27.【深堀厳禁】
楓「最悪、意地クソ悪いのは事実じゃん」
イラつき不貞腐れる蓮池を無視して、柊は色とりどりに1つずつラッピングされたパウンドケーキを机に並べ始める。
まだピザも残っているというのにこんなに食い切れるのかと一抹の不安が押し寄せるが、意外な人物から歓喜の声が上がった。
梅生「お、美味しそう…!」
キラキラと目を輝かせる一条さんに驚く。
蘭世「梅ちゃんほんとケーキとか好きだよな」
一条さんは早速1番甘そうなピンク色したケーキに手を伸ばし、素早くラッピングを開けて頬張り顔を綻ばせる。
梅生 「いちご、甘くて美味しい…!」
嬉しそうに食べる姿を見て、『品のいいお内裏様』とは実に言い得て妙だと思う。
柊が言うように一条さんの見た目が和風でどこか浮世離れしているから、この顔で甘い物が好きとか言われても全然しっくりこない。
しかし余程好きなのか、一条さんは明らかに食べるペースがピザより早く既に2個目に突入している。
俺もピザの塩気に少し飽きてきていたので、そんなに美味しいなら1枚食べたくなり手を伸ばしたら、
楓「図々しいなほんと。先輩に先に聞いてから食えよお前絶対一人っ子だろ」
雅臣「は!?」
柊に分けて貰えない蓮池がキレて突っかかってきやがった。俺だって食べる権利があるから取ろうとしただけだろ!
楓「その気遣いの出来なさ絶対一人っ子だわ」
夕太「でんちゃんは先に先輩に勧めようって言いたいんだよね。でもでんちゃんも一人っ子みたいなもんじゃん」
腹が立ち言い返そうとする前に柊が横槍を入れたので、蓮池は眉間のシワを深くして舌打ちした。
夕太「__で、本当に雅臣は一人っ子なの?」
蓮池の態度に全く動じない柊がにこにこと笑顔で俺に問う。
このタイミングで本当に一人っ子ですと言うのは癪だが嘘をついても仕方がない。
雅臣「…まぁ」
三木「そういえば1年生はどこから通ってるんだ?」
口を濁す俺と蓮池の険悪なムードを察したのか、椅子に背を持たれた三木先輩がすかさず話題を変えるように質問してきた。
夕太「俺瀬戸!」
蓮池「俺は瀬戸と覚王山の家を行ったり来たりなんで…」
瀬戸ってどこだよ。
いやそれより蓮池も覚王山なのか…というか行ったり来たりって何だよ。
疑問が多い中、俺も2人に続いて今住んでいる覚王山と答える。
蘭世「瀬戸ぉ?どこ中?」
矢継ぎ早に梓蘭世が尋ね、柊が俺とでんちゃんは地元の瀬戸中!と元気よく答えるとお前はと言わんばかりに全員の視線が俺に集まった。
雅臣「……俺は…中学まで東京で、」
仕方なく答えると全員が驚いた顔をする。
夕太「え!そうだったの?」
三木「親の転勤とかか?」
東京から来たことがよほど物珍しいのか皆興味津々で俺に話を振ってくる。
雅臣「いや、親は別で東京にいます」
梅生「えっ、じゃあもしかして一人暮らしとか?」
雅臣「今は、はい、...そうですね」
へぇー、ほーと皆が感嘆の声をあげる中で、
楓「どーせ勉強出来なくて落ちこぼれたんだろ、夜逃げかよ」
蓮池だけが変わらず俺に悪態をついてきた。
雅臣「はぁ!?落ちこぼれてなんかねーよ!俺にはちゃんとした理由が___」
思わずカッときて、今尚ピザをバクバクと食べ続ける蓮池に向かって声を荒らげる。
先程散々俺に気遣いが出来ないと言っていたが、それはお前だろうが!
事ある毎に俺に失礼な事ばかり言うのをいい加減改めろと腹が立って仕方がない。
夕太「…夜逃げ?もしかして都落ちって言いたいの?」
楓「みやこおち?なにそれ、宮古島の話なんか今してないよ夕太くん」
夕太「でんちゃんって何でそんなにバカなの?」
柊が通常運転で蓮池を馬鹿にするよう横槍を入れた。いいぞ柊、もっと言ってやれ。
夕太「___で、雅臣は何で東京から来たの?」
本当はどうなのかとデカい目でじっと見つめられ言葉に詰まる。
……名古屋に来た事情をここで話すべきなのか?
いやいや、なんで大して仲良くもない奴らにそんな話するんだよ!
三木「山王が第1志望だったのか?」
躊躇っている間に今度は三木先輩が別の質問を投げかける。
どいつもこいつも聞きたがりだな。勘弁してくれ。
しかもここで第1志望は目の前の三木先輩が余裕で受かるあの西海高校でした、...なんて死んでも言いたくない。
急遽決まった引っ越しで、名古屋の学校なんかどうせ大したことないだろと高を括っていたらまさかの不合格。
蓋を開けたら滑り止めの山王学園しか行くところがなかったのだ。
雅臣「あ、いや…その、」
どう答えるか再び躊躇っていると、蓮池がピザを片手に心の奥底からいやらしい目付きでニヤニヤしている事に気がつく。
雅臣「…何だよ」
楓「西海、落ちたんだろ」
わ、笑うなよ!!
そもそもお前なんか絶対受からないだろ!
というか、まだ何も言ってないのになんで落ちたってわかるんだ!!
梅生「名古屋の男子校といえばあそこだし、皆落ちるって分かってても記念受験したりするもんね」
蘭世「まぁ西海外部合格なんてよっぽどイカレてないと無理だろ」
アホの蓮池に事実を当てられ羞恥に震える俺に何の慰めにもならない言葉を掛ける先輩たちは三木先輩をチラ見した。
デキる人と比べられて余計に恥ずかしい俺の気持ちも知らずに、三木先輩は会話を続けようとしてくる。
三木「なら大学は東京へ戻るのか?」
雅臣「……まだ考えてないです。三木先輩は東京の国公立狙いですか?」
相手が3年なので悔しくても会話を続けるしかなかった。
西海に余裕で受かるくらいなら大学はかなりいい所に行くのだろう。それに合唱部を辞める時、桂樹先輩にも受験があると言っていたしな。
三木「俺は適当な私大だな。実家の事もあるしな」
適当な私大……?
もっと上を目指す気はないのか?意外すぎて表情も変えずに言い切るその姿に驚く。
蘭世「…三木さんまじで継ぐんだ。芝居も歌も上手いのに」
三木「あんなもん習えば誰だってある程度は出来る。それに俺は裏方の方が向いてるからな、マネージャー業でいいんだよ」
三木先輩が梓蘭世を見て笑うが、習ったからといってそんな簡単にできるものでもないだろうに。
しかも実家が芸能プロダクションとはいえ将来何の役にも立たないマネージャーなんかでいいのかと不思議に思い、ついその流れで梓蘭世に声をかけてしまう。
雅臣「梓...先輩も東京行くんですか?」
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