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240.【頼りになる先輩】




荷物を手に部室の鍵を閉め、俺たちは学校を後にした。


三木先輩の実家が営む〝三木プロダクション〟は名古屋駅の新幹線口近くにあるらしい。


老舗の養成所として、テレビやラジオのタレント、CM

ナレーター、アナウンサー、モデル派遣から子役や

アイドルの育成まで幅広く手掛けているそうだ。


梓蘭世もその一員だが、そんな事務所に足を踏み入れるなんてと俺は少し浮ついた気分が抑えきれず、東山線の

ホームで三木先輩と電車に乗り込んだ。


夏休みということもあり車内は混雑し、立ちながら1駅

ずつ通り過ぎるが何を話せばいいのか分からない。


一条先輩との気楽な会話とは違って三木先輩との沈黙にはどこか気まずさが漂う。


言葉を探していると、先輩が穏やかに口を開いた。



三木「どこか狙いの大学はあるのか?」


雅臣「え?あ、えっと……何も決まってなくて、」



電車の揺れとガタゴトいう音に混じり、三木先輩の落ち着いた声が続く。



三木「親から継ぐものとかは?」


雅臣「特にないです」



ほとんど即答したが、俺に継ぐものなんて…ないよな?


親父は建築士だがその道を強制されたこともなく、視野に入れたこともなかった。


俺には三木先輩のように家業を継ぐような明確な道筋

なんて何もない。



三木「それなら何でも好きなことができるな」



〝好きなこと〟



そのシンプルな言葉が、なぜか俺の胸に重く響いた。


改めて考えてみると、俺の好きなことって何だ?


俺はそんなことを真剣に考えることもなく、ただ毎日を過ごしてきた気がする。



三木「お前の詳しい事情を知らないから何とも言えないが、自由に選べるなら選択肢は無限だな」


雅臣「そ、その……母親が死んでから俺親父と折り合いが悪くて……」


三木「そうか」


雅臣「恥ずかしいんですけど、進学費用とかまだどう


なるかもわかんなくて、そもそも大学行けるのか……」



進学したい気持ちはあるのに、親父との関係を避けて

いる以上どうにもならない焦りが心を蝕んでいく。



雅臣「すみません。相談に乗って欲しいって言ったのに全然纏まってなくてグダグダで……」



車体が軽く傾き、揺れに合わせて体を支える中で言葉を絞り出すと三木先輩は穏やかに笑う。



三木「そういうことを含めて考えるために、俺と話すんだろ?」


雅臣「え?」


三木「纏まってなくていいんだよ。 進学のことも費用のこともやりたいことも、全部ひっくるめて少しずつ紐解いていこう」



力強いその言葉に、肩の力がスッと抜けた。


三木先輩の声はいつもどんな迷いも受け止める頼もしさがある。


……たった2個しか変わらないよな?


それなのに何故こんなにも安心できるのだろう。




雅臣「あ、ありがとうございます。助かります」


三木「雅臣は何かしたいことはあるか?」


雅臣「したいこと…俺趣味とかあんまりなくて……」


三木「そんな深く考えなくていい。好きな物ややって

いて楽しいことでいいんだよ」



先輩に優しく促され、俺は一生懸命頭を巡らせる。


やっていて楽しいこと……。


最近はゲームをしたり、韓国ドラマを見たりすることも楽しいが……



雅臣「料理、とか?」



大学進学で役立つものとはいえないが、素直に最近自分がやっていて楽しいと思うのは料理だった。


でも所詮はただの趣味みたいなもので、何に繋がるのかも想像つかずに困ってしまう。



三木「お前が入れるコーヒーは美味いし、最近パンとか何でも作るんだって?」


雅臣「え?あ、いや、そんなの誰でも……」



先輩は少し考えるように顎に手を当て、ふっと笑った。



三木「料理が好きなら例えば…管理栄養学科を調べて

みるとかだな」


雅臣「管理栄養?」


三木「興味のあることから広げていくんだよ。料理が

好きなら、栄養学とか、食に関する仕事とか、色んな道があるだろ?そこから派生させてくんだ」



興味のあることから軸に広げていくなんて思いつきもしなくて、それに料理からこうも簡単に進路に繋がるとは目からウロコだった。


そうだよな……。


まずやりたいことから見つけていかないと。


やりたいことがある学科を持つ大学を調べたり、反対にやりたい仕事があるならそこから逆算して学科を見つけたり。


三木先輩の少しのアドバイスで霧が晴れたみたいに、

頭の中に新しい道がポツポツと浮かび始めた気がした。


電車が次の駅に滑り込み、ガタンと揺れる中、三木先輩は降りる準備をしながら笑った。



三木「時間はまだあるから焦らず考えればいい。また事務所で少しずつ深堀していこう。面白いこと見つかるかもな」


雅臣「は、はい……!!」


三木「そうだ、事務所は新幹線口の銀時計の方で少し

歩くんだが大丈夫か?」


雅臣「全然大丈夫です!」



心のどこかで、初めて〝未来〟というものが見えた気がして、俺は少しだけワクワクするものに思えてきた。



読んでいただきありがとうございます。

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