214.【夏といえば?】
布団を敷き終え騒がしい1階を覗きに階段を下りていくと、とんでもない光景が飛び込んできた。
夕太「やば、強姦?」
楓「未遂だね」
何てことを言うんだと思うが、あながち間違ってない
のもあって言い返しようがない。
1階では桂樹先輩に押し倒された梓蘭世が布団の上で
大暴れしていたのだ。
桂樹「ほんっと生意気なんだよ!!」
蘭世「言われる方も悪いだろ!!」
梅生「はは……」
一条先輩は親友の騒動をのんびりと笑って見ているが、桂樹先輩は梓蘭世を必死に押さえつけ、その激しく暴れる様子はまるで捕らえられた野生の猫のようだ。
三木「傷だけはつけるなよ」
桂樹「わかってるって!」
夕太「えー、ジュリオン先輩俺も混ぜてよー!」
三木先輩はスマホを眺めながら念だけ押してスルーしているが、それを面白がった柊が桂樹先輩の背中に飛び乗ると、その衝撃で梓蘭世と桂樹先輩の顔が更に近づいた。
蘭世「ぎゃああああ!!!無理無理無理無理!!!」
同時に半狂乱の叫び声が部屋に響き渡りるせいでそっと耳を塞ぎ、今日ほど校舎から離れた部室で良かったと思う日はないと胸を撫で下ろした。
楓「何言ったんですかあの人は」
梅生「桂樹先輩が大学で彼女作ったら承認欲求魔人で
インスマに黒歴史だけを残し3ヶ月で別れてその後投稿
全消しする、に蘭世が500円賭けたらアレ」
楓「一理ありますね」
雅臣「な、何てこと言うんですか!?」
どうでもよさげに笑う2人に俺が怒った瞬間、更にキスを仕掛けようと身を乗り出した桂樹先輩の腹に梓蘭世の見事な蹴りが炸裂する。
鈍い音とともに桂樹先輩の体が一瞬くの字に折れ曲がると、すかさず梓蘭世は猛スピードで抜け出し一条先輩の肩を掴んでその背後に隠れた。
パーカーの胸元がはだけて華奢な鎖骨が露になるが、
その姿が妙に艶めかしく俺は思わず目を逸らしてしまった。
蘭世「俺ってばほんと可哀想じゃね?パーソナルスペース大事にする人なのに...…」
梅生「......それは俺もなんだけど?蘭世離れて」
蘭世「何でだよ梅ちゃん、意地悪言うなよ」
急に目の前で繰り広げられる夫婦漫才に邪な気持ちも
秒で消え失せるが、いつも冷静な一条先輩の声に微かな苛立ちが滲んでいる。
それが気に入らないのか拗ねたように唇を尖らせた梓蘭世はそのまま一条先輩にしなだれかかるように抱きついた。
一瞬、一条先輩の体は石像のように固まってしまうが
直ぐに肘が鋭く振り上げられ梓蘭世の鳩尾に容赦ない
一撃が叩き込まれる。
蘭世「……!?」
再び聞こえた鈍い音とともに小さく呻いた梓蘭世はその場に崩れ落ち肩を震わせていて、懲りないその姿にやれやれと言いたくなった。
夕太「ミルキー先輩!明日の夜さー、肝試ししようよ!」
柊がそんな騒ぎをよそに目を輝かせて手を叩くと、三木先輩はようやくスマホから目を上げる。
三木「肝試し?」
柊「夏合宿の夜といえば怖い話か肝試しでしょ?」
胸を張って答える柊に、確かに夏といえば背筋が凍るような怖い話が定番だと頷きたくなる。
テレビでもこの時期はよく2時間スペシャルで心霊特集が組まれるしな……。
ただ、こんな少人数のSSCで肝試しをやるなんて無理だろうと口を開きかけた瞬間、
桂樹「肝試し?なら運動部の奴らんとこ入れて貰おうぜ」
桂樹先輩がいとも簡単に提案した。
蘭世「ゲッ!!ガチ?」
桂樹「確かサッカー、バスケ、バレーにあとテニス部もいたかな。そいつらが校内使ってガチ肝試しやるって言ってたし俺らもそこに参加する?」
