245.【俺の話はただの愚痴…?】
三木「要するに、お前はただ不満を言いたかったんだろ? 今の環境、これから起こることへの不満を誰かに
ぶちまけたかっただけなんだ」
淡々と話す先輩は口元に軽い笑みを浮かべつつもその目は真剣で、自分でも顔が赤くなったのが分かるくらい
猛烈に恥ずかしくなった。
これでは俺の話なんて悩み相談でもなんでもなくただの愚痴だと言われたようなものだ。
先輩は俺のことが嫌いじゃないから今日こうやってわざわざ時間を取って道筋を示してくれたが、自分の家庭環境など前置きだらけのグズグズした話なんて本当は1つも必要なかったんだと気づく。
オープンキャンパスに一緒に行ってくれるって言ったのだって……。
悲しい話だが鈍臭い俺が目的を忘れて何も得ずに帰ってくるのが目に見えてるからだ。
多分、無駄足を踏まないようにしてくれるつもりなん
だろう。
考えれば考えるほど、穴があったら入りたい気持ちに
なってきて辛い。
よく考えれば担任から始まって、蓮池や柊、一条先輩、そして三木先輩まで……。
俺は一体何人にベラベラと無駄な自分語りをすれば気が済むんだ!?
しかもそれだけでは飽きたらず、桂樹先輩にまで自分の話を聞いて欲しいと思ってしまっていた。
雅臣「すみません!!……あの、本当に貴重な時間を
取らせて…」
一層顔が熱くなるのを感じながら勢いよく頭を下げるが、情けなさが胸を締め付ける。
三木「頭がクリアになったならいいじゃないか。それに今日はお前のそれ込みで話を聞くつもりだったから気にしなくていいぞ」
三木先輩の声はどこか優しく、でも同時に容赦がない。
また言葉に詰まってしまい、がっくり項垂れる俺の肩に先輩は軽く手を置いた。
三木「お前の生活は今、学校が基盤だろ? そこで色々
なことを真剣に考えて悩んで前に進もうとするのは当たり前のことだ」
ノロノロと顔を上げるが、今はとても言葉通りには受け取れない。
本当に大学に行きたいならこんな話を先輩に持ちかける前に自らバイトを始めて、金を貯めるなり奨学金のことを調べるなりできたはずだ。
それなのに、俺は何をしていた?
頭でぼんやり考えるだけで何1つ行動に移せていない。
ただ誰かに話したかっただけだなんて……。
三木「お前はただ話したいだけだったんだよな」
三木先輩の声は静かだったが、まるで俺の心の奥底を
覗き込むようだった。
恥ずかしくて目も合わせられずまた視線が下に落ちて
しまう。
蓮池や柊が『学費が出ないなら働け』と即答してくれたのに、なぜ俺は誰彼構わずベラベラと身の上話をしていたのか。
これでは働かずに親の金で楽して大学に行きたいだけの努力したくない奴じゃないか。
まるで〝これから大変なんです〟〝可哀想でしょう〟とアピールしてるだけの情けない奴で、これぞ蓮池が4月に言った、
『周囲の気を惹きたいだけの構ってちゃん』
そのものだと気が付き地の果てまで落ち込みそうになる。
しばらく沈黙していると、三木先輩の声が再び響いた。
三木「どうしようと悩むのもいいし人にアドバイスを
聞くのもいい。ただいくら人に話を聞いて貰ったところで結局は自分が決めることだ」
………。
………………。
はい、ごもっともでございます。
ど正論すぎて恥ずかしさのあまりもう何かを話す気力もなかった。
三木「そんなに落ち込むことでもないぞ?ほらコーヒーでも飲め」
雅臣「はい……」
力なく答える俺を見て、三木先輩は笑った。
三木「それに重点を置いてる場所が違うだけだよ」
雅臣「重点?」
三木「お前みたいに学校中心の生活をしてる奴は学校
関連のことで悩むし、蓮池のように家業を中心にしてる奴は家業の事で悩む」
先輩の言葉はシンプルで分かりやすい。
蓮池の家は代々続く華道家で、蓮池はいつも自分の悩みより蓮池流の将来やその責任について話している。
三木「悩みの種類は違えど、皆それぞれ悩みはあるよ」
そのどこか優しく、でも少し遠い声に、俺はふと気になってたことを口に出した。
雅臣「じゃあ先輩は……」
三木「ん?」
雅臣「学校のことは三木先輩にとって無駄ですか?」
同じ学校生活を送っているはずなのに、先輩の口ぶりはまるで学校での悩みなんて存在しないかのようだった。
先輩は一瞬、目を細めて俺を見ると部屋の空気が少し
静かになる。
三木「……俺は学校にいると息苦しくて仕方がない」
雅臣「え?」
三木「大学に行けばもう少し楽になるだろうけど」
軽く笑って、窓の外に視線を投げる先輩のあまりにも
意外な言葉に俺は思考が一瞬止まった。




