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232.【交わらない心】



緊張感に満ちた空気が暗闇を重く覆い、隠れて見つめる俺達3人は息を潜め物音1つ立てられずにいる。


桂樹先輩の切り込んだ質問に三木先輩は小さくため息をついた。




三木「ずっと言いたいことがあるのはお前の方だろ?

リオン」




一段と冷ややかな三木先輩の声が響く。


互いに胸に秘めた思いを抱えながらも核心に触れられずにいるようで、今の俺にはこの2人がとても友達には見えなかった。


そう思うことが悲しくて、つい一緒に覗き見してる蓮池と柊をチラと振り返る。


3年のこの状況を俺より察しのいい2人はどう見ているのだろうか。



桂樹「……俺と大会頑張ろうって言ってたじゃん」


三木「……」


桂樹「中学の時だってさ!!先輩に誘われて合唱部

入って……」



桂樹先輩の瞳は遠い記憶を辿り、言葉にならない想いがあるのか唇を震わせている。


たった一言で今の関係を失ってしまうかもしれない、

そんな恐怖が桂樹先輩の声に滲み出ていた。


三木先輩はそんな桂樹先輩の取り留めのない話に、ただじっと耳を傾けているだけで、その本心は全く見えない。



桂樹「先輩達に指揮に指名された時とか、本当はどう

思ってたんだよ」


三木「どうも何もない。たかが高1の俺が先輩に逆らう

こともできないから受けただけだ」


桂樹「…っ……そうじゃなくてさ……!!」



期待した答えと違うのか桂樹先輩はもどかしそうにしていて、聞いてる限り互いの温度差が全然違う気がする。



桂樹先輩は三木先輩に、本当は何が言いたいんだろう。



傍から聞いていても、話している内容が本心を隠しているように感じてしまう。


こんな曖昧に全てを濁した言い方では三木先輩は受け止めてくれないだろうし、思うことがあるならハッキリ聞いた方がいいんじゃないだろうか。


言いたいことをきちんと言わないと相手には伝わらないと思う。



三木「……もういいか?」



三木先輩は桂樹先輩がこれ以上何も踏み込んでこないと見抜いたのだろう。


そのまま話を終わらせようとした瞬間、





桂樹「なぁ、お前って俺の事どう思ってんの?」





桂樹先輩の声が切なく響いた。


まるで時間が止まったかのような重い沈黙が再び2人を

包み、聞いてる俺まで変に緊張してくる。



三木「……」


桂樹「………もういいよ」



沈黙する三木先輩を置いて、桂樹先輩はそのまま階段を上がって行ってしまった。


その言葉だけが桂樹先輩の本当に言いたいことだったように思えたが、本当に2人は仲良くなかったのかと不安になってしまう。


どうしてこんなことにと頭の中で思考が渦巻く中、



三木「……お前ら、そろそろ出てこいよ」


雅臣「えっ!?」



どうやら俺達3人が覗いていたのはバレていたようで、

三木先輩は苦笑しながら階段を下りてきた。


いつから俺達の存在に気づいていたのかはわからないが、こんなに聞き耳を立ててしまったことが途端に申し訳なくなった。



雅臣「ご、ごめんなさい……」


三木「いや?聞かれてまずい話でもないしいいよ」


雅臣「……」



……鈍い人じゃないからこそ桂樹先輩の言いたいこと

だって汲み取れるはずなのに。


その余裕はまるで全てを見透かしているかのよう

だった。


柊も蓮池も俺も、誰も口を開かない静かな空間に窓から夜風が吹き抜ける。


どう声をかけていいかわからない俺たちに三木先輩は

軽く肩をすくめた。



三木「お前らは道順通り肝試し楽しめよ。俺は……

そうだな、飲み物買うから離脱するよ」



そのまま階段を降りて行こうとする三木先輩に俺達は

軽く頭を下げるが、



三木「あ、」



何かを思い出したのか、声を上げ三木先輩は振り返った。



三木「雅臣、遅くなったが改めて。庇ってくれて

助かった。ありがとうな」


雅臣「え?……あ、あぁ!いやそんな、俺は何もしてないですし……」



突然何の話だと思わず口から間の抜けた声が出てしまったが、すぐに合唱部との1件だと気が付き慌てて首を振る俺を見て三木先輩は苦笑を深める。



三木「やっぱり色々と言われたから助かった。お前が俺の気持ちを代わりに言ってくれたみたいで、心が軽くなったよ」


雅臣「あ……」



合唱大会の時に気になった、三木先輩の『やっぱりな』という一言。


あれは周囲から責められることを確信した呟きだったんだ。


俺はやっぱり負けたとでも言いたいのかと思ってしまったが全然そんな意味じゃなかったんだ。


背負うものが大きくて、いらないものまで背負わされて、手放したら責められる。


三木先輩のその言葉で俺はようやく全てを理解した。



雅臣「……」


三木「また後でな」



桂樹先輩は三木先輩の負担に全く気づいていないし、

それらがやめた理由だと知りもしないのだ。


軽く手を上げた三木先輩の後ろ姿はやけに寂しげで、

闇に溶け込むその背中を俺ははただ見送ることしか

できなかった。



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