビルの灯りのように交錯している。


桜山流の作品はどんどん現代に馴染むようアップデートしているようで、俺は少し焦りを感じた。



……こういう感覚を取り入れていかないとダメだよな。



どの花も静かにそこに在りながら訪れる者の心を掬い

上げ、都市の喧騒や個々の人生の断片も全て受け止めてくれるようだった。


この感覚を俺自身も作品で表現できるようにならねぇと。


4階の圧倒的な作品に小さく息をつきながらエスカレーターで5階に上がると、先程までの鮮烈な感性とは打って変わった硬派な美しさに心を奪われた。


花々の配置は整然としていて、まるで定規で測ったような厳格さが漂う。



楓「階ごとにテーマがちげぇのか……」



5階の作品は遊び心を一切排除して、伝統を重んじる姿勢が花一輪一輪に宿っている。


皆伝から教授レベルの作品が中心だと囁く周囲の声に

ようやく納得がいった。


ついウチの杖ばっか振り回す朦朧ジジイの作品と比べてしまうが、あいつはバカみたいに派手な花ばっか生けやがってどういうつもりだ。


たまにはハゲ息子の髪と一緒に全てを削ぎ落とした生け花を見習えってのと呆れながら順路通りに進めば、

ふと鮮やかなレモンイエローのガーベラが目に入った。


花器に活けられた5輪のガーベラはまるで子供たちが輪になって笑い合うように生き生きしている。



___夕太くん、今頃頑張ってるかな。



太陽の光を閉じ込めたような花の明るさに、俺は1番に

夕太くんの顔が思い浮んだ。


あのロリータ姉貴の監修で変な衣装を着せられてるのは癪だが、きっとそれはそれで似合うだろうし一目見たい。


明日も午前中はポップアップの手伝いをするって言ってたし、一緒に帰りたいから覗きがてら差し入れでもしようかな。


この前だって俺の展示見に来てくれて、前日には差し

入れも渡しに来てくれて。


俺は夕太くんのそういう気遣いの出来るところが__。



楓「……そうか」



こんな風に作品を見て大切な誰かが思い浮かぶ。



そういう作品を俺も作らないといけないよな。



敵情視察のつもりが桜山流の作品を見て得られる感覚が多すぎて、こういう感性は習うもんでもなく自分で

培うしかないと己の未熟さに苛立った。


名古屋に戻ったらひたすら精進するしかないな。


そのまま人の流れに沿って歩くと、今度はフロアの奥に静かに佇む百合が主役の作品に目が留まる。


その瞬間、華展での陰キャの悲壮な顔が脳裏に蘇って

でかいため息が漏れた。



あれは……まぁ、しくったわ。



俺の家は毎年墓参りに行く習慣があるが、世の中には

それがない家もあるし、何よりあいつが母親への複雑な感情抱いてるのは周知の事実。


盆を忘れたくらいで自分をめちゃくちゃに責めるのが

もう目に見えて、大袈裟な野郎だと思いはしたが言い

出したのは俺だった。


その責任は取らねばならないと大急ぎでお供えの花束を作ったわけだが……。


あのバカを思い出したらだんだんムカついてきたな。


そもそもだな。


あいつも意を決して名古屋に来たんなら墓参りなんか

行かないくらい言い切りやがれ。



楓「……クソがよ」



それにあいつの家庭の事情は何度整理しても謎だらけだ。


おかしい点が500はある。


百合の花を前に俺はあの野郎から聞いた話の不自然な点を休憩がてら1つ1つ掘り下げていくことにした。



本日も小話!

続きます✨️

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