197.【ジャンケン大会】
蘭世「お、いたいた!」
梅生「凄い人だから会えないかと思った」
こういう時は梓蘭世の派手さに感謝するしかない。
伸びてきた銀色の髪を器用にハーフアップにしてお団子みたいにまとめているがこの人だかりでも一際華やかで目立っている。
第1体育館の入口付近はどの部も入り交じって物凄い人だかりだ。
たかがジャンケン大会にここまで人が集まるのかと驚いていると、
蘭世「おい、いつのまに部室鍵つけたんだよ」
雅臣「顧問が休みの間につけてくれたらしくて……さすがに危ないって」
いつものように部室へ荷物を置きに行った梓蘭世に今日鍵を貰ったことを伝える。
三木「懸命だな」
梅生「蓮池と蘭世が物置みたいに使ってるからね」
いえ、一条先輩貴方の韓ドラ用のテレビもです……とは言えず黙っておくことにした。
しかしここまでギャラリーが多いとある種山王の一大イベントのようで、順に体育館の中へ入っていくと遠目に桂樹先輩の金髪が目に入った。
夕太「___あれ、合唱部もいるじゃん」
雅臣「やっぱりあっちも体育館希望なんだな」
夏休みの間に染め直したのか桂樹先輩の金髪はよく似合っていて遠目にさえもかっこいい。
いつもの短髪の先輩もその後ろに控える1.2年生も気合いの入った顔つきで、どこの部もガチすぎで怖いくらいだった。
楓「何だあれ大会負けとんのにめっちゃ燃えとんな」
蘭世「だからだろ?3年の最後の晴れ舞台になるからさ」
そうか……。
この前は蓮池たちがふざけてラストソングとか言っていたが、どの部も文化祭はほとんどの3年にとって最後の晴れ舞台だ。
俺達に言いがかりをつけてきた合唱部も出来れば最後に広い舞台で全員で歌いたいだろう。
うちではなく是非そちらが勝って権利を手にして欲しいと合唱部の背中を見つめた。
白鳥「ジェントルメン&ジェントルメン!!」
急に壇上からマイクを使った声が響くが多様性生徒会長……じゃなく白鳥菊丸さんの姿が見える。
今日も器用に三つ編みを片側に垂らしている生徒会長は夏の間に成長して更にガタイが良くなっている。
隣に眼帯カラーグラスをした副会長を伴い派手の相乗効果を生み出しているがやはり梓蘭世には叶わない。
佐藤「おー間に合った間に合った」
椿「運動部は決まったよ」
梓蘭世の美しい顔をこっそり眺めながら悦に浸っていると、残りの生徒会メンバーがジャンケン大会の終わった運動部を引き連れゾロゾロ中に入ってきた。
神葉「後からきた運動部はバルコニーに移動しろ」
白鳥「むさ苦しいわねぇ……さ、お楽しみのジャンケン大会の始まりよー!!」
体育館内はわっと歓声が上がり、いよいよジャンケン大会が始まる。
神葉「今年は歴代最高の希望数を記録し、サークルと部活を合わせたその数は13だ」
白鳥「人数が多いから舞台でジャンケンするわよ。各部代表者は上がって来てちょうだい」
不正のないよう動画に写すのか壇上にはギャラリーも確認できる大型張込スクリーンが降りてくる。
「絶対勝てよー!!!」
「1年!気合い入れろって!」
「オケ部だけには負けんなっ!!」
歓声と共に気合いの入った円陣の掛け声で士気を高める部も多く、そんな中梓蘭世も柊に喝を入れるよう背中を強く叩く。
蘭世「っしゃー!!夕太行ってこい!!」
夕太「絶対勝つから!余裕余裕!!」
柊は不敵な笑みを浮かべて壇上に駆け上がると、
「I am invincible!」
眼帯カラーグラスの副会長からマイクを奪って多国籍家族仕込みの発音を披露した。
無敵とでも言いたいのか柊はマイクを副会長に返すと舞台上をピースピースと走り回っていて落ち着きがない。
柊のせいで他の部までマイクパフォーマンスを始める始末でアイドル研究会に至ってはオタ芸を披露してギャラリーは超大盛り上がりだ。
白鳥「さー!!始めるわよ!!」
いよいよ13人が壇上に揃うと生徒会長の野太い声がマイクを通して響き渡る。
副会長に円になるよう指示された各代表者は丸く集い、機材を抱えた会計が撮影するとスクリーンにはそれぞれの手が写し出される。
梅生「手を見てもどの部かなんて分かりませんね」
三木「外野の声で分かるさ」
三木先輩のあっさりした声になるほどと思うが、体育館に次第に緊張が走りどの部も殺気立った声援を上げた。
___頼む、負けてくれ!!
白鳥「さあいくわよ!最初はグー!ジャンケン__」
体育館に一瞬の静寂が訪れるが、
「オケ部とダンス部が負けた!!!!」
誰かの一言で体育館が阿鼻叫喚となった。
蘭世「うわ、オケ部が体育館使えないってやべぇな」
梅生「だな。顧問もめっちゃ厳しいのに」
2人は肩をすくめて笑っているが、壇上からがっくり肩を落として降りてくる1人にオケ部の顧問らしき教師が怒鳴っていた。
ほぼパワハラに近い叱られ方に俺達のお遊びサークルが残ってしまったことが申し訳なくなるくらいだ。
夕太「勝った勝ったー!」
対照的に壇上の柊は海外アニメのカナリアみたいなふざけ顔で空を飛ぶように手を広げて走り回っている。
白鳥「さぁもう1回!!ジャンケン___」
会長の声に俺は慌ててスクリーンを確認した。
チョキとパーしかないその映像を見て俺の心臓がドンと跳ねるが、
夕太「よっしゃー!!!!!!」
柊の雄叫びを聞いて膝から崩れ落ちそうになった。
雅臣「う、嘘だろ!?!?」
楓「おー……伝説は続くだね」
壇上で1番にピースサインを掲げたのは柊だが、文化祭で恥の極地を迎えることが確定したかと思うと頭を抱えたくなる。
この間ちょっと披露しただけでも爆笑されたんだぞ!?
本当に俺たちは体育館で大勢の前でアレを披露しなければいけないのか!?
神葉「今年は演劇部、合唱部、アイドル研究会、囲碁サークル、SSC、の5つに決定しました」
まばらな拍手とともに体育館は何となく微妙な空気に包まれているがそれもそのはず今年は舞台で何を発表するのか見当もつかないサークルが3つも入っているからだ。
雅臣「ア、アイドル研究会って……」
梅生「教頭が顧問のサークルだね。今年は本当にアイドルを呼んでミニライブするってクラスの奴が張り切ってたよ」
楓「でも囲碁サークルなんて体育館でやることないですよね」
三木「銀城から博識美人を招いて対局した後質問を受け付けるらしい。美少女を拝めるから感謝しろと騒いでたな」
楓「へー……何か結局すごい人数集まりそうですね」
……。
…………き、消えたい。
そんな集客が確定みたいな中で俺はあの変な中華ソングを披露するのか?
銀城の女子高生達にまで笑われる未来を想像し目眩がしそうだというのに柊は口笛を拭きながら誇らしげに歩いてくる。
悲しいことにジト目で睨むしか出来ないが今日こそは俺もパワハラでも何でもいいから柊そのふざけた面を殴りたくなった。
読んでいただきありがとうございます。
ブクマや評価していだだけて本当に嬉しいです!
いただけると書き続ける励みになるので、ぜひよろしくお願いいたします♪♪
活動報告にキャラクターイラスト・プロフィールも掲載していますのでぜひご覧下さいね♪♪




