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190.【俺の悩み】



雅臣「……よし」



古文の宿題を完璧に終えた俺はソファに移動して思い切り伸びをした。


合宿もあるし、この1週間で俺は全ての宿題を終わらせようと計画を立て1つずつ確実に終わらせている。


最近は遊んでばかりだったが、一学期は一応ちゃんと勉強していたせいか宿題は復習感覚でサラッと出来た。



雅臣「でも予習まで手が回らないんだよな……」



予習する時間を取ろうと思えば取れるのだが、なかなか上手くいかずに困っていた。


家事をして尚且つ柊達と遊んだりゲームをしたりするとなると宿題と少しの先取りて精一杯だ。


東京ではちゃんと予習もできていたのに……と思うが、あの頃はボッチで本当に暇でやることがなく、今とは時間の使い方が全く違う。



___それにしても、名古屋に来て約半年も経ったというのに親父からは一向に音沙汰が無くどういうつもりなんだろうか。



息子が今までやってこなかったゲームに課金したりしているのに何一つ言ってこないのは何故なのか。


しかもこの前SSCのメンバーと買い物に行ってかなりの金額を使ったのに無視されたままだ。


何と言うか、一応未成年の息子が一人暮らししているというのに親父は俺の事を心配しないのだろうか。



雅臣「………」



別に今更気にかけて欲しいだとかそういう訳ではないけれど、何とも言えない気持ちが自分の中に渦巻いている。



___ふと、母さんの写真が目に入った。



……東京で俺と親父が元々住んでいたマンションはどうなったんだろう。


今までの家具は処分したのか、俺の写真は新居に持っていったのだろうか。



そして今、親父は元気にしているのか。



東京にいる頃より遥かに充実しているのに、なぜ突然すきま風が吹いたみたいな気持ちになるのだろう。


全く気にならなかったことが急に気になり始めて、俺は予習どころではなくなってしまった。


蓮池の華展の日からいつか親父と向き合わなければならないとは思っていたが、考えれば考えるほど怖くなってくる。


ボッチだった以前とは違って今ならこの気持ちを誰かに話したり相談する人は思い浮かぶのだが……。


こんな悩みを誰に言えばいいのだろう。


内容が内容だし、そもそも俺は何に悩んでいるのかをハッキリさせてからじゃないと相手に上手く伝えられないし、相手も困るよな。


………。


……………。



雅臣「はぁ……」



真剣に考えているのに腹が鳴るなんて、俺はまともに悩むことも出来ないのかと更に気分は落ちる。


いつもみたいに何かを作る気分にもならず、項垂れながらスマホだけ持って何かを買いに行こうと玄関を出た。


部屋を出てエレベーターのボタンを押すが、少し待ってるだけでも暑くてイライラしてしまう。


本当に名古屋って何でこんなに暑いんだ。


最上階から降りてくるエレベーターの数字を眺めながら扉が開いたので顔を上げると、



雅臣「え!?」


小夜「お、藤城?」



まさかのそこに乗っていたのは担任で、夏休みなのか学校で見る姿とは違ってTシャツとジーンズのラフな格好をしている。



雅臣「こ、こんにちは、初めて会いましたね……」


小夜「意外と会わんもんだよな。いやー危なかった…」



何が危ないのか分からないが、ハハハと軽く笑ってる担任も私生活を見られるのは気まずいのだろう。



小夜「そーいやSSCで合宿すんだろ?また俺も差し入れでもすっかなぁ……あ、俺2階だわ。またな___」


雅臣「あ、あの!!」



エレベーターが2階に着いて担任は降りていこうとするが、俺はつい声をかけて一緒に降りてしまった。



___この担任なら俺の話を聞いてくれるだろうか?



こういったプライベートの時間に生徒の俺が相談してくるのは嫌がられるかもしれない。


……皆、俺と違って暇じゃないんだ。


相談するなら学校で話す方が担任的にもいいよなと前言撤回することにした。



雅臣「い、いや、あのすみません、何にも___」


小夜「……藤城、お前ちょっと時間あるか?」


雅臣「え……あ、はい……?」



担任は何故か2階にある塾の扉を勝手に開いて、来いよと手で俺を誘った。




_________


__________________






本当に良かったのか。


自分の家の下に塾があるとは知っていたが中に入ることはなく、というか何故担任はナチュラルにこの塾に入っていくんだと疑問に思う。


塾はマンションのテナントとして借りている割には内装がとても凝っていて、壁に檜を使用しているせいか香りがいい。


塾内には自販機も幾つか設置してあって、担任に何が飲みたいのかを聞かれたので自分で買いますと伝えるが、


小夜「いーって、好きなの言えよ」


雅臣「あ、ありがとうございます、じゃあコーヒーで」


小夜「マジ?お前ほんとに缶コーヒーでいいんかよ。もっとこうさぁ……コーラ!とか?」


雅臣「コーヒー好きなんで……」



俺は担任に導かれるがまま1つの個室に通された。



小夜「ほい」


雅臣「あ、ありがとうございます……って、いいんですか?その、これ教師として……」



席を勧められ腰を下ろすが、1番疑問に思うことを素直に伝えると担任は明るくケラケラと笑った。



小夜「この塾俺の叔父さんみたいな人がやってんのよ。勧誘の名目でお前といるならなーんも怪しくないだろ?」



まぁそれなら確かに怪しくはない。


しかもこの担任のことだから何か言われても切り抜ける術を持っているのだろう。


それなら安心かと缶コーヒーのプルタブを引いた。



小夜「__んで?さっき何か話したそうだったじゃん?どうしたんだよ?」


雅臣「あ、えっと……あの……」



目敏い担任は俺が何か言いたいことがあるのをあの一瞬で理解してくれたのだろう。


自分の悩みをどう聞いてもらえばいいのか。


今まで誰かにこんな風に相談に乗ってもらった経験もない俺は何から話すべきなのか戸惑ってしまった。






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