夕太「するする!!」
柊が即答すると陽キャで人脈も広くノリのいい桂樹先輩は早速スマホを取り出し誰かに電話をかけ始める。
蘭世「最悪。マジなし」
楓「梓先輩ビビり__いってぇ……」
梅生「蘭世、殴らないの。でも肝試しちょっと楽しみかもなぁ」
三木「運動部の奴らがやるならかなりガチだろうな」
夕太「その方がいいじゃん!」
皆はかなり乗り気のようだが、たかだが高校生の肝試しレベルでここまで怯えるなんて梓蘭世は余程の怖がりなんだと呆れてしまう。
しばらくして電話を終えた桂樹先輩はピースサインで
振り返った。
桂樹「明日の22時から!ピロティの噴水前集合だって」
三木「了解。さて、順番に風呂行くか」
夕太「風呂ってどこ?学校に浴場なんかないよね?」
梅生「あぁ、合宿中は水泳部がよく使ってるプールの
シャワールーム順番に借りるんだよ」
一条先輩の説明によれば第2体育館に隣接した室内プールのシャワールームを早いもの順に使うらしい。
普段の授業では第1体育館を使っているので第2体育館の仕様は知らなかったが、山王って一応私立なだけあって意外と設備が整ってるんだよな。
梅生「激混みだけどね」
蘭世「この時間ならそこまで並ばずにいけんじゃね?
お前ら先行けよ、俺は後から入るわ」
楓「なら俺は家戻って風呂入ってくるんで……もし良ければ梓先輩も俺ん家で入ります?」
桂樹「え、マジ?わざわざ?ダルくね?」
自宅が歩いて5分もかからない場所にある蓮池からすれば、むさ苦しくて狭いシャワー室よりものんびり家で
檜風呂に浸かる方が気が楽なのだろう。
三木「あぁ、その方がいいな。夜は鍵がかかるもしれないから使えない可能性もある。蓮池、頼めるか?」
楓「もちろんです」
蓮池は三木先輩に頷くと、梓蘭世が準備を終えるのを
待って一緒に部室を出て行った。
家が近くてもわざわざ帰るのは面倒だと感じた俺は、2階に置いた荷物から風呂の支度を取りに階段を登ると、背後から柊の軽やかな足音が響く。
夕太「でんちゃんの家が近くて良かったね」
雅臣「……だな。梓先輩、あの調子だと深夜にシャワー浴びる気でいたんだろ?」
夕太「ないとは思うけど盗撮とかされたら溜まったもんじゃないもんね」
男子校で盗撮なんてありえないと信じたいが、勘の鋭い蓮池は深夜に1人でシャワーを浴びるのは危険だと心配したのだろう。
もし梓蘭世のシャワーシーンが撮られたらと想像すると心底ゾッとする。
雅臣「蓮池も稽古に来るおばさん達に勝手に写真を撮られてるしな……気をつけるに越したことはないし名案
だったな」
夕太「ま、でんちゃんって化粧水とか風呂上がりにやること多いし、あの2人はあっちでのんびり浸かるのが
ぴったりだよ」
柊は保湿なんてワセリンでいいのにと笑っているが、
蓮池は俺の家でも風呂上がりにパックをしたりと非常に美意識が高かった。
〝蓮池は自分の商品価値を高めてる〟と以前三木先輩が言っていたように、あいつにとっては美容も仕事の内なんだろう。
桂樹「お前らもう行くぞー!混むから早くしろー」
雅臣「今行きます!!」
ぼんやり考えていると桂樹先輩の威勢のいい声が響き、のんびりしている暇なんてないと気づく。
俺達は慌てて風呂へ向かって駆け出し、急かされるままに廊下を突っ走った。
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