25.【情報過多】
蘭世「ピザとか久しぶりだわ」
梅生「美味しい!」
1つの大きな調理台に椅子を用意して、時計回りで三木先輩、一条さん、梓蘭世、蓮池、柊、俺と着席した。
男子高校生6人も集まれば、かなり早いピッチでピザはそれぞれの胃の中へ消えていく。
夕太「ミルキー先輩ってさ、」
ピザを頬張りながら話し始める柊に、一斉に2.3年の視線が集まる。
蘭世「ミルキーって…」
梅生「もしかして…」
2人が同時にチラ見した視線の先にいるのは三木先輩だった。
梓蘭世が思い切り吹き出し膝を叩いて大笑いするのを一条先輩が嗜めるがその肩は震えている。
一応先輩とついているものの三木先輩の風貌とあまりにもミスマッチで、梓蘭世につられて危うく俺も吹きそうになるところだった。
どこかのキャンディーのようなギリギリ原型のないあだ名で急に呼ばれて、三木先輩は面食らっている。
三木「そんな風に呼ばれたのは初めてだな」
夕太「みきはるき、で、ミルキー!」
楓「夕太くんすぐ変なあだ名つけたがるから」
黙々とピザを食べていた蓮池が名付けにご満悦な柊を見て、不服げに眉を寄せまた次へと手を伸ばす。
その顔見て、柊がこいつの『でんちゃん』というふざけたあだ名を命名したんだなと確信した。
夕太「でさ!ミルキー先輩と蘭世先輩は仲良さげだけど友達なの?」
柊から不躾な質問を受けて、俺達の前に座る三木先輩と梓蘭世がお互い顔を見合わせる。
蘭世「友達って…なわけないだろ」
三木「柊は色々と面白いことを言うな。蘭世はうちの事務所に昔から所属しているから付き合いが長いんだよ」
……うちの事務所とは?
実家がタレント養成所みたいなものなのか?
三木先輩のお堅い見た目から想像つかないなと思いつつ、次のピザを手に取り話の続きに耳を傾ける。
楓「事務所って…三木プロダクションですか?」
三木「おお、よく知ってるな」
楓「名古屋にいたら名前くらいは耳にしますよ。それに祝花も確か何個か頼まれましたし」
頷く三木先輩を見て、蓮池の胡散臭い家業なんか信用ならないと思っていたがどうやら本当だったらしい。
しかし三木プロダクションなんて初めて聞いた。
梓蘭世の名前は知っていても所属事務所まではさすがに知らなかったな。
ふと三木先輩と桂樹先輩が脱いで大騒ぎとなった日のことを思い出し、三木プロと野次を飛ばされていたのはこういうことだったのかと理解する。
梅生「そういえばさっき柊と蓮池が幼馴染って言ってたけど、2人は持ち上がり組なの?」
友達というワードから思い出したのか大人しい一条先輩が口を開いた。
ピザにがっついて答える気など1ミリも無さそうな蓮池を放置し、柊が代わりにいつも通り答える。
夕太「でんちゃんとは生まれた時からの幼馴染みで俺達2人とも山王は高校からです!雅臣も高校から!」
なー、と隣に座る俺に柊が笑いかけるので一旦頷いておく。
梅生「あ、そうなんだ!てっきり幼稚舎から直登なのかと思った」
楓「直登?」
聞き慣れない単語にさすがの蓮池も手を止め反応した。直登の意味が分からず首を傾げる俺達3人に、三木先輩がその言葉の意味を教えてくれる。
三木「幼稚舎から大学までエスカレーターで上がる事を山王では直登って呼ぶんだよ」
蘭世「俺と三木さんがその直登な。三木さんなんか、西海高校も絶対受かるって言われてたのに受験しないで直登だぜ?頭おかしいだろ」
ピザに飽きたのかポテトに手を伸ばす梓蘭世が突如爆弾を投下した。
せっ、西海!?
