246.【大人になりたい】
いつも飄々としていて、友達関係や勉強で悩むこと
なんてなさそうな先輩が息苦しい……?
三木「俺にとっての基盤は、仕事や芸能事務所。そこに所属する自分なんだ。芸能界との交流がもう骨の髄まで染み付いてる」
そう続ける視線は貼られているポスターに向けられて
いて、まるでそこに自分の居場所があるかのようだった。
三木「学校なんて飛び越えて、俺は早く大人になりた
かった」
雅臣「……」
三木「3月でやっとこの制服を脱げると思うと___」
三木先輩は早く子供の象徴を脱きさりたいとばかりに、窮屈そうに制服のポロシャツの衿元を引っ張った。
もどかしそうなその仕草に、俺は言葉を失ってしまう。
先輩は学校や自分の些細な悩みなど脇に置いて、とうに芸能界という世界に生きてずっと効率を追っている。
三木「……こんな話は雅臣にとってどうでもいいだろ?だから〝無駄〟と言ったのは、俺にとっての話でしか
ない」
三木先輩はそう言いながら、片手で眼鏡のブリッジを
押し上げた。
どうでもいいだなんて思ってもいないが、何故かその
言葉が喉の奥で詰まり、反論するタイミングを逃してしまう。
三木先輩ふっと息を吐き、姿勢を正すと改めて俺に向き直った。
三木「お前にとっては大事なことなのもわかってる。
だからさっきの言葉、本当に悪かったな」
雅臣「い、いやいやいや!!」
先ほどより柔らかい声で、誠意の込められた謝罪に俺は慌てて首を振った。
三木「……でも、俺は最近初めて学校が楽しいと思う
ようになったぞ」
雅臣「え!?」
三木「成り行きでお前たちと出会ったが……お前たちは俺をただの先輩として接してくれる」
気が楽だと笑う先輩を見て、ふと、俺はあのあだ名を
思い出した。
〝三木プロ〟
プロダクションの息子だからという意味だけではない。
高校生らしくない、全てを完璧にこなし、芸能事務所で仕事までする先輩についた少し皮肉も込められたその
呼び名。
でも___。
雅臣「あの!!……ずっと三木先輩はプロのままでいてください!!」
三木「……?」
雅臣「いや!えっと、」
突然、何を言ってるんだという顔をされるが、急いで
足りない言葉を付け加えた。
雅臣「俺はいつか今の大人っぽい三木先輩みたいになりたいです!」
4月に初めて会った時は近づくのも怖かった。
あの頃の俺は自分を過信しすぎていて、何でも自分1人でこなせると本気で思っていた。
成り行きとはいえ、SSCに入らなければあの勘違い野郎のままだったと思う。
きっと三木先輩のことだって、冷たいだけの大人びた
3年生と表面だけなぞってその心を理解しようともしな
かっただろう。
でも、本当の先輩は部長の俺の足りない部分を黙って
補ってくれたり、こうして無駄な話でも時間を取って
聞いてくれる優しい人だ。
鈍い俺にも分かりやすいように噛み砕いて丁寧に説明
してくれる。
雅臣「要領の悪い俺からしたら三木プロって呼ばれる
なんて憧れでしかないです!!だから俺は三木先輩が
大好きです!!」
自分でもびっくりするほどストレートな言葉に顔が熱くなる。
三木先輩は一瞬、目を丸くして、それから柔らかく
笑った。
三木「そうか……嬉しいな。俺は後輩には好かれない
タチだからな」
その声には、どこか照れたような、でも本気で嬉しそうな響きがあった。
雅臣「俺だけじゃないです。蓮池も柊も、三木先輩のこと好きだと思います」
俺も嬉しくなって2人がちゃんと一目置いてることを
一生懸命伝えた。
やっぱりこうやってちゃんと話さないと、人のいい所
って見えてこないよな。
今日ここに来て良かったと喜びに浸っていると、先輩はふっと息をつき俺をまっすぐに見つめた。
三木「ありがとな。色々と逸れてしまったが……
とりあえず雅臣は成績アップと大学選びからだな」
話があちこちに飛んでしまったけど、自分の忙しない
心がようやく落ち着いた気がした。
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