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211.【部外者は立ち入り禁止】



蘭世「あーーー涼しい、でんクーラーつけて出てきたの天才」


楓「もっと言ってくれていいですよ」


蘭世「神」


夕太「なんかデジャブだなぁ」



蓮池は蚊取り線香を取りに行くついでに担任から部室の合鍵を借りてクーラーをつけてから公園にきたらしい。


……こんな気遣いができるんだからたまには俺にも優しくしてくれたっていいのに。


そう思いながら部室に入ると梓蘭世はすぐにゲーミングチェアに腰を下ろした。



蘭世「ガン冷え最高ー、だー疲れた」


夕太「うわ!ここ蚊に食われたー!」



ムヒを探す柊の手は忙しなく、ゲームからお菓子まで

何でも詰まったリュックサックを漁っている。



夕太「雅臣、これ食べたことないでしょ?あげる」



柊は俺を振り返るとコーンポタージュ味の駄菓子を

丸ごと放り投げてよこした。


皆がゾロゾロ部室に流れ込む中で一応礼を言うと、桂樹先輩だけが扉を開けたまま立ち尽くしている。



桂樹「さっきちょっとしか見てなかったからあれだけど……どうなってんだここ……」


三木「俺らの部室だ」



三木先輩が淡々と答えるが、確かに桂樹先輩が驚くのも無理ないよな。


部室にはゲーミングチェアや柊が持ち込んだyogibaの

ビーズクッション、ミニ冷蔵庫にコーヒーマシン、

チェスやオセロのボードゲームが散らばる机までなんでもありの状態だ。


随分物が増えてきたなと思ってはいたが、いつの間にか組み立て式のハンガーラックまで置かれ、蓮池と梓蘭世のハイブランドの服が無造作にかけられている。



雅臣「夏休みはいってから急に荷物増えましたよね?」


蘭世「そこまでじゃね?それより雅臣、何か冷たいの

入れてくれよ」



俺はハイハイと返しながら、マシンのボタンを慣れた手つきで押してコーヒーを淹れ始める。



雅臣「桂樹先輩も何か飲みますか?」


桂樹「いや喫茶店じゃねぇんだから……それに雅臣を

顎で使うなよ」



半ば呆れを含んだ声で梓蘭世をたしなめるので、俺は

好きでやってるんですよと言いかけた瞬間、




楓「陰キャはそれくらいしか役に立たないからいいんですよ。俺アイスラテな」


雅臣「おい!!」



通りすがりにちゃっかり注文を入れていくその態度に俺は思わず声を上げるが、すぐに気を取り直して桂樹

先輩に笑顔を向ける。



雅臣「あの、桂樹先輩。俺、作るの好きですから気にしないでください」


楓「何だそれ勿体ぶりやがって」


雅臣「も、勿体ぶってなんかないだろ!?」


三木「雅臣の淹れるコーヒーは本当に美味いぞ? 俺にもホットで入れてくれないか?」



俺がムキになって返すと三木先輩が絶妙なタイミングで間に入ってくれて、その穏やかな一言に空気が少し和らいだ。


1つ1つの注文に合わせてマシンのボタンを押していくが、正直機械が全部やってくれるんだから誰が作っても同じ味で……。


それでも滑らかに響く機械の音に妙な楽しさが込み上げてきて、結局自分はこういう作業が嫌いじゃないんだと身に染みて感じた。



桂樹「雅臣、それ持ってくの手伝うよ」


雅臣「あ、ありがとうございます……!」



誰も手伝おうとしないのに桂樹先輩だけが気を利かして俺の傍に立って待機してくれる姿につい感動してしまう。



桂樹「てかこれ高そうだな……持ってかれないように

気をつけろよ」



桂樹先輩がマシンを撫でながらどこか心配げに呟くが、蓮池はニヤリと口角を上げた。



楓「次はその湿気た20万のマシンじゃなくて50万の方にしろよ」


雅臣「あぁ、最初どっちにするか悩んだんだよな。

でも確かに高い方が機能も多くて___」



その瞬間、桂樹先輩の視線がピクリと動き、まるで信じられないものを見るような目で俺を捉える。



桂樹「はぁ? こんな高いのすぐ買うなよまだ使えるのに」


夕太「ほらぁ……雅臣はナチュラルボンボンだから」



その呆れっぷりに、俺は自分の言葉を振り返り思わず

ハッとした。


柊までが呆れた顔でこちらを見つめていて、無意識に

染み付いた金銭感覚のズレに俺は頬が引き攣るのが分かる。


