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191.【俺の本音】




今、俺が頼れる大人はこの担任しかいない。


蓮池と言い合いした後に発熱した俺を車で送ってくれた担任は自分で対処出来ない時は大人を頼れと言ってくれた。


その言葉だけを信じて、俺はゆっくり言葉を選びながら話し始める。



雅臣「そ、その……俺の親から連絡って何も来てないですよね?」


小夜「まぁ、来てないけど……お前は連絡取ってんの?」



小さく首を振ると、何かを察してくれたのか担任はなるほどなと呟いた。


学校にも俺にも親父が何の連絡もしてこないだなんて、やっぱり俺から連絡を取るべきなのだろうか。


奢ってもらった缶コーヒーを1口飲み心を落ち着かせる。



雅臣「その、相談というか……俺の家って先生も聞いてると思うんですけど噂通り韓ドラみたいなもので__」


小夜「はぁ!?何だそれ!!誰がそんな事言ったの!?」


雅臣「あ、これは一条先輩が……」



素っ頓狂な声を上げて慌ててペットボトルのお茶を口にする担任に、前もこうだったよなと少し笑ってしまった。


あの時は蓮池の話だったせいか担任も苦笑していたが、今回は大人しい一条先輩が大元と聞いて意外そうな顔をしている。



雅臣「上手く言えないんですけど、その、俺今学費とか生活費とか全部親父に出して貰ってるんですね」


小夜「まぁ、そりゃ高校生だから当たり前だわな」


雅臣「そうでしょうか?……もし、急に全部打ち切られたらって考えると」



不思議と本音がするりと出てきた。


親父への感情とかよりもまず俺の1番の心配は結局〝親金〟がいつまで続くのかということだった。



小夜「それが心配なん?高校3年間は問題ないって」



あっさりそう言い切られてしまうがとてもそうとは思えない。


親父の今の生活がどうなってるのか分からないが、新生活を楽しんでいるのなら多分そのうち俺は邪魔な存在になる。


要らないと思われるのは時間の問題だ。


そう考えるといつ突然打ち切られてもおかしくない状況だと、担任に胸の内を全てを打ち明けた。



小夜「んーとね、まず山王は各家庭に授業料振込ののメール親にも送ってんのよ。手紙だと渡し忘れるバカがいっからね。お前んとこは後期分忘れずにきっちり納められてるから1年生の間はこっちに通わせる気でいるんだろうな」



2学期からの学費を俺が親父に連絡を取るより先に勝手に納められていることを聞いて少しホッとした。


しかしそれなら何故その連絡も寄越さないのかとやっぱり苛立ってしまう。



小夜「高2からお前を東京に戻す気もないと思うよ。多分お前が卒業まではこのまま1人暮らしさせて貰えるさ。……藤城、お前自分の将来が心配なんだろ?」



担任は普段とは違う真面目な顔で俺を真っ直ぐに見つめた。


ふざけたところなどどこにもない顔を見て、心から安心して俺の悩みを言うことが出来る気がした。



雅臣「はい……大学費用とか出してくれないかもしれないから、今後奨学金とか考えた方がいいのかなって」


小夜「やめとけやめとけ、借金だぞあれ。あー、ちなみにお前の親父どこ出身なん?」


雅臣「大学ですか?応慶です」



何故ここに親父の出身校が関係するのか?


分からず担任の顔を眺めていると、阿呆だなぁと苦笑して額を掻いている。


昔の俺なら自分が馬鹿にされたと怒っていただろうが、今の俺はこの阿呆が親父に向けられた言葉だとニュアンスで分かった。



小夜「藤城、お前尚更安心していいよ」


雅臣「な、何でですか?」


小夜「応慶ってOB会あんだよ。そこでもちろん息子や自分の自慢話がさりげなく行われるわけだけけど……」


雅臣「何で先生がそんな事知ってるんですか!?」


小夜「俺人脈は広いのよ」



明るく笑い飛ばす担任に、卒アルの写真を思い出す。


問題児そうだったこの人が何をどうして応慶と繋がりがあるのかさっぱり分からないがそのまま話に耳を傾けた。



小夜「お前が高校生の間は反抗期で自分から名古屋に行ったとか言って何としてでも誤魔化すさ。ただ大学で東京に息子が戻って来てないって周りが知ったらどうなると思う?」


雅臣「え……その……」


小夜「自分が女と遊び呆けてた結果息子に嫌われたんだろってそりゃあマッハのごとく噂になるのさ。応慶にも蓮池みたいなのはいるからな」



要するに蓮池みたいな目敏い奴は何処にでもいるということか……。


親父は周りから非難の目で見られるのを恐れていると言いたいのだろう。



小夜「しかも応慶って高校の編入受け入れてないからね。プライド高いお前の父さんは自分の息子を母校に戻せないのも東京で母校以下のとこに通うのも、それで更に自分が非難されるのも嫌なんだよ」



それくらいなら高校の間はお前をそのまま名古屋に置いておく、とそう言い切る担任の言葉に確かにそうかもしれないと思ってしまった。


そもそも名古屋で山王に入学が決まった時、親父に最高に嫌な顔をされたのを思い出す。


親父は俺が母校の幼稚舎から通っていることに誇りを感じていた人だ。


よく応慶の同期の集まりなどにも参加していたくらいだから息子のことで何か言われることを本当に恐れているのかもしれない。


俺には考えつきもしなくて、担任の頭の回転の速さと目の付け所に瞠目する。



小夜「まぁ要するに自分の保身のために金は出し続けてくれるよってわけだが……それでも心配ならそうだな、今家にある家具売り飛ばしたりしたら?」


雅臣「え!?」



担任のありえない提案に俺は大きな声を上げてしまった。





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