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28.【2度目の救世主】



蘭世「…梅ちゃんも東京だよな!」



少しの沈黙の後、梓蘭世は俺の話をなかったことにして突然一条さんに話しかけた。


強い目で確認するように問いかける梓蘭世に、一条さんは驚いて困ったような表情を浮かべるだけで何も答えない。



蘭世「何、その間。梅ちゃんまさか変わってねーよな?」


梅生「い、いや…その…」


蘭世「一緒の大学行こうって約束したじゃん」



一条先輩が自分の望み通りの反応をしないことが気に入らないのだろう。


みるみるうちに梓蘭世の口元は歪み、不機嫌そのものとなっていく。


いや、それにしても一緒の大学に行こうだなんて…

本当に一条さんにべったりなんだな。


それぞれ希望の学部とか、偏差値の違いとか色々あるのにそんな簡単にはいかないだろ。


約束したのがいつかは分からないが、当時は良かったとしても今はやりたい事だって別にあるかもしれないのに。



梅生「もっと地方とかでもいいかなって…」


蘭世「は?そんな事聞いてない。いつ決めたんだよ」



焦れて言葉を被せる梓蘭世を見て、そんなに怖い顔で問い詰めなくてもと一条さんが気の毒に思えてくる。


柊も蓮池も敢えてスルーしているし、三木先輩もやれやれと肩をすくめるだけだ。



梅生「蘭世は頭いいし…ほら、芸能もさ、」



柊も一条さんを慕ってるならこういう時こそフォローしてやればいいのに何で無視してるんだよ。


ただでさえ色白の一条さんが顔面蒼白じゃないか。


梓蘭世に言いたいことが上手く言えないその姿がまるで蓮池に言われっぱなしの自分と重なりあまりにも哀れで、仕方なく助け舟を出した。



雅臣「そ、そうですよ。梓先輩はどうせ芸能界に戻る身ですし東京で活躍___」



できる限り穏やかな声色で遠回しに上手く伝えようとするも、言い終える前に突然割れるような激しい音が響き、その反射で目を瞑る。


驚いて恐る恐る目を開くも転がった椅子を見て、仁王立ちする梓蘭世がそれを蹴り飛ばした音だと気が付くのに数秒かかった。



蘭世「お前一々口出してくんなよ、何様のつもりだ?」



割と楽しかったパーティーは、一瞬で梓蘭世の激昂に呑まれて重い雰囲気となった。



蘭世「何も分かってねぇ野次馬野郎のくせにあんま調子乗んなよ」



罵声を浴びせながら俺を睨みつけ、胸倉を捕む梓蘭世に息を呑んだ。


絶対殴られる!と凍える思いでいると、



「おいおい蘭世、そんなに後輩虐めんなよ」



ドアの開く音と咎める声に振り向く。



蘭世「…うるせえな…何しに来たんだよ」


「何って…まあ別に、すげえ音したから気になって?」



金髪を靡かせ颯爽と現れた声の人物は桂樹先輩だった。


桂樹先輩は、梓蘭世にその手を離せと命令する。



桂樹「はいはいご機嫌ななめな蘭世ちゃん、俺がちゅーしてやるから機嫌直せって」



突拍子もないことを言った桂樹先輩は真正面から梓蘭世の小さな頭を左手で掴んだかと思うと、いきなり相手の耳をべろりと舐めた。


その瞬間、梓蘭世の狂ったような悲鳴が調理室に響き渡る。



蘭世「桂樹さんほんと嫌い!!触んなよ汚ねぇな!!歩く病原菌!!下品!!」



梓蘭世はそう叫んで桂樹先輩を押し退け、自分の鞄を引っ掴み走ってそのまま教室を出て行った。


退けよ!と廊下から梓蘭世の当たり散らかす声が聞こえると同時に、桂樹先輩は腹を抱えて爆笑する。



三木「…リオ、相変わらずお前は蘭世の気を逸らすのが上手いな」


桂樹「お前があいつの手綱しっかり握っとけよ下手くそ」



三木さんに軽口を叩きながら桂樹先輩は俯く一条さんの背中を叩いた。



桂樹「おいおい一条、蘭世のヒスなんか気にすんなよ。大体ほんと女々しいんだよあいつ」



…………そうだよな。


感情に任せて怒ったり拗ねたりする梓蘭世が女っぽいと思う俺の感覚は間違ってなかったんだと安堵する。


しかし、今も尚落ち込む一条さんを見ると俺が余計な口出ししたせいでパーティーが台無しになってしまったんだなと少し落ち込む。


何故口を出してしまったんだ。


見て見ぬ振りの柊や蓮池が正しかったのかよ。



桂樹「てかおい!何お前らピザなんか食ってんだよ俺にも寄越せ」



桂樹先輩は急に俺の肩を組み、皿から冷めたピザを取りながら気にすんなと小声で耳元で囁いた。


慰めの言葉を貰えるとは思っていなくて驚き桂樹先輩の顔を見ると、にっと音がしそうなくらい白い歯を剥き出しにして笑う。


先輩は暗くなったその場を盛り上げるようにやべぇだのうめぇだのと明るい声を上げ、柊がこちらもオススメですよと別のピザを進める。先程の雰囲気が少し戻ってきた。


その場に居るだけで明るくなる人って、桂樹先輩の様な人を言うんだなと実感する。



三木「で、リオ。何しに来たんだ?」


桂樹「んー?普通にお前の様子見に来た」



指についた粉を舐めながら次のピザを物色する桂樹先輩に本当のところは?と三木先輩が再度尋ねる。



桂樹「三木んとこどうなってるか生徒会に何回も聞かれててさ、しつこいのなんの。で、人数は集まったのかよ」



生徒会長がお前のこと心配してたぞと桂樹先輩が伝える。


あの多様性の権化の様な人を頭に浮かべていると、三木先輩が口を開いた。




読んでいただきありがとうございます。

読んでくださってる事がわかるととても嬉しいです!

ブクマや感想もいただけると書き続ける励みになるので、よろしくお願いいたします♪♪

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