俺が落ちたあの偏差値73を超える超有名校を…?
色々と複雑な気持ちになり気持ちを落ち着かせようと食べかけのピザを一旦皿に置く。
東京の中学で担任が俺に向かってあそこは少し厳しいかもと難色を示したのを思い出す。
三木先輩が実際に受験したわけでもない、合格したわけでもないのに非常に気分が落ち込んだ。
硬派で見た目も男らしく割とノリも良ければ頭まで良いだなんて全部持ちすぎだろ。
何しにこの人はこんなところに通っているんだと疑問が浮かび、渦巻く黒い感情を隠したくて顔に出さないように努めていると、
楓「俺らからしたらあの梓蘭世が山王にいる方が意外ですけどね。芸能人だから別のとこかと思ってた」
蓮池が梓蘭世に向かってストレートに芸能人と言い放った。
梓蘭世の機嫌が地に落ちて俺みたいに嫌味の1つでも言われるがいいとその時を待つが、
蘭世「芸能活動OKの男子校なんて名古屋で山王しかねーんだよ」
ポテトを摘みながら答える梓蘭世が蓮池の物言いを許すのを見て、また黒い感情が1つ増える。
俺は見ているだけでも睨まれて嫌味ったらしく罵倒までされると言うのに、蓮池はなんで許されるんだよ。
俺と何が違うんだ、ずるいだろ。
梅生「蘭世って男子校が良かったの?」
俺の斜め前で一条さんが自分の知らない情報を聞かされ驚きの声を上げると、
三木「火のないところに煙は立たないからな」
すかさず三木先輩が答えた。
にっこりと笑うその姿はやはりどことなく威圧的だ。
蘭世「この通り、三木プロダクションのご意向。ついでに三木さんはお目付け役」
……は?
耳を疑う言葉を聞いて、正気かよと言いかけたがピザを押し込んで耐えた。
梓蘭世のために、自分は進学校に行かない選択をしたって事か?
普通学校なんて自分の将来とかを考えて選ぶものじゃないのか?
信じられない気持ちで2人を眺めていると、あと1.2枚なら食べても大丈夫だぞと三木先輩が梓蘭世に微笑んだ。
梓蘭世ははげんなりした様子でご馳走様と手を拭き始める。
ま、まさか体型も管理している…とか…?
三木先輩の目が笑ってるようには見えなくて、梓蘭世のあの野菜しかない弁当が脳裏に浮かびゾッとした。
本気で梓蘭世のお目付け役ってだけで進学校に行かなかったのか?
何のために?
芸能プロダクションの息子ってそんなことまでしないといけないのか?
ぐるぐると疑問ばかりが渦巻いてしまい、とてもピザどころではなくなる。
そんな中、隣の柊は目の前の一条さんにせっせとオレンジジュースを注ぎながら質問した。
夕太「ん?じゃあ梅ちゃん先輩は?」
梅生「俺は中学からだよ」
夕太「えー!じゃあ俺も中学から山王にすれば良かった…そうしたら6年梅ちゃん先輩といれたのに……」
呑気にハムスターみたいに膨れる柊に、
蘭世「てかさ、何でそんなに梅ちゃんがいいんだよ。知り合いって感じでもねーし…お前梅ちゃんの何なのさ」
梓蘭世が不貞腐れそっぽを向いた。
明らかに焼きもちを妬いている姿を見て、一瞬で三木先輩の体型管理とかシビアな芸能界の想像は消し飛んだ。
この学園に来てから少し思っていた事がある。
梓蘭世はあまりにも発言が女子っぽい。
言っても誰にも伝わらないだろうが、何というか、
1人にべったり執着する感じがまるで女子みたいなんだよな。
しかしそんなことを柊が気にすることもなく、
夕太「よくぞ聞いてくれました…!」
と、コホンと咳払いをし、自分と一条先輩の素晴らしい出会いとやらを目を輝かせて語り始めた。
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