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192.【寂しさの埋め方】





小夜「家具売っぱらったくらいじゃ大した額にはならんけど、ないよりマシだしな。不安ならそれ貯金しとけよ」



今ある家具を売って金にするだなんて考えたこともなかったし、正直そんなことしたくない。


でも担任は俺をからかってそう言ってるのではない。


本気で俺が今出来ることはそれくらいしかないんだと知る。


この目敏い担任は同じ要領がいい奴なら同じ状況でもバレないバイトとかを教えてやるのだろう。


しかし不器用な俺が学校にバレずにバイトなんて出来るわけないと見抜いてるのだ。



雅臣「あ、あの何で俺の家の家具が売れるって分かるんですか?」


小夜「柊が藤城の家は金目のもんしかないって言ってたから?家具も名古屋来る時全部父親に買って貰ったんだろ?」



……。


…………え!?


何気なく遊びに来ていた柊にそんな風に思われていたのか!?


金目の物って事実ではあるが、蓮池同様柊もそんな所まで見てるとは思わなくて変にショックを受けてしまう。



小夜「……ま、高級な家具なんかじゃ人は満たされないよな」


雅臣「え?」


小夜「全部何もかも金で解決して、一応保護者面してるけどそうじゃねぇよなってこと。藤城、焦るなよ?これは持久戦だよ持久戦」




___持久戦。



上手いことを言うなと感心するが実にその通りで俺達親子はどちらも引くに引けない状態だ。


自分と似たところのある親父を思い浮かべながら、こうして担任と話すことで俺は改めて再確認したことがある。


蓮池が食堂で俺に言ったことはやっぱり当たっていたんだ。



俺は……。



俺は親父に愛されてる感覚が無い。




雅臣「会いに行った方が___」


小夜「止めとけ。中途半端な気持ちで会いに行くな」



会いたいと思ったわけでは無いけど、つい口をついて出た言葉を担任に遮られる。



小夜「蓮池と柊くらい奇抜なの連れてくぐらいじゃないと今のお前じゃ太刀打ちできんよ。言いくるめられて東京に戻されて、そんでまたどっか海外にでも留学させられておしまい」



……何も期待するなってことか。



東京に戻っても俺の期待する謝罪や父親らしい言葉、そして愛情なんてものはないと、担任の冷たい眼差しは物語っている。


戻ったところで俺の望み通りのことは起きないのならこのまま名古屋にいる方がいい。


それにようやく友達と遊んだり学生らしい生活が送れているというのに、親父の都合でどこかに追いやられるなんて絶対嫌だ。



俺がこっちで頑張っている事も知らないくせに、俺の気持ちなんて何も知らないくせに……。



これ以上邪険にされるのは耐えられないと手を強く握る。


それでも俺は実際親父を前にしたら何も言えなくなってしまうのだろう。


この前合唱部と少し揉めた時ですら押し負けそうで、そんな俺を助けてくれたのはやっぱりあの2人だった。


俺と同じ子供なのに思いつきもしない言葉で人を翻弄するキツい性格の蓮池とどこか核心をつく柊と一緒だから俺は強くなれたんだ。




小夜「……藤城、お前の人生はお前のものだぞ」


雅臣「俺の、人生……?」




ペットボトルのお茶を飲み干して伸びをする担任は陰鬱な気持ちの俺を見て微笑んだ。


その言葉に何度も瞬きしてしまう。


親父と2人きりでいた頃の俺は何もせず何も考えず、そして毎日が何も楽しくなかった。


でも俺の人生は名古屋に来たことで様変わりした。




小夜「お前の父親は金で息子の生活を豊かにしてるけど、ただそれだけだ。お前の心は自分自身で豊かにするんだよ」




力強い言葉に、俺は動けなくなる。




小夜「自分の心が満たされる瞬間を大切にして生きていけば、ちゃんと幸せになれる」





……本当に?




本当に俺も幸せになれるのか?




自分自身で心を豊かにする、それは幸せを自分で掴めということだ。


生活にも金にも何も困ってない、それなのに満たされない俺の心は全て名古屋に来て満たされた。



ボッチだった俺が自分を変えようとしたこと。


柊と友だちになったこと。


大嫌いだった蓮池と話すことで色んなことに気付かされた。



あの2人と遊んでゲームをしたり、料理を食べて貰える喜びを知って、SSCの活動や先輩と出かけて……。



自分で一生懸命考えて選択して、行動した結果全てが俺の宝物で、今がとても楽しくて不器用な自分すらも愛しい。



それら全部を大切に忘れず心に刻んでいけば先生の言う通り幸せになれる気がした。



愛情を感じることのできなかった寂しさはきっと大切な瞬間を重ねていく事で埋めていけるはずだ。




雅臣「……先生、親父からもし学校に連絡が来たら……教えて貰えますか?」


小夜「もちろん。まぁ安心しろって、何かありゃすぐ三者面談でも何でも開いてやるよ」



そういうのは得意だから、と話す担任に肩の力を抜くことがようやく出来た。



小夜「さすがにお前の父親の会社が倒産したとか死んだ時には俺にもどうにもできんけどな。ま、とりあえず今は親金散々使って日々を楽しみなさいな。楽しくなかった16年分取り戻すつもりで遊んじまえ」


雅臣「……ありがとうございます」


小夜「いえいえ、さー帰って宿題でもして寝な。あ、また熱出して体調悪くなったら早めに俺んとこ電話しろよ」




からかうように笑う担任に俺はどことなく心が軽くなった気がして笑顔で頷いた。




少しづつだけど、俺はまた1つ成長した気がした。




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