親父にいつカードを止められるかと怯えつつ、また買い直せばいいかと軽く考えてしまう自分はさすがにどうかしてる。



楓「ま、そういうことなんで心配ないですよ。桂樹さん欲しかったら持ってけばどうですか」


雅臣「な、何言ってんだよ! 先輩がそんなことするわけないだろ! ?す、すみません、桂樹先輩こいつが___うぉっ!?」



頭を下げようとした瞬間、立ち上がった蓮池が足を蹴ってきたのでよろめきながらも抗議する。



雅臣「蹴るなよ! 」


楓「こいつとか言っとんなよ、調子こきやがって」


雅臣「今コーヒー持ってるのに危ないっ…うわ!?」



そこへ蓮池に蹴られる俺を見て楽しくなった柊が猿の如く背中に飛び乗ってくる。


ば、馬鹿どもが……!!!



雅臣「く、首が締ま、あ、危ないだろうが!!」


蘭世「うるせぇよ、1年!!!」


雅臣「アンタは毎度どっちが悪いのかよく見てくださいよ!!」



いつものように梓蘭世に理不尽に怒鳴られるが、もうそろそろ始まりはいつもこの2人だと理解してくれよと睨んだ。


俺は反抗しているだけなのにと苛立ちながら慌ててバランスを取ると、



梅生「蘭世もうるさいよ」



一条先輩が冷静に突っ込むまでが落ちで、最近のSSCは毎回こんなパターンで大騒ぎだ。


俺はこの騒がしさですっかり自分の金銭感覚のおかしさを忘れてしまって、しがみついて離れない柊を剥がそうと必死だったが、桂樹先輩は呆然としつつも部室を見回しながら呟いた。



桂樹「ここを部室にして正解だったな。うるせぇったらありゃしねぇ……けどこんな快適なら___」


三木「リオン、部外者はここに入れるなよ」


桂樹「い、いや、別にいいだろ? ちょっとくらい……」



企むようなその口調に三木先輩が鋭く切り込むと、桂樹先輩は慌てて弁解を始めるが、さすがにそれはまずいと俺も咄嗟に口を挟んだ。



雅臣「あのっ、顧問からもSSC以外の人を入れないようにって言われました。それで鍵もつけたんです。さすがにここは……」



俺の視線に釣られて全員の目がハンガーラックに無造作にかけられたハイブランドの服へと向く。


そう、これが鍵をつけたそもそもの原因だ。


こいつらにとっては安物かもしれないが他の生徒から見れば高額な品々で、他人が入れば盗まれてもおかしくないものばかりだ。


ところが蓮池がどうでもいいとばかりに鼻で笑った。



楓「こんな型落ち欲しがるなんてよっぽど見栄張りたい奴だけだろ」


蘭世「俺のそのパーカーも2年前とかに買ったやつだしなぁ。まぁ正味取られてもどうでもいいよ」


梅生「そーいえばそれ、買ってすぐにミルクティーこぼしてたしな」


蘭世「いや、あれは梅ちゃんが倒したんだろ!? 洗濯して縮んで結局梅ちゃんのジャストサイズになったし」



………ほら見ろ。


これだから他人をここに入れられないんだ。


軽口を叩き合う2人を横目に俺はため息をつく。


久しぶりにSSCの部室に顔を出した桂樹先輩には悪いが、見ず知らずの他人を入れるなんて以ての外だと改めて痛感した。


部室なんて本来練習や荷物置き場のための場所で、こんな風に私物化するのはそもそも間違っている。


ただこの雑然とした自由な空間が俺達にとって居心地がいいのも事実だ。


しかし問題を起こせば即座にこの場所を生徒会に取り上げられるのは目に見えている。


頑張って手に入れた部室だからこそ余計な問題を背負いたくないと、俺は声を張り上げ皆に聞こえるように宣言した。



雅臣「とにかく、全員、SSC以外は入れない方針で! すみませんが、桂樹先輩もよろしくお願いしますね!」


夕太「はいはーい、部長の言うこと聞きまーす!」


桂樹「……分かったよ」



柊がわざとらしい声を上げて手を挙げるが、そのままカナリアのような上目遣いで桂樹先輩をチラリと見ると先輩は少し不服そうではあるが理解してくれたみたいで静かにアイスカフェラテを飲み始めた。



夕太「そだ、雅臣! 前に合宿でなんか渡すって言ってたじゃん? あれってなんだったの?」


雅臣「あ、そうだった……」



柊に尋ねられて、すっかりそのことを忘れていた俺は急いでカバンを取りに行きある袋を取り出した。






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