204.【合宿に乾杯!】
俺達は私服に着替えて、貴重品を持って職員用駐車場に向かうと、
夕太「……残クレだ」
楓「見事な残クレアルファードだね」
小夜「残クレじゃねぇし一括だわ!!家族と海行こうと思って買ったの!!」
そこには以前担任が運転していた緑のビートルではなく、真っ白なアルファードが堂々と停まっていた。
蘭世「えっ家族って……顧問結婚してたん?」
小夜「いや?結婚を前提にお付き合いしてる?パートナー的な?」
夕太「まだ結婚も決まってないのに残クレかぁ……」
楓「ペアローンとかするタイプなんだ」
小夜「してないから!!」
担任の声が駐車場に響き三木先輩と2年生は苦笑しているが、桂樹先輩だけは蓮池と柊の破天荒さを初めて目の当たりにしたせいか頬が引きつっていた。
ところで車の話をしているのは分かるが〝ざんくれ〟って何だ?
きっとこの2人のことだからろくな言葉じゃないんだろうと俺は内心で首を振った。
桂樹「ホストだの残クレだのこの代こぇーよ……雅臣
お前可愛いわ」
三木「査定額が下がるからな。皆汚さないように乗れよ」
小夜「だから残クレじゃないからね!?」
担任が叫ぶが、皆の笑い声にかき消される。
そのまま三木先輩は助手席に、2年生と桂樹先輩は中列、俺たち1年生は柊、俺、蓮池の並びで最後列に乗り込むが車内はベージュのスエード調素材と合成皮革のコンビシート、木目調の加飾が施され高級感に満ちている。
8人乗っても窮屈さを感じない広さに思わず感心してしまった。
桂樹「マジで焼肉とか神じゃん」
三木「この辺だと店どこがある?」
桂樹「栄まで行きゃ牛つのとか?あみやき御前とか?」
焼肉屋の名前がパッと出てくるなんて、さすが桂樹先輩。
色んな友達と遊びに行き慣れてるんだろうな。
夕太「せんせー給料安いのに奢りとか大丈夫なの?でんちゃんめっちゃ食うよ」
小夜「子供はいらん心配すんなって!あみやき御前って食べ放題ソフドリ飲み放題だったよな?あそこならコインパあるしそこでいいか?」
三木「食べれればどこでも、よろしくお願いします」
小夜「死ぬほど食ってきなさい」
落ち着きのない柊が身を乗り出して担任の懐具合を心配するが、あっさり食べ放題の店に確定して車は滑らかに動き出し校門を抜ける。
それにしても食べ放題か……。
食べ放題の焼肉屋に行くなんて俺にとっては初めての経験だ。
親父と行った焼肉は数えるほどでどちらかと言えばホテルの鉄板焼きが多かったと思い出していると、
楓「食い放題なんてこいつが肉が噛みきれないってボンボンムーブかましますよ」
隣に座る蓮池に鼻で笑われカッとなる。
雅臣「はぁ!?」
楓「どーせてめぇはタレアンチだろ。紳士ですから塩で、とか通ぶってな。ジジイになれば塩しか食えんくなるのに偉そうに」
雅臣「まだ何も言ってないだろ!?腹減ってるからって俺に当たるなよ!!」
楓「食べ放題なんてそんなそんな、俺、鉄板焼きしか行ったことないですけどなにか?……って言えよ」
左隣で足を踏んでくる蓮池に俺も肘で押し返すと頭をぶん殴られた。
く、クソ野郎……。
いちいち親父の著者近影のポーズを真似して喋りやがって!!
柊まで同じポーズで笑っていて、本気でバカにしてるのが腹が立つ。
2人とも見舞いにきてくれた時の優しさはどこへ置いてきたんだよ!!
蘭世「暴れんなよ!!配置ミスだろマジで、お前ら帰りは離れて座れよ」
雅臣「俺のせいじゃないですって!!」
梓蘭世が身を乗り出して怒鳴るので抗議するが、思い切り頭をぶん殴られる。
一条先輩が止めに入ってくれるが、このサークルの連中なぜこうもは直ぐに手が出るんだよ!!
桂樹「……雅臣ってあんな感じだったか?」
梅生「先輩がいない間に色々ありましたからね」
桂樹先輩が不思議そうに言うと優しい一条先輩がフォローを入れてくれる。
俺達を乗せたアルファードは広小路通を真っ直ぐ進み、30分もかからず焼肉屋に到着した。
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店に着くと人数が多いせいか7人まとめて入れる個室に通された。
担任は「仕事を片付けるから会計の時に呼べ」と車に残り、俺たち1年生が横並びで座ると焼き台を挟んで2・3年生が向かいに座る。
夕太「まず塩タン20とー、カルビも20?」
楓「あとせせりとロースと__」
雅臣「そ、そんなに食えるか!?」
楓「黙ってろよ陰キャ」
蓮池と柊がタッチパネルで次々と注文していく様子に呆気に取られるが、俺の向かいに座る桂樹先輩にあいつらに任せようと言われたので放っておくことにした。
蘭世「軟骨とホタテ」
三木「あとミノとホルモン、大ライス食う奴」
桂樹「三木ナイス」
梓蘭世以外皆手をあげるからつられて俺も挙げてしまったが、こんなに食い切れるのだろうか……。
夕太「あとない?じゃ、とりあえずこれでボタン押すよー」
飲み物から食べ物まで一通り注文したが、あまりの量に今頃厨房はてんやわんやだろうな。
それにしてもこんな価格で食べ放題なんて男子高校生にはありがたい話だが安すぎる。
パネルに見えた単品の値段も格安で品質を疑うくらいだった。
桂樹「ちなみに明日は何すんの?」
夕太「明日は午前中は衣装作って、2年は作詞の残り頑張ってー、そんであとは祝福の歌も練習してあとは自由!!」
桂樹「衣装?」
桂樹先輩か首を傾げると三木先輩が話してなかったかと補足する。
三木「悪い、忘れてた。燕尾みたいな衣装を皆で着ようって話になったんだよ」
桂樹「そゆこと?まぁいいけど……にしてもなんかいつの間に部室もゲットしたり、ちょっと見ない間にすげぇ変わってんじゃん」
雅臣「皆で物置塔掃除したら部室にしてもいいって、……ピアノもあるんですよ」
桂樹「あーね!合唱部が置き去りにしたあれか……
帰ったら楽しみにしてるわ」
そんなことを話してると注文した品が次々と運ばれてくる。
蓮池の食欲のおかげでの大量注文にも慣れてきたけど、さすがに男子高校生7人が頼みまくった肉の量は想像以上で思わず笑ってしまった。
夕太「みんなで乾杯しよー!」
蘭世「そこは部長じゃないんかい」
柊が立ってコーラのグラスを掲げると梓蘭世が笑って止めた。
桂樹「えっ部長って___」
梅生「あ、桂樹先輩がいない間に藤城に決まったんですよ」
夕太「えーっ!?雅臣の音頭じゃ盛り上がんないよ」
へぇと桂樹先輩に意外そうな顔でみられるがそんなことより負けず嫌いの柊が俺がやると言って聞かない。
失礼な、とは思うけどこういう集まりでの乾杯はいつも柊が仕切ってきたから任せるのが無難だ。
盛り上げ上手な柊に頼むなとにっこり笑うが、
夕太「SSC合宿に乾杯!」
「「「「「「乾杯!!!」」」」」」
…………。
至って普通の乾杯の音頭じゃないか。
これなら俺でもできたんじゃないかと思うよりも早く、蓮池が肉を網に流し込んだ。




