242.【2歳の差】
……。
…………。
な、な、何者なんだ!?
梓蘭世とはまた違う、圧倒的なオーラと輝きを放つ2人を見て俺は思わず目を奪われた。
1人は〝可愛い〟と〝かっこいい〟が絶妙に融合した
魅力的な顔立ちをで、パッチリとした大きな目に透明感のある瞳と長いまつ毛が映える。
柔らかいウェーブがかかった黒髪でこんなにかっこいいなんてあり得るのか!?
笑顔になるとまるで少年のような愛らしさが溢れ、俺はただただ圧倒された。
雅臣「あ、いや……あの……」
俺が言葉に詰まると、
「オーディション受けに来たのかもしれないだろ?
すみませんでした」
と、もう1人が丁寧に頭を下げてきた。
The・アイドルの可愛らしい彼とは反対に、彼は長身で
知性が滲み出るような落ち着いた魅力を持ってきる。
切れ長の目から放たれる穏やかかつ鋭い視線に、色んな意味でついドキドキしてしまうが……。
俺とほとんど身長が変わらなさそうなのに足の長さと顔の小ささの次元が違いすぎるとまた落ち込んだ。
「えぇ?違うよね?スタッフさんだよ」
雅臣「えっと……すみません、どちらでもないです」
「そうなの?じゃあ何してるの?」
雅臣「三木先輩に用がありまして……」
ふーんと上から下までゆっくり見てくる彼からさり気なく目を逸らすが、さすが三木プロダクション。
出会う人全員が異常に等身が良くて顔まで綺麗だなんて……。
俺の平凡さがここでは罪のように感じられて思わず俯いてしまうが、
〝何期待しとんだ。スカウトされるとでも思ってたのか〟
〝でんちゃんやめなよ!雅臣にだってオーディション
受ける権利はあるよ〟
突如、頭の中で蓮池や柊の声が響いて、慌てて頭を振る。
この場面を見られたら、それはもう絶対に散々いじられるに決まってる。
アイツらがいなくて本当に良かったなんて思いつつもう
1度頭を振って意識を現実に戻すと、そこへ三木先輩か
戻ってきた。
三木「雅臣、すまない。待たせたな……ん?2人とも
どうした?」
「春樹!レッスン終わったから顔見せに来たよ」
「ちょ、違うだろ?すみません、社長から話があるとのことだったんですが……」
愛らしい方が弾んだ声で答えると知的な方が冷静に説明をし始めた。
三木「あぁ、そうか。社長は今社長室にいるはずだから__」
どうやら2人は三木先輩のお父さんに呼ばれていたらしく、2人は廊下を軽い足音で去っていった。
三木「すまないな。忙しなくて」
雅臣「いえ、そんな……あの、今の2人もタレントさん
ですか?」
三木「そうだよ、あの2人はカラフルジュエリストの
メンバーだ」
雅臣「カラフルジュエリスト……あぁ!」
花火大会の芝生広場で歌ってたグループの2人だったのか!!
あの時はステージまで遠くて顔まではちゃんと見えなかったが、こんなにかっこいい人たちならあれだけの
ファンを引き連れて行けるのも納得だ。
雅臣「今度デビューするんでしたっけ?」
三木「そうだよ。プロデュースは俺がやってて__」
雅臣「え!?そ、そうなんですか!?」
聞けばメンバーの選定からコンセプトの構築、楽曲の
方向性まで全て三木先輩が取り仕切っているという。
更にはこれが成功すればもう1つ別グループのプロデュースも任されるらしく、やっぱり同じ高校生とは思えないそのスケールに俺はただただ圧倒され心の中でため息をついた。
自分はそんな凄い人に進路の相談に乗って貰おうとしていて、俺のちっぽけな悩みが申し訳なくなる。
雅臣「すみません…俺の進路の話なんか、その……」
俺はコーヒーカップの縁を指でなぞりながら、胸に
わだかまる複雑な思いをぽつりとこぼした。
三木先輩はテーブルの向こうで数回瞬くと、いつもの
余裕ある笑みを浮かべた。
三木「両親いない状態で話せる人がいないんだろ?」
雅臣「……はい」
その言葉は、柔らかくも鋭く俺の胸に突き刺さった。
三木先輩は軽く息をつき、椅子の背にもたれかかる。
三木「雅臣、俺はお前の2つ上だからすごくよく見えるのかもしれないが大したことはない」
雅臣「えっ」
三木「高1の時に見た高3はすごく大きく見える。俺も
そうだった。でもな、社会に出たらたった2歳の差なんてあってないようなものさ」
三木先輩の声は落ち着いていて、どこか懐かしむような響きがあった。
俺が顔を上げる先輩は小さく笑い、軽く肩をすくめた。
三木「高3になれば雅臣も分かるさ。可愛い後輩の相談に乗りたくなる気持ちも、自分もまだまだ未熟だってことも」
雅臣「え!?そ、その……」
俺が慌てると三木先輩はカップを手に持ち、軽く揺らしながらフッと笑った。
その瞬間、胸にあった重苦しい塊がほんの少し和らいで軽くなる。
完璧に見える三木先輩だって、俺と同じように迷ったり悩んだりする瞬間があるんだ……。
そう思うと、目の前の先輩がいつもより少しだけ身近に感じられる気がした。
雅臣「き、聞いてもらっていいですか!」
三木「もちろん」
勢いよく言う俺に三木先輩は穏やかに答えてくれる。
俺のちっぽけな悩みもこの人ならきっと真剣に聞いてくれる。
進路や将来への漠然とした不安を言葉にするのは怖かったが、三木先輩のどんなことでも受け止めてくれるような落ち着いた視線に背中を押された。
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