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208.【ブランコに揺られて】



焼肉を食べ終え覚王山まで戻ると担任の車から坂の上のコンビニで降ろされた。


俺たちはアイスや夜のお菓子を次々にカゴに放り込んだが、割り勘は男らしくないとふざけて言い出した柊が

ジャンケンで負けた奴が全額払うと勝負を仕掛けてきた。


正直、蓮池以外の全員が柊の〝ジャンケン負けなし伝説〟をまだ信じきれていなくて、軽い気持ちでその勝負に乗ったのだが……。



桂樹「いやー三木サンキューな」


蘭世「三木さん流石だわ」


三木「負けて()()()んだよ」



桂樹先輩がニヤリと笑うと三木先輩が強調して言い返した。


結果は柊の見事な一人勝ちで珍しく負けたのは三木先輩だった。


全額経費で落とすかと思いきや、それじゃ男らしくないと現金で支払わされ、俺達は今三ツ池公園でアイスを食べながら担任が迎えに来るのを待っている。



梅生「あれ?蓮池は?」


夕太「家に蚊取り線香取りに帰った!でんちゃん蚊に

刺されんのめっちゃ嫌がるんだよね」


蘭世「おー、ナイスじゃん。てか三ツ池公園って昔っからあるけどこの謎遊具テンション上がんだよな」


夕太「蘭世先輩どっちが早く上登れるか勝負しよ」



梓蘭世がチェーンネットの遊具を指差すと柊がチューブアイスを咥えたまま目を輝かせ、2人は三木先輩と一条先輩を審判に連れてその遊具へ走っていった。


俺はカップアイスを選んでしまったせいで勝負に参加できず、ブランコに腰かけて勝敗の行方を眺めていると、



桂樹「雅臣」


雅臣「桂樹先輩?」



名前を呼ばれて振り向くと桂樹先輩が隣のブランコに腰を下ろした。


ジーパンに白のTシャツというラフな格好で、ラムネ色のアイスバーを齧っているだけなのに爽やかでかっこいい。


この前一条先輩が「三木先輩と桂樹先輩は白と黒で対比になる」と言っていたけど、今日もまさにその通りで思わず小さく笑ってしまう。



桂樹「雅臣、そのネックレスどうしたん?」



桂樹先輩がアイスを口から外し、トントンと自分の胸元を人差し指で叩きながら俺を見た。



雅臣「えっ?」


桂樹「さすがにあのネックレスを形見というには母ちゃんイカしすぎ」



そう言ってブランコを軽く揺らしながら桂樹先輩は笑う。


……柊たちが咄嗟についた嘘に桂樹先輩は気づいていたんだ。


それでもあんなに必死に探してくれたなんてと胸が熱くなる。



雅臣「実は梓先輩にお店紹介して貰って……大切なものだったんです」


桂樹「へー?蘭世優しいじゃん。俺なんか絶対教えてくれねぇのに。どこの店?」


雅臣「に___」



二階堂さんの店だと言いかけて俺は慌てて口を閉じた。


桂樹先輩は二階堂さんの店を知らないんだ……。


ふと前を見ると、鎖の遊具で柊を軽く蹴りながら無邪気に笑う梓蘭世の姿があった。



店名を言わないでくれとは言われてなかった。



でも多分あの店はただのショップじゃなく、梓蘭世に

とって心の拠り所みたいな特別な場所なんだろう。


梓蘭世が二階堂さんといる時のいつもより少し幼い笑顔や、ふとした瞬間に見せる素の表情を思い出すとなぜかその秘密を守りたくなった。



雅臣「えーっと……大須? だったんですけど、ごちゃ

ごちゃしてて……古着屋みたいな?」


桂樹「あー、大須か!!そりゃ説明しにくいな……東京にはあんなヘンテコな場所ねえだろ?」



本人が教えてないのに俺が勝手に店の場所を口にするのは違う気がして誤魔化すと、桂樹先輩は納得したように笑う。



雅臣「そ、そうなんですよねー……店の名前とか俺わかんなくて」




___本当はちゃんと覚えている。



でも、やっぱり俺から言うのは良くないと思った。


俺が簡単にあの店を教えてもらえなかったのと同じで、桂樹先輩にも教えてない理由があるのかもしれない。


それに自分だけの大切な思い出なのに、何故か容易に

横取りされる気がしてなんとなく口にしたくなかった。



蘭世「夕太なんだよそれ!」


夕太「新体操選手」



その時柊がいつもみたいにふざけてポーズを決め、梓蘭世が爆笑する。


その様子を見て、桂樹先輩が呟くように言った。



桂樹「……蘭世ってあんな笑うんだ」



桂樹先輩が梓蘭世の名前を口にしながら見せた驚きと珍しそうな表情がなぜか俺の胸に小さく引っかかった。


2人は普段から気さくに言葉を交わし笑い合う仲のはずなのに、そんな顔をするのが少し意外だった。


まるで俺が知る梓蘭世と桂樹先輩の知る梓蘭世がどこかで微妙にズレているような気がして、心の奥で何かがチリッと音を立てる。



桂樹「……あ、そうだ雅臣お前さ、焼肉の時も思ったけど柊と蓮池って大丈夫かよ?」


雅臣「え?」


桂樹「いやさー、ぶっちゃけアイツら性格悪いから心配で?」



桂樹先輩の言葉には、どこか真剣な響きがあった。


やっぱり傍から見ると柊と蓮池はキツく映るんだと、桂樹先輩の言い分に俺は少し頷ける気がした。



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