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233.【伝えたいことがあるなら】




俺達は三木先輩の背中を見送った後、肝試しの最中

だったことをようやく思い出した。


道順に沿って俺、柊、蓮池と横並びで足を進めるが、

いつもなら話が尽きない2人が何故か一言も発さない。


……。


…………ど、どうしたんだ?


いつもならうるさいくらいの柊が黙っているなんておかしいと思いながら、微妙な空気に耐えかねて俺はわざと明るい声を上げた。



雅臣「び、びっくりしたよな……先輩達も……その、

ああやって言い合いするなんてさ」



それでも2人は黙ったままだ。



雅臣「あの2人、……仲が良かったんじゃないのかな」


夕太「俺は……」



間が持たずに心のままに呟くと、それまでだんまり

だった柊がようやく口を開いた。


何かアドバイスをくれるのかと期待をして柊を見るが、その硬い表情を見て驚いてしまう。


眉間に刻まれた細かな皺が柊の内心の葛藤を静かに物語っている。



夕太「ねぇ、でんちゃん。俺はああいうのはやだな」


楓「……」



柊の言葉に蓮池は何も答えず、その目は深い湖の底のように暗く揺れている。


柊の言う〝ああいうの〟とはさっきの三木先輩と桂樹先輩みたいな関係だろうか。


曖昧で心の内を互いに明かすことのない、友達のようで友達じゃない2人みたいな……。



夕太「この関係が終わるのは嫌だ。でも一緒にいたい

場合はどうしたらいいんだろうね」



柊は独り言のように呟くが、きっと先輩達の姿を自分達に重ねているのだろう。


ふと、柊が俺の家に遊びにきた時に蓮池と本当の友達になりたいと話していたのを思い出す。




___本当の友達、か。




………難しいな。


俺から見れば十分友達に見える柊と蓮池も、先輩たちも誰もが本心を言わずにいる。


昔の俺のならどれだけ仲が良くても揉めて悲しい思いをするくらいなら最初から関わらない方がいいと思っていた。



でも、そうじゃない。



友達って……本当の友達になるためには相手と真剣に

向き合わなければいけないと思う。



三木先輩と桂樹先輩だけじゃない。



柊も、蓮池も、そして俺も。




雅臣「一緒にいたいなら……続ける努力をしないと駄目だよな」



笑顔で言葉を交わしているのに本音は胸の奥に沈んでいたり、心の底をさらけ出すのは難しいだなんて、本当の友達とは言えない気がする。


プールで梓蘭世は友達だからってなんでも話すものではないと言っていたけど、やっぱり俺は話した方がいいと思うんだ。


友達なのに話さない梓蘭世も一条先輩も。


友達に言いたいことを呑み込む桂樹先輩も、何にも触れない三木先輩も本音を隠し合う柊と蓮池も。


俺は伝えたいことがあるなら自分の気持ちを正直に伝えないと、進むものも進まない。


隠して後悔するよりちゃんと向き合って伝えた方が、

例え結果がどうであれ心が軽くなるし前に進めると思うんだ。




雅臣「柊、蓮池」




俺が立ち止まると、2人は振り返った。


何を言うんだと既に懸念顔の蓮池と、大きな目を瞬かせて首を傾げる柊。


……この2人が今の俺にとって1番の友達で、これからも友達でいたいと思う人だ。


俺が心細くて泣いた時も励ましてくれた大切な友達なんだ。



雅臣「1学期、毎日一緒に弁当を食べてくれてありがとう!!」


楓「あ?」


夕太「は?」



突然の感謝の言葉に、2人は何度も瞬きを繰り返す。


急にどうしたと訝しまれるが、俺は大切な人に本心を

言える時にきちんと伝えようと思った。


相変わらず俺は本当に言葉が下手だが、それも今更だ。


俺達がこの2人とちゃんと話せるようになったきっかけは、〝弁当を一緒に食べてもいいか〟と聞いた瞬間からだと思う。



雅臣「あの時のお礼、ちゃんと伝えてなかったよな。

心の中では何度も思ってたけど……言葉にしないと

届かないから。改めてありがとうって言いたくて!!」



静かな校内に俺の声がやけに大きく響く。


それでも、今伝えないといけない気がしたんだ。


2人は俺にとって大切な存在だから。


これからも一緒にいたいから。


そして、ずっと友達でいて欲しいから。



雅臣「__うお!?」


夕太「……へへっ」



柊が助走をつけて体当たりしてきて、俺は思わず体勢を崩した。


柊は何も言わず、俺にドシドシと体当たりを繰り返し喜びを伝えてくれるがやっぱり結構これって痛いぞ!?



雅臣「い、痛いって!!蓮池も見てないで止めて__」


楓「誰も9月からも一緒に食うとは言ってねぇわ」


雅臣「え!?い、嫌だぞ!?」


楓「はぁ?何が嫌だよバカ。ずっと一緒に食うなんて

言っとらんわアホ」


夕太「でんちゃん意地悪言うのやめなよ!!9月は雅臣にサンドイッチいっぱい作ってきて貰ってパーティーするんだから!!」


柊が眉根を寄せる蓮池の顔を覗き込むと、



楓「……まぁいいわ」



蓮池は舌打ちをしながら再び歩き出した。


またちゃんとした答えが得られなかったと項垂れるが、振り返って俺を見る蓮池の左口角は上がっていた。



楓「タンドリーチキンとハムエッグ」


雅臣「……えっ!?」


夕太「じゃあ俺はBLTとー、フルーツサンド!」



食べたいものを言ってくれるってことは……。


9月も一緒に弁当食べてくれるってことだよな!?


作ってこいってことだよな!?



雅臣「ま、任せろ!!新学期を楽しみにしててくれ」



相手に自分の気持ちを言葉で伝える努力をしてきて良かった。


俺はその時思ったことをちゃんと言えるようになりたいとずっと願っていた。


頭の中で、心の内で思っているだけじゃなく、自分の

気持ちを言葉で伝えられるようになりたい……。


そう思ってきたことが、今、出来ている。


それにさっきまで暗かった蓮池も柊もいつもの雰囲気に戻ったようで、俺は心から安堵した。



「ぎゃああああ!!!!ギブギブギブ……え!?は!?

梅ちゃん!?ふざけんなよマジで!!!!!!」



すると突然どこかの教室から梓蘭世の悲鳴が響き渡り、一緒に一条先輩の笑い声も聞こえてくる。


おちゃめなところのある一条先輩に思い切り脅かされたんだと一瞬にして理解した俺達は顔を見合わせた。



夕太「……行こ!!」


楓「後ろから脅かしてやろうかな」


夕太「それいい!!ほら雅臣も行こうぜ!!」



楽しそうに駆け出す2人を見て、俺も笑いながら追いかけた。






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