202.【謝らないで】
体育館に入るとエアコンが完全に切られていて蒸し風呂のように暑く、さっきとは比べものにならないほどだった。
桂樹「若干暗いな……俺舞台見てくるわ!」
三木「俺らは入り口やネット付近を探そうか」
俺のミスでこんなことになったのに誰も文句を言わず一生懸命探してくれて、不謹慎かもしれないけど嬉しかった。
おそらく桂樹先輩がスマホのライトを照らして探してくれているのか、少し暗い舞台の上からチラチラと光が見える。
梅生「シルバーだから体育館の床だと目立つはずなんだけど……」
蘭世「マジでどこに落としたんだよ」
雅臣「す、すみません……」
本当にどこに落としたのか検討もつかなくて、申し訳ない気持ちに苛まれていると、
桂樹「___おい!あったぞ!!雅臣!!」
桂樹先輩がそう叫びながら手に持っていたのはキラリと光る物で、舞台上からヒョイと飛び降りると俺の元へ駆け寄ってきた。
先輩の額は汗で濡れていて綺麗な金髪が目のあたりに落ちて張り付いている。
それだけ必死に探してくれた気持ちが強く伝わり感動してしまった。
桂樹「これだろ?舞台袖のカーテンの裾に隠れてたから見えなかったんだな」
雅臣「そ、それです!ありがとうございます!!」
先輩が右手に握っていたのは紛れもなく俺の大切なネックレスで心の底からホッとした。
見つかって良かった……!
受け取ろうと手を差し出した瞬間、
桂樹「雅臣」
桂樹先輩は俺の目をじっと見つめて真正面に立った。
そしてネックレスのフックを外すと正面から俺の首に腕を回してネックレスをつけてくれた。
桂樹「雅臣、ごめんな」
雅臣「えっ……?」
あまりに近い距離に驚いて目を瞠っていると、今度は耳元で囁くように謝られ意味がわからない。
雅臣「あの……」
桂樹「ライブ、一緒に行けなくて俺が悪かった。お前の気持ち無視して……」
雅臣「そ、そんな!?気にしないでください!!いいんですよ!?先輩は合唱大会で大変だったのに」
頭を下げる先輩に俺は慌てて大丈夫だと手を振った。
桂樹「それにお前はちゃんと約束守って、大会も見に来てくれてたのに。絶対見に行くって保健室で言ってくれてたのに……ごめん、ほんとごめん」
……桂樹先輩は本当にいい人だ。
この前三木先輩から俺がライブを楽しみにしていたと聞いて、余計に申し訳なく思ってくれたのだろう。
雅臣「何で謝るんですか……大会のことはもう大丈夫です。それに、ライブのことは……俺が連絡しなかったのが悪かったんです。先輩は全然悪くないです!」
桂樹「でも、」
桂樹先輩は頑張ってきた合唱大会で負けてしまいライブに行く気分になれなかったのは仕方ないことだ。
俺だってこの前落ち込んでいた次の週にライブがあったとしても行ける気分じゃなかったと思う。
桂樹先輩が謝ることなんて1つもなくどうにかして謝るのをやめさせたかった。
雅臣「先輩がネックレスを見つけてくれた、それだけでもう充分です。謝るのはなしにしてください。本当にありがとうございました」
桂樹「雅臣……」
目の前の桂樹先輩はホッとしたのかいつも通りの弾けるような笑顔で俺の頭を撫でてくれた。
その笑顔がまるで太陽のように輝いて見えて、桂樹先輩のかっこいい顔に間近で見惚れていると、
楓「雅子、ロイバカいけるとか言ってごめんな……お前は出稼ぎ行って約束守ってくれたのに」
夕太「ううん、リオぴは悪くないよ……連絡しなかった私も悪いし……」
………。
……………。
始まった。
それまで大人しくしていた蓮池と柊が俺と桂樹先輩の後ろで懲りもせずまた変なコントをし始める。
楓「じゃあ、ロジャーな」
夕太「ロジャー10万じゃん! 親金でロジャーってリアル……じゃなくて! 何でこんなすんなり会話できるんだよー!」
楓「夕太くんこそ何でだよ。あのキャバ姉貴の影響?」
夕太「んーん、俺はTikTak」
雅臣「だからお前らは毎度何の話をしてるんだよ!」
振り返って怒鳴ると2人ともニヤニヤしているだけで2年生と三木先輩は呆れた顔をしていた。
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