24.【ピザの誘惑】
ただでさえ俺と柊、そして蓮池の3点セットみたいに周りから勘違いされているのに部活まで一緒だなんてことになったら本当に友達だと思われかねない。
それだけは回避したいと思い、後日再度同じクラスの奴に名前だけでも貸してくれないかと頭を下げて回ってみたが結果は惨敗だった。
サークルの概要やメンバーを話した途端に、
「あー…ごめん!そのメンバーなら無理だわ!」
「柊はまあいいとしても…蓮池とおま……いや、歌ったりとか無理だし悪い」
「うちの部兼部禁止なんだよ」
のらりくらり、全員そそくさと逃げていく。
誰とはハッキリ言わないが概ね蓮池が理由だと思う。
分かるぞ、俺もあいつは大嫌いだ。
入学してからまだ2ヶ月も経ってないのというのにクラスの大半から嫌われているだなんて。
蓮池の性格の悪さが知れ渡っていることに1人ほくそ笑む。あいつと話してると俺がおかしいみたいに感じるが、そうじゃないんだと悦に入った。
当の蓮池はそんなことを知らずか全く気にしないのか、堂々と家業だなんだで遅刻してくるし、サークルも中抜けしたりととにかく目立つ。
叩かれる理由として十分だ。
なのに今日のピザはちゃっかり参加するんだから図々しいったらありゃしない。
そして俺はと言えば結局梓蘭世に命令された人数を揃える事も俺の代理を見つける事も未だ出来ず、サークルに連日顔を出している始末だ。
提案者の柊や割と楽しそうにしている一条さんが毎日参加しているのは理解できる。
しかし、何故か三木先輩と梓蘭世の2人も毎日サークルに顔を出しているのだ。
俺よりは忙しいであろうその2人がいる以上、俺も行かざるをえなくなる。
それこそ最初の内は無断で休むか適当に連絡を入れればいいだろうと考えていたが、よりにもよって蓮池がグループチャットに欠席の際の理由を割とちゃんと書くせいで俺が休む明確な理由の無さが際立ってしまう。
行きたくいので行きませんだとか、休みますだとか言えばいいと思うだろう?
俺が全てを上手く適当に濁せる性格だったら最初からこんなことになってない。
自分の生真面目さを恨みながら仕方なく今日のピザパーティーの会場へと向かった。
今日の活動場所は調理室だと連絡が来ていたが…まさかピザを一から作るわけじゃないよな?
そんな一抹の不安を抱えながら調理室の扉を開くと、
蘭世「うわ!まじでピザじゃん!」
梅生「柊、この量のピザどうしたの?」
既に集まっていた2年生の歓喜の声が聞こえた。
それもそのはずだ。
調理室の机にはLサイズのピザが10枚も並んでいて、山盛りのポテトにコーラにオレンジジュースといった飲み物までたくさん置いてある。
夕太「小夜先生がツテがあるって、こっそり学校裏のドレミピザデリバリーしてくれたんです!」
窓際の壁にもたれかかって腕組みドヤ顔の担任に、拍手ー!と柊が手をヒラヒラさせながら周りに促した。
やるじゃん小夜先生、と拍手する梓蘭世はピザを目の前にして珍しく上機嫌だった。
ふと窓から差し込む西日に透けた担任の髪を見て、入学式の時のおかしなウィッグを思い出した。
結局あれはハゲ隠しでもなんでもなく、入学式でも変わらない明るい髪色を教頭に叱られ無理矢理体裁を整えるために栄のダンキホーテに走って急遽用意したと本人が授業中に言っていた。
無駄にイケメンでラフな長い前髪はカチューシャで括ったり結んだりといつも何気なく洒落ていて、適度に適当。
ノリも良くて生徒からも人気だが、俺は担任の変に目が据わっているとこが何となく怖かった。
正直本当に教師らしくないなと入学当初から思っていたが、このピザを手配した話を聞いて更にそう思う。
三木「この量よくバレずに持って来れましたね」
小夜「まぁな、色々やり方ってもんがあんだよ」
感心する三木先輩を横目に、担任は先に開けてあったピザを1枚取ると大きく1口で平らげた。
小夜「俺今から職員会議だから、先輩後輩で仲良く交流を深めなさいな」
もごもごと口の中にピザが入ったままそう言って、指についた粉を払いながら担任は調理室を出て行く。
楓「おい何突っ立ってんだよ邪魔退けよ」
後ろから強く押され、背中越しに聞こえる罵声に振り返ると担任と入れ替わりで蓮池が中に入ってきた。
楓「これだから陰キャは困るよな。手伝うことありますか?くらい聞けよ使えねえな」
___い、陰キャ!?!?
入ってくるなり悪態づいた蓮池はそのまま開けていいですか?と次々ダンボールのピザの蓋を開けていく。
聞き間違いか?今あいつ俺のこと陰キャって言ったよな?
ふつふつと怒りが込み上げる。
俺のどこが陰キャなんだよ!
俺はお前と違って単純に物静かなだけだ!
夕太「雅臣も早くこっち来いよ!ピザあるよ!」
やっぱり来なきゃ良かったと奥歯を噛み締めるも、柊に手招かれると目の前のピザの誘惑には勝てなかった。
梅生「それにしても…すごい量だね」
蘭世「それは言えてる、食いきれるか?」
ピザが好きなだけあり乾杯よりも前に梓蘭世がマルゲリータを口に運んだ。
一条さんに嗜められながらもうめぇと声を上げ、机いっぱいに広げられたピザを眺め量の心配をする。
夕太「それは大丈夫、絶対残らない」
自信を持って宣言する柊の視線の先を追うと、獲物を前にした獣の目でピザを見る蓮池がいた。
そういえばこいつ普段からめちゃくちゃ食うんだよな。
弁当箱もデカいお重三段であれこれ綺麗に煮物などが詰まっていて、掃除機の如く秒速で平らげていくその様は下手なホラーより怖い事を思い出す。
三木「皆飲み物持ったか?」
全員が置かれた紙コップにそれぞれ好きな飲み物を注ぎ手にしたところで、三木先輩が乾杯の音頭をとる。
三木「SSC設立に乾杯!」
紙コップを上げて全員の乾杯の声が響く中、蓮池は一目散にピザを取り始める。
夕太「あ!でんちゃんストップ!取りすぎ!」
楓「まだ山ほどあるんだからいいじゃん」
次から次へとピザを紙皿に移し蓮池が飲み込むように食べるのを見て、わんこそばじゃないんだからと見てる俺の食欲が失せそうだ。
そういえば前に蓮池がうどん8玉平らげたと柊が言ってなかったか…?
ピザが余る心配をしていなかったのも納得がいく。これなら1枚残らず全部無くなるのも時間の問題だ。
蓮池の食べっぷりを見て、俺も慌てて1番美味しそうな照り焼きピザを手に取った。
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