201.【ネックレスを探して】
楓「お前何しにイキッて学校にネックレスなんかつけてきとんだ」
悲壮な俺に誰もが驚くが、しばらくの沈黙を破ったのはやはり蓮池だった。
雅臣「だから言いたくなかったんだ!!」
蓮池に鼻で笑われて顔が熱くなるのが分かる。
でもあれは俺の大切な宝物で、半泣きでも何でも落とした事実を伝えるしか無かった。
楓「これだから陰キャは……」
ケッと蓮池は俺の作ったアイスカフェラテを限界まで啜ると氷を流し込みガリボリと噛み砕いた。
雅臣「だ、だって大切な思い出で……」
夕太「あー!大須の時のやつ?」
梅生「落としちゃったの?」
小さく頷くともっと情けなくなった。
___蓮池の言う通りだ。
合宿の時くらい家に置いてくるべきだったんだ。
せっかく皆で貰ったノベルティなのに俺が嬉しくて付けてきたから落としてしまって……。
蘭世「あー?そんなら俺のブレスやるよ。それでいいだろ?」
雅臣「……」
それはそれで嬉しいが、悲しいかな今はそういう事じゃない。
梓蘭世に首を振って見せると一条先輩が慰めるように俺の肩を叩いた。
梅生「んー……そうじゃないんだよね?藤城」
夕太「よし!分かった!!もしかしたら部室に落ちてるかもだし一旦探してみようよ!」
柊は直ぐに汚れるのも構わず制服のまま部室に這いつくばって探してくれて三木先輩もドア付近まで移動して探してくれてる。
俺もとりあえずもう一度ポケットを確認するがやっぱり入っていない。
楓「ドジ、マヌケ」
夕太「でんちゃん言い過ぎ、雅臣はボッ……じゃなくて友達が少ないんだから宝物なんだよ」
ドジは酷いがボッチと言いかけた柊がギリギリ気を遣って友達が少ないと言ってくれたのは有難い。
宝物とはその通りで、あのネックレスは俺の唯一の友達の柊とこれから友達になりたい蓮池、そして大切な先輩達と自然に会話ができて最高に楽しかった思い出の象徴なんだ。
より落ち込む俺を見た蓮池が頭を掻きむしりながら立ち上がる。
楓「……ボサっとしとんなよ、お前も探せや」
雅臣「あ、ありがとう!」
どうやら一緒に探してくれるようで俺も急いで床中這いつくばった。
蘭世「ポッケに入れとったん?」
雅臣「は、はい」
部室の床か机の下にでも転がってたりしないかと探すがどこにも見当たらない。
先輩達が机やコーヒーマシンを退けてまで探してくれて、蓮池は部室の扉を開け外へ探しに行った。
どうして俺はこうやってミスばかりするんだ……。
地の果てまで落ち込みそうになるが皆が探してくれてるのにこれ以上弱音を吐く訳にもいかない。
見つかってくれと願いながら探していると、
桂樹「お疲れー」
どことなく気まずそうに桂樹先輩が部室に顔を覗かせた。
SSCの部室の場所が分かって良かった、と思うより先に先輩に泣きつきたくなる。
夕太「ジュリオン先輩!」
桂樹「え、お前ら何してんの?」
夕太「踏むかもしれないから動かないで!!下見て探すの手伝って!!」
柊が大声で静止させると桂樹先輩は訝しげに首を傾げた。
桂樹「何を?まさかコンタクト?蘭世のカラコンとか?」
蘭世「してねぇ!!俺は裸眼だわ!!ふざけてないで桂樹さんも手伝えよ」
俺達が這いつくばっているせいか何か踏んではいけないものかと勘違いさせたようだ。
三木「実は雅臣がネックレスを落としてしまったんだ」
桂樹「ネックレス?意外、雅臣そういうのすんだ。どんなやつなん?」
言外に陰キャにネックレスと言われてるみたいで悲しいが、落ち込んでるからといって全てを悪く捉えるのはよくない。
桂樹先輩はそんな事思う人じゃないだろうと己を叱咤する。
蘭世「三木さ__……いや、何でもない」
