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262.【謎めいた美青年】




___し、し、しまった!!



俺はどうしてこうもミーハーなんだ……!!!


CGみたいな綺麗さについぽろりと本音が出てしまったが、



「え、えっと……ありがとう?」



その人が不思議そうな顔で首を傾げる様子を見て、

今度は俺が思わず瞬きを繰り返した。


もしかして、この人自分が綺麗っていう自覚がないの

だろうか? 


いきなり俺が変なことを口走ったからかと一瞬考えるがどうも違う気がする。


明らかにきょとんとしていて、この人は一体何者かと

失礼ながらもジッと見つめてしまう。



修司「せやろ?なんてったっていくは絶賛恋しとる

からなぁ……」


「ちょ、修司さんからかわないでください」



呉さんが肩をすくめてニヤリと笑うと、目の前の美しい男性は少し膨れた顔を見せた。



修司「すまんすまん!藤城くん、この子な、ウチで

バイトしとる郁巳(いくみ)。いく、名刺渡したって」



……。



………バイト!?



雑誌のページから飛び出してきたような雰囲気さえあるのに、ただのバイトだなんて信じられないぞ!?


凝視しているとその美しい人は呉さんに言われた通りにレジカウンターの横に置いてある名刺を俺に手渡した。



『STAFF 赤木郁巳(あかぎいくみ)



受け取った名刺を見て、確かにこの店のバイトだと

知って目を見張る。


郁巳さんがぺこりと頭を下げた瞬間、店内の照明がその髪に反射してまるで光の輪が浮かび上がったように見えた。



き、綺麗だ……。



俺はまたつい見惚れてしまうが、頭の中で蓮池と梓蘭世に怒鳴りつけられる幻覚が浮かんで慌てて目を逸らす。


でもまぁ、ここはただの服屋じゃないもんな。


店内に視線を巡らせると赤木さんのような綺麗な人が

バイトとして雇われるのも意味があるように思える。


ディスプレイされた服はどれも洗練されていて、ハイ

センスなこの空間で働くならただのバイトでも美しさが求められるのだろう。


ここのスタッフは店のイメージを体現し、服を魅力的に見せるための生きる広告塔みたいなものだ。



修司「えーっと、ほんでこちらは三木プロの……」


雅臣「あ、藤城雅臣です!俺もバイトで……」


郁巳「………三木プロ?」



赤木さんは静かに呟きながら少し目を細めてジッと俺を見つめる。


何やら内側を探るようなその視線に一瞬たじろぐが、

呉さんがカウンターの後ろから紙袋を差し出した。



修司「藤城くん、ほなこれ春樹くんに渡したって」


雅臣「わかりました。それでは俺はこれで……」



受け取った紙袋を手に、俺はこのまま買い物に行って

しまおうとポケットからメモを取り出す。


急いで目を通すが、そこには欲しいものと店名が殴り

書きされているだけで、この入り組んだ大須のどこなのかが全くわからなかった。



雅臣「あの…お忙しい中申し訳ないんですけど」


修司「ん?どした?」


雅臣「このお店ってどこにあるか分かりますか?」



大須に店を構えてるくらいだからきっとここら辺の地理にも詳しいよな。


それでも分からなければ一つ一つスマホで調べるしか

ないとメモを見せれば呉さんが眉を上げた。



修司「これはまたコアな店ばっか……藤城くん、

大須詳しいん?」


雅臣「いや、俺名古屋に来たばかりで全然分からなくて……」


修司「あー、そしたら…いく!」



呉さんが店内の服をたたみ直している郁巳さんに目を

やった。



修司「休憩前に藤城くんこのメモの店案内したり!」


郁巳「え?」


修司「タイムカード切らんでええから!な!」



赤木さんは少し戸惑いながらも頷いてくれ、呉さんから俺のメモを受け取る。


さすがに申し訳ない気持ちもあるが、俺だけでは確実に迷子になり天晴さんに頼まれた買い物ミッションをこなせない。



雅臣「すみません、よろしくお願いします」



と頭を下げれば、微笑みながら赤木さんはうんと頷いてくれた。



______


____________





雅臣「ありがとうございました!本当に助かりました…」


郁巳「いえいえ、お役に立ててよかったよ」



この前柊が教えてくれたように大須には大通りが3本あるのだが、その1本ずつの合間に指定の店が1店舗ずつあり、俺だけではとても見つけれない場所ばかりだった。


中には看板すら出ていない店もあって、赤木さんがいなければ俺は天晴さんに怒られるところだったと胸を撫で下ろす。


そして俺たちは今、〝鯛福茶庵〟というたい焼き屋さんのベンチで鯛焼きを摘んでいる。


というのも、昼休憩無しで動いていた俺の腹が買い物を終えた途端に盛大に鳴ってしまったのだ。


腹の音に気づいた赤木さんが、俺の疲れた顔色を伺って少し休もうとこの店を案内してくれた。



雅臣「美味しいです……染み渡ります……」


郁巳「ふふ、よかった。ここの鯛焼きが1番美味しいん

だよ」



ふわっと微笑む赤木さんのこの落ち着いた雰囲気はどこか一条先輩と似ていて、初対面の人とはいえあまり緊張

することなく過ごせている。


今度一条先輩にもこの鯛焼き屋を教えてあげようと1口

頬張ると、



郁巳「三木プロダクションでバイトしてるんだっけ?

今日は荷物の受け取り頼まれたの?」



赤木さんがふと思い出したように訪ねた。



雅臣「受け取りはついでと言いますか……実は今日、

二階堂さんのモデルを決めるオーディションがあって

その付き添いできたんです」


郁巳「へぇ、そうだったんだ。今回のコンセプトって

若者のフラストレーションだっけ?無事三木プロから

モデルは決まったの?」



………。



若者のフラストレーションって……。



頭の中で鬼神のような梓蘭世を思い出して、鯛焼きが

喉に詰まりかけた。


そりゃ梓蘭世がメインで決まりのはずだと急いで

ペットボトルのお茶で喉を潤し先程のオーディションを思い返す。


会場にいた梓蘭世の目はまさにそのコンセプトを体現

するような抑えきれない感情が宿っていて、二階堂さんはその一瞬を見逃さなかったんだろう。


追加で衣装が決まった理由がようやくわかり俺は静かに頷いた。



雅臣「はい、三木プロからは梓蘭世に決まりまして」


郁巳「蘭世?」



つい口をついて出てしまったその名前に、赤木さんは

驚いたように目を見開いた




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