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226.【蓮池の手荒れ】



あの後蓮池が無事話をまとめてくれたおかげで、蓮池のお母さんはいつものベンツに乗って竹風閣弁当を持って学校の正門前まで来てくれた。


1年生の俺達が受け取りに駆けつけると、総白髪を優雅に結い上げた涼やかな着物姿の蓮池のお母さんが暑いにもかかわらず車の外で立って待っていた。



雅臣「すみません暑いのに……!」


楓「熟女好きかよマザコン」


雅臣「は、はぁ!?あのな、こんなに暑いのにわざわざ届けてくれたんだぞ」



慌てて駆け寄って声をかけるが息子が隣でニヤニヤ笑っていても蓮池のお母さんはただ穏やかに微笑むだけ。



「あらあら楓さんったら」



その優しい声に、この母親は息子を甘やかすのは本気でやめた方がいいとトランクを開けて紙袋を運び出す蓮池をついジト目で見てしまう。



「いつも楓さんと仲良くしてくれてありがとう」


雅臣「い、いやこちらこそ……」


「楓さん最近とっても楽しそうだから」



そう柔らかく微笑むのを見て、蓮池が俺といて楽しいなんて胸の奥がじんわり温かくなる。


少し感動に浸っていると、突然背後から思い切り蹴飛ばされた。



楓「高校生と話して発情しとんなよ」


雅臣「お、お前は母親相手に本当に何てこと言うんだよ……!!」


楓「てめぇが率先して持てや」



蓮池は苛立ったようにトランクから料亭の弁当が入った紙袋と三越のロゴが入ったデザートの袋を俺に押し付ける。



夕太「もー、でんちゃんってばお腹すいたからって当たり散らかすなよ。おばさんいつもありがとう!」


「あらあら夕太くん、いつも楓さんと___」


楓「もういいからさっさと帰れやババア!!」



学校に母親が来ることが恥ずかしいのか、蓮池はそのまま紙袋を持って先に戻ってしまった。



夕太「……でんちゃんは熱中症になったら大変だから

早く戻りなって言いたいんだよね」


雅臣「そ、そうだな」



久しぶりにこのやり取りを見たなと俺達は顔を見合わせてクスクス笑い合う。


蓮池の母さんは穏やかに微笑みながらベンツに乗り込み静かに去っていった。



雅臣「蓮池のお母さんって……」


夕太「優しいよね」



話しながら部室に戻ると、10袋もの弁当とデザートを

抱えた俺達を迎える先輩達の声が弾む。



桂樹「え、この量マジで言ってる?さすがに悪いって」


蘭世「でんの母ちゃんまじナイス、赤身肉なら食えるし神かよ」



桂樹先輩が少し戸惑ったように言う一方梓蘭世は目を

輝かせて大はしゃぎで、料亭の豪華な弁当を見て大盛り上がりだった。


対照的な意見だが本来ならば桂樹先輩の感覚が普通なんだよな。


竹風閣の弁当はさすが老舗料亭が手掛ける逸品で、季節の食材を活かした繊細そうな味わいが見ただけで伝わってくる。


季節の品には焼き松茸とほうれん草のお浸し、そして鱧フライには酢橘が添えてあり、天然鮎と伊勢海老の塩焼きやステーキまで ……。


どう見ても1つ3000円以上はする豪華な弁当に、滅多に食べられるものではないと誰もが興奮した声を上げる。



三木「随分と豪勢だな……うちでも今度使うか……」


梅生「こっちもすごいよ!」



三越の袋の中は老舗のフルーツパーラーのクリケット

ゼリー。


オレンジやグレープフルーツが丸ごとゼリーに閉じ込められた贅沢なデザートが15個もある。


弁当もデザートも息子がたくさん食べることを見越してか15人分以上用意されている気前の良さに、俺も桂樹先輩と同じくこんなにいいんだろうかと少し気後れしてしまう。



蘭世「早く食おうぜ、腹減ったわ」


夕太「だね!いっただきまーす!!」



柊が1番に箸を取り、早速俺も隣に座って弁当を開いて

丁寧に焼き上げられたステーキ肉に箸を伸ばす。


一口噛むと驚くほど柔らかく口の中でとろけるような

