23.【強制参加は回避したい】
………仕事?
山王はアルバイト禁止だったよな?
床に視線を下げると、雑に置かれた蓮池のハイブランドの通学鞄が目に入る。
これを見る限りこいつが金に困ってる風にはとても見えなかった。
三木「それなら蘭世もだな。ところで蓮池は何の仕事なんだ?」
楓「仕事というかまぁ、家業ですね」
………家業?
そういえばこいつのこと何も知らないな。
いや、毎日仕方なく一緒にいる上にろくな会話もしていない、俺の極力関わりたくない人間トップを独走中だからそれも当然なんだが。
夕太「でんちゃんは蓮池流華道家元の孫なんです。普段は教室で生徒さんと一緒にお稽古してるんですけど、四季のいけばな展とかイベントとか決まるとホテルやデパートに大きいお花作りに行くから結構忙しくって」
あの華道の蓮池流!?俺でも聞いたことがあるぞ!?
こいつそんな大層な家の生まれだったのか!?
すぐには信じられない気持ちで蓮池の代わりに柊が説明するのを聞きながら、ふとあの鋏を思い出した。
あの鉄製の鋏を持ち歩いている理由は、華道をしているからだったのか。
ようやく点と点が繋がり納得がいくも、この男が花を生けるだなんてまるきり想像がつかない。
梅生「俺昔いけばな展行ったよ!蓮池流の跡取りだなんてすごい…!」
一条さんの称賛を蓮池はどうも、とだけ言って軽く聞き流す。相変わらず愛想もへったくれもないな。
しかし、今は蓮池の態度も家業もどうでもよくて週5の日数がどうなるかが問題だった。
三木「そうか。まず日数に関しては週5日と記載してあっても必ず毎日参加する必要はないから大丈夫だ。逐一生徒会からチェックが入る事もないしな。それより…こっちの活動内容の方が重要だな」
三木先輩が1番上の活動内容の項目をトントンと指で叩きながら紙を持ち上げた。
三木「柊が予定してくれている行事はいいとして生徒会から許可を得た以上、少なくとも作詞・作曲・歌うというこの3つはやらないといけないな」
蘭世「……てことは文化祭は…」
嫌な予感がする。
三木 「その名の通り、自分達で作詞作曲した歌を披露することになる」
驚愕の事実が告げられ、梓蘭世がげっ!と眉を吊り上げた。
それに続き、蓮池も柊を睨みながら文句を言う。
楓「最悪すぎる、夕太くんなんでカラオケサークルとかにしとかなかったのさ」
夕太「カラオケにしたってどーせ文化祭で歌うことには変わりないじゃんかよー」
ハムスターみたいに頬を膨らます柊に対して、一条さんが優しく声をかけた。
梅生「楽しそう、俺はいいと思うな」
そう言って気遣う一条さんの席に柊が近寄り、ガバっと机越しに抱きつく。
夕太「梅ちゃん先輩大好き、優しい」
ギュウギュウと音が鳴りそうなくらい一条さんに強く抱きつく柊を後ろから蓮池が引っ張り、梓蘭世も離れろ!と声を荒らげた。
三木 「まぁ何にせよ……文化祭での発表は絶対だから藤城が名前だけ貸すという訳にはいかなくなったな」
三木先輩がそう言った瞬間、全員の視線が俺に集中した。
ちょっと待て、冗談じゃないぞ!
文化祭で皆の前で歌うなんて絶対に嫌だ。
しかも自分達で作詞作曲だなんて、なんで自ら黒歴史を作らなきゃならないんだよ!
雅臣「いや、あの、俺じゃない他の人が入ってくれれば名前を貸すだけで…」
必死に抗い反論するも、
蘭世「じゃあお前が早急に他の人とやらを後2人見つけてこいよ」
梓蘭世がくるりと椅子の背もたれを抱えて逆座りをし、その腕に顎を乗せ鋭い目つきをしながら命令してきた。
蘭世「人数集まらなくて結局俺が他の部活探すなんて絶対嫌だからな。俺はお前と違って忙しいんだよ」
だから俺がまとめて探してこいと。
見つけてこいよ、と冷ややかな声で再び念を押されそんな義理もないと叫びたいところだが、この傲慢さも魅力に感じるのが憎い。
俺だって忙しい、それに梓蘭世は今休業してるんだからそんなに忙しくない筈だろと顔を窺うが、恐ろしくキツい双眸に射抜かれてこれに逆らえる奴がいるはずもなく口を噤んだ。
梅生「…とか言って、蘭世ピザが食べたいだけじゃないの?」
動揺して固まる俺の前で、一条さんが笑いながら言葉を継ぐ。
夕太「え!蘭世先輩そんなにピザ好きなの?」
蘭世「うるせーなピザなんかみんな好きだろ!!てかそうじゃねぇ!また他の部活探すとかだりぃだろ」
梓蘭世はピザに反応した柊を否定するが、一条さんがさらに畳み掛ける。
梅生 「蘭世はポテチとかコーラも大好きなんだよ」
蘭世 「梅ちゃん!」
夕太「えー!で、そんなに細いの?でんちゃんは水飲んでも太るよ?」
楓「うるさいよ夕太くん」
穏やかに微笑む一条さんにそう返す柊の無邪気さが皆を笑わせた。
……いや何和気あいあいとしてるんだよ!
名前を貸しただけの俺が他のメンバーも探してこなきゃいけないなんておかしいだろ。せめて1年生全員で人数集めて来いと言ってくれよと三木先輩に目で訴えるも、
三木「早速ピザパーティーの日にちを決めよう」
と、結局その日はピザの話で持ち切りとなってしまい、1人重いため息をつく俺に誰も気が付く事はなかった。
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