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231.【不穏な2人】




……どうしてこうも皆バラバラになるんだ。


梓蘭世はあのまま来た道を引き返したのか行方不明、

そして先に進んだ3人もどこかへ消えてしまった。


こんな形で最初に危惧していたボッチ肝試しになるとは思ってもいなかった。


何なら一瞬冷静になって、ゾンビの脅かし役の人にくるくる頭を筆頭にした3人組を見なかったかと聞いてしまったくらいだ。


ため息をつきながら歩き出すが、流石に気味が悪いし1人だと心細い。


しかしここで驚かされて情けない声を上げたことがバレれば蓮池に死ぬほど馬鹿にされるのは目に見えている。


絶対にビビらないぞと心を強く持ち足を踏み出すと、




「お前さ___」




突然、3階から下へ続く階段の踊り場から固く尖った声が響いた。


肝試しのルートでもないのに何故そんなところから声が聞こえるんだ?


誰か話してるのか、影に身を潜めて階段の踊り場を

そっと覗き込めば金色の髪が目に入る。


……あれはもしかして、桂樹先輩?



桂樹「合唱部、戻んないの?」



やっぱり桂樹先輩だと息を潜めるが、苦々しい口調に

どこか切実な響きが混じる。



三木「3年は文化祭で引退だろ?どうして今俺が戻る必要があるんだよ」


桂樹「それは……そうだけど」



こっち側からはよく見えないが、桂樹先輩の話し相手はその落ち着いた声から三木先輩だと直ぐに分かった。


どこかで見たような光景に、蓮池に〝週刊誌の記者〟と揶揄されたあの時と同じだと思い出す。



……これだとまた俺が盗み聞きしているみたいじゃないか?



とりあえず2人が去るまで一旦は静かにしていようと息を潜めると、俺の存在に気づいていない2人はそのまま会話をし始めた。



桂樹「一応三木もずっと一緒にやってきたわけじゃん?あいつらだって大会も一緒に出れるって……その、

思ってたからこそ___」


三木「それなのに負けた理由を俺らのせいにしたのか?」



桂樹先輩の煮え切らない態度に痺れを切らしたのか三木先輩の声が鋭く割り込んだ。



桂樹「い、いや、それはその…そういう事が言いたいんじゃなくて……」



言いたい事があるのかそれとも考えがまとまらないのか。


冷たい刃のような威圧感のある三木先輩の態度に言葉を詰まらせる桂樹先輩だが、その表情からはやっぱり以前と同じく何か言いたいことがあるように思えた。



桂樹「それに三木だけじゃなくてさ?一条とか蘭世

だって……サークルで歌うなら合唱部で歌うのも変わんないだろ?」


三木「俺は戻る気はないし、2人には2人の意思がある。特に蘭世はあいつが歌いたい時に歌うから放っておけ」


桂樹「でもサークルでは___」


三木「リオン。お前何でそんなに蘭世を歌わせたいんだよ」



三木先輩の低い声が空気を切り裂く。


実に淡々としているが、引き下がらない桂樹先輩に対するその声には明らかな苛立ちが含まれている。



三木「それは誰のためなんだよ」


桂樹「だ、誰って……」


三木「自分の欲で蘭世を利用しないでくれ」



思えば部活見学から今までこの2人の間にはいつも梓蘭世がいた。


何となく合唱部全体が、そして桂樹先輩でさえ梓蘭世の存在と歌声を利用しようとしていると三木先輩は感じていたのだろう。


更には大会で負けた責任まで押し付けられたとなれば、合唱部への不快感を顕にするのは仕方の無いことだとは思うが……。



桂樹「そ、そんなわけないだろ!?利用だなんて……」


三木「それならどうして蘭世が歌うことに固執するんだよ。蘭世がどこで歌おうとお前に関係ないだろ?」



三木先輩の突き放すような言葉に、俺はあの時と同じ

違和感を覚えた。


2人は表面上変わらず仲良く見えるのに本当は違うんだろうか。


梓蘭世を抜きにして、三木先輩は桂樹先輩の事を本当はどう思っているのだろう。


張り詰めた雰囲気に緊張感が高まり、心臓が締め付けられる感覚がして軽く息を吸った瞬間、



雅臣「……っ!?」



突然後ろからシャツの襟を引っ張られ、俺は体勢を崩すと同時に口を無理やり押さえつけられ声を出すなと耳元で脅される。


心臓が飛び出しそうになるが、こんなことをするのは

あいつらしかいないと振り返って睨みつける。



雅臣「はす……」



文句を言ってやろうと口を開けば、蓮池の後ろから

ひょっこり現れた柊は人差し指を口に当て静かにしてとジェスチャーしている。


直ぐに蓮池がスマホに何かを打ち込んで、差し出した

画面を覗き込むと、



〝週刊誌の記者かよ〟


〝声上げたら殺すからな〟


〝何かスクープは取れたんかよ〟



本当にやりかねない脅し文句とこの状況まであの時と

同じだとため息が出るが、左口角を上げて笑う蓮池に

随分丸くなったなと苦笑してしまった。


以前は本気で嫌悪感をむき出しにしていたが、今はただ俺をからかっているだけだもんな。


俺は蓮池のスマホに桂樹先輩と三木先輩の会話を聞いてしまったことを打ち込もうとすると同時に、




桂樹「三木、お前俺に何か言いたいことあるの?」




桂樹先輩の声が一際大きく踊り場に響き渡った。



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