食感に思わず目を見張る。


出汁の効いた煮物、ほのかに甘いだし巻き玉子まで、

どれも繊細で奥深い味わいで午前中から活動してきた

疲れがこの1口で癒されるようだった。



三木「美味いな」


桂樹「こんな高そうな弁当食べたことねぇわ」


梅生「何か食べるのも緊張する……あ、だし巻き玉子

美味しい!」


桂樹「してねぇじゃん!」



そう言いつつ目を輝かせる一条先輩に桂樹先輩が突っ込み、部室は一気に笑い声で満たされる。



蘭世「肉も海老も美味すぎ。でん、この栗ご飯食って」


楓「あんたほんと俺は残飯処理係じゃないんですよ」



蓮池はため息をつきながらも梓蘭世の弁当からゴッソリ米を受け取るが、その手元を見ると真夏だというのに赤みやひび割れが目立っていた。


箸を握るだけで痛そうだが、こんなに酷かったか……?



雅臣「蓮池、手大丈夫か?」


楓「あ?」



あまりの酷い荒れに心配になって声をかけるが、大きな海老1尾を1口で頬張る蓮池に睨みつけられた。



楓「水仕事だもんでしょうがな___」


夕太「くないよ!雅臣言ってやってよほんと」



華道をやってる以上手荒れは避けられないのだとばかり思っていたが、ぶっきらぼうに返す蓮池を遮り呆れ顔の柊を見ているとどうも違うらしい。



夕太「効きもしないハイブラのハンドクリームなんか

使ってるからでんちゃんはずっと手荒れてんだよ!!」


雅臣「え!?薬用とかそういう___」


楓「そんなダセェの使えるかよ」


雅臣「何言ってんだよ!ハンドクリームにダサいとか

あるかよ!」



こんな酷い手荒れにハイブランドのハンドクリームなんて1番効かないに決まってるだろ!?


あんなのは匂いや癒しを女性が楽しむもので手荒れを

治すものではない。


まだ薬局に売ってるような薬用ハンドクリームの方が

効き目があると蓮池に力説するも、もちろん聞き入れてくれる訳もなく……。



夕太「ハンドクリームもリップもDiora?だっけ?

バカじゃないの」


蘭世「さすがにでんのハンドクリームはアホだけど俺もリップはCHANELAだぜ?」



ほら、と梓蘭世が制服のポケットから黒いパッケージの〝CHANELA Rouge Coco〟を取り出して見せてくれる。


リップの美しく洗練されたデザインが梓蘭世の雰囲気に完璧にマッチしていて、この人こそCHANELAを使うに相応しい人物だよな……。


ただリップを持っているだけなのに、その姿はまるで

ファッション雑誌のモデルがポーズを決めるようでつい見とれてしまった。



桂樹「まじ?リップなんて使う場面ある?」


蘭世「はいはい、彼女いませんの説明サンキューな」


桂樹「蘭世ぇ……お前はほんと可愛くねぇなぁ!!」



桂樹先輩が殴りかかろうとするのて部室はまた騒がしくなる。



梅生「まあまあ。でもリップもハンドクリームもメンソレータムとかでよくない? あ、でも蘭世がくれた色つきのリップは凄い俺の顔色がよく見えるかも」



一条先輩がにこにこ笑いながら仲裁に入るが、あんなにプールで日焼けして真っ赤になっていたはずの顔がもう真っ白だ。


確かにこの人は色白すぎて顔色が悪く見られることも

あるだろう。



楓「え?それどこのやつですか?」


梅生「えっとね……これこれ」



一条先輩が興味津々の後輩のためにわざわざ色付きの

リップを見せてくれたというのに、蓮池ときたら腹立たしそうにため息をついて不満げな顔を浮かべる。



楓「……ただの色ついたワセリンじゃないですか。

こんなんで色つくなんて何なんですか?舐めてます?」



その表情は子供っぽい不機嫌さがそのまま形になった

ようで、部室にいる皆は思わず苦笑いを漏らしながら箸をすすめた。






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