桂樹「三木?三木がなんだよ?」
梓蘭世は多分俺のネックレスが三木先輩と揃いのものだと言いたいのだろうが、よくよく考えればあの場に桂樹先輩だけがいなかった。
自分以外の皆が同じネックレスやブレスレットを持っているとはさすがの梓蘭世とて言いにくいのだろう。
それにこれだと桂樹先輩だけハブられてるみたいでどう伝えればと悩んでいると、
楓「あー……実はそのネックレス、こいつの母親の肩身らしくて」
桂樹「え!?それやばいじゃん!」
夕太「そ、そうなの!そうそう!!雅臣の死んだお母さんの唯一の肩身なの!!だからジュリオン先輩一緒に探して!!」
………。
外から戻ってきた蓮池の言葉は果たしててナイスフォローなのか。
微妙なフォローに2年も三木先輩も呆れ顔で、いつもなら怒るところだが最早ネックレスさえ見つかれば何だっていいとさえ思える。
祈る思いで探す俺の傍まで来た桂樹先輩は屈んで俺の頭をそっと撫でた。
桂樹「雅臣、外も探そうぜ?部室来たまでの道のりとかさ。学校で失くしたんだろ?」
雅臣「昼までは絶対首につけてたんです……でもいいんですか?」
桂樹「大事なもんなんだろ?俺も手伝うから皆外も探そうぜ!」
合宿に来たばかりなのに嫌な顔1つせず探すのを手伝ってくれて、俺に微笑みかける桂樹先輩は相変わらず優しくて泣きそうになる。
夕太「……得点稼ぎ__いってぇ!!」
蘭世「俺らも行くぞ」
柊のケツを足蹴りした梓蘭世は桂樹先輩の後を追うので慌てて残りの皆と一緒に外へ出た。
照りつける日差しの中、来た道を説明すると桂樹先輩は先陣切って地面をくまなく探してくれている。
「お、桂樹ー!何してんの?」
桂樹「よっ!サッカー部って今日から合宿?あのさ、見かけたらでいいからネックレス落ちてたら俺に教えてくんね?」
「ネックレス?」
「俺の後輩がなくしちゃってさ……形見なんだよ」
頼む、と手を合わせる桂樹先輩に倣って俺も頭を下げるとサッカー部の先輩はしげしげと俺を見つめた。
「え、お前って確か母さんが飛び降り自……、いや、ごめん。よっしゃ!任せとけ!」
……。
………え?
明らかに不謹慎な事を言おうとしてたサッカー部の先輩は、濁すようにして部員に伝えとくとその場を去っていった。
桂樹「あ!おい野球部!」
歩けば知り合いに当たり、次から次へと誰彼構わず声を掛けてくれる桂樹先輩の人望に俺は驚く。
夕太「……ジュリオン先輩よっ友多すぎだって」
楓「おーおー、浅漬け人間関係」
2人は何やら意味不明なことを言っているが俺は友達が多く頼もしい桂樹先輩に憧憬の念を抱いた。
同時に俺の生い立ちが都市伝説の如く学園中に尾ひれはひれがついて出回っていることに何とも言えない気持ちになる。
桂樹先輩が後輩のネックレスを探してると説明する度見た事もない先輩から、
「妹が父親を刺して転校してきた1年」
「愛人にお母さんを殺された奴」
「両親が刺し違えてそれに巻き込まれて怪我した息子ね」
と、事実とは異なる事ばかり言われて困惑した。
しかしとりあえず今はネックレスを探すことに集中しようと部室まで来た道のりをくまなく確認するがどこにも見当たらない。
桂樹「外にないならやっぱ体育館じゃねぇの?ほら行こうぜ!」
それでも桂樹先輩は先陣切って俺の為に一生懸命探してくれて、俺は少し泣きそうになった。
蘭世「お、おう、……珍しく桂樹さんガチじゃん、
どしたよ」
梅生「何でもいいから俺達も行こう」
三木「……」
俺達は走る桂樹先輩について体育館を目掛けて走っていった。
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