243.【堅実なアドバイス】
雅臣「という訳なんですけど……」
俺は三木先輩に自分の状況を赤裸々に話した。
親父が大学の費用を出してくれるか分からないこと、
最悪、大学には進まず働きに出るかもしれないこと。
例え大学に行けたとしても、どの学科を選べばいいのか、何を学びたいのかすら定まっていないこと。
こんな情けない話を三木先輩みたいな何でもスマートにこなす人に話のは顔から火が出るほど恥ずかしかった。
でも、今、俺に明確なアドバイスをくれるのはこの人
しかいない。
三木先輩は真剣な表情で俺の話を全て聞いてくれて、
その目にはまるで頭の中で既に答えが動き始めている
ような光があった。
三木「なるほどな。状況はわかった」
三木先輩は静かに頷いた。
その声は穏やかだったけどどこか重みがあって、思わず背筋が伸びる。
先輩はコーヒーカップを軽く指で叩きながら、目を細めて俺を見た。
三木「雅臣。お前は大学にちゃんと行け」
雅臣「えっ……」
三木「国公立で就職率のいい学部を受験する。それか
成績で授業料免除になる有名私大の推薦を貰うかだな」
雅臣「は!?」
俺は思わず大きな声を上げてしまった。
こ、国公立?
有名私大の推薦?
そんな高い目標を急に言われても頭が整理しきれなかったが、先輩は俺の動揺なんてお構いなしに淡々と続けた。
三木「特にやりたいこともないなら尚更上を目指せ」
雅臣「ど、どうしてですか……?」
三木「まず大学進学に伴う問題は学費だろ?仮に学費を親に出してもらえなかったとしても国公立ならバイトで何とかなるし授業料免除なら尚更いい」
先輩の声は少し柔らかくなったが、その言葉には力がこもっていた。
自分で稼いで払う………。
蓮池や柊たちとは違う現実味のある提案に、心臓が跳ね上がるのが分かる。
雅臣「で、でも俺……成績……」
正直今の俺の成績で国公立や推薦で最高峰の私大なんて、夢物語にしか思えない。
予想してなかった展開に思わず言葉が詰まった。
三木「今、学年だと30〜50位を行ったり来たりだろ?」
雅臣「はい……」
三木「そうだな、次の中間はクラス1位を狙え。推薦貰うなら学年3位以内にはいないとな」
先輩の鋭い声に、俺は思わず唾を飲み込んだ。
最短ルートを先輩は提示してくるがそんなの無理だろと狼狽える。
でも、先輩の目は本気で、冗談でも励ましの軽いノリでもないことはわかる。
まるで〝やるしかない〟と突きつけてくるようだった。
雅臣「……」
三木「大学に行ける可能性が少しでもあるなら進学した方がいい。高卒でも雇われる時代とはいえお前みたいなタイプはまた就活で苦労する」
雅臣「えっ」
三木「いい大学を出ていればスタートラインが違うからな」
その言葉が冷たい水を頭から被せられたように胸に突き刺さった。
お、俺みたいなタイプ……。
要するに要領が悪くて何をするにも時間が必要なタイプだと言いたいのだろう。
三木先輩は俺と同じ高校生なのに既に俺の未来を既に
見透かしてるみたいだった。
……だけど、確かにその通りだよな。
今現在やりたいことが定まらずふわふわしてる俺が、
数年後の就職活動の厳しい世界でどうやって戦えるっていうんだ?
蓮池たちの言葉の通り高卒で働くことも視野に入れて
いたけど、それさえ甘い考えだったと気づいて胃がキリキリした。
三木「雅臣、俺はハナから出来ない奴に出来ないことは言わない」
雅臣「は、はい……」
三木「お前ならできるぞ、絶対に。勉強して少しでも
上を狙うべきだ」
先輩の大丈夫だぞという励ましは、俺が今まで貰った
アドバイスの中で1番堅実で現実的だった。
逃げ道がないくらいシンプルで厳しい言葉の中には俺を信じてくれている期待も込められていた。
進路はゴールじゃない。
これからのスタートラインなんだとようやく気づいた
俺は小さく呟いた。
雅臣「が、頑張ります……」
三木「今年の指定校推薦一覧が教室に貼ってあるから
写真撮って送ってやるよ」
雅臣「え!?」
三木「取る人数は若干前後するとは思うけど、そこから何校か選んでまずはオープンキャンパスに行こう。俺も仕事がない日なら一緒に行ける__」
次から次へと溢れ出る先輩の提案は具体的で、まるで
迷路のような将来の道筋を一本の線で繋いでくれるようだった。
頼りになる……いや、頼りになりすぎる。
こうやって時間を割いて進路の相談に乗ってくれて、
しまいにはオープンキャンパスにまで付き合ってくれるなんて。
でも、こんなに何から何まで尽くしてくれるのは何故
だろう?
サークルの時だって物凄くサポートしてくれるし、
今だって自分のことのように真剣に考えてくれてる。
三木「……って、どうした?」
しばらく黙り込んでいた俺を三木先輩が心配そうに
見つめる。
雅臣「え!?あ、い、いやその…………どうしてこんなに俺のこと気にかけてくれるのかなって…」
俺は慌てて目を逸らすが、言葉に詰まりながら思わず
素直な気持ちが口からこぼれ落ちていた。
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