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187.【桂樹先輩の歌】





桂樹「い、今?マジ?それなら俺が弾いて三木も一緒に歌って___」


三木「〝全部出来た〟って曲だけチャットに送ってきて、肝心の歌詞が送られてきてないんだから俺が分かるわけないだろ?1人でどっちもやれよ」



素っ気ない答え方に三木先輩は3年の歌を桂樹先輩1人で披露させるつもりなのが分かる。


三木先輩の有無を言わせない態度を久しぶりに見て、その揺るがない意思を持つ瞳にとても逆らえる雰囲気ではない。



でも、そんな事よりも……



雅臣「俺、桂樹先輩の歌聴きたいです!!」



目を白黒させている桂樹先輩につい声を上げてしまったが、食い気味の俺を見てかなり驚いている。


三木先輩が作詞作曲を丸投げしたとは聞いてはいたけど、正直半信半疑な面もあった。


大会で忙しかった桂樹先輩がSSCの事を考えて、本当に作詞作曲してくれていたなんて嬉しくて堪らない。


SSCのことも気にかけてくれていたその優しさにやはり桂樹先輩は俺の憧れだと実感した。



三木「俺にも聞かせてくれよ。元々雅臣と行く予定だったライブをお前の都合で行けなかったお詫びも兼ねてな。そのかっこいい姿を今ここで存分に披露してくれ」


桂樹「……」


三木「良かったな、雅臣?お前リオンに誘って貰った〝Not Bad〟のライブ楽しみにしてたもんな」


桂樹「い、いやその……」



___き、気のせいだろうか。


三木先輩の言葉が何かを含んでるように感じるのは……。


桂樹先輩の後ろに控えている合唱部の面々も何故か驚愕の眼で凍りついたように動かずにいる。


何処か突き放した口調に俯いて苦虫を噛み潰した顔をする桂樹先輩に、やっぱりこんなに大勢の前で1人で披露するのは恥ずかしいのだろうかと思う。


それでも俺はかっこいい桂樹先輩がどんな曲でどんな風に歌うのか、どうしても聴きたい気持ちが勝ってしまう。



雅臣「お願いします…!!」



俺が素直にそう頭を下げると桂樹先輩はもっとバツが悪い顔をした。



蘭世「……桂樹さん、雅臣に聞かせてやんなよ。あんたの後ろの桂樹一派も期待してんぜ?」


中田「か、桂樹先輩は何も問題ないですよ!蘭世!そこどけよ俺が1番前で聴く」


蘭世「おー、さすが桂樹一神教。全肯定」



ニヤニヤと笑う梓蘭世を中田さんは押し退けて、舞台下ピアノの前に正座して待機する。


中田さんも桂樹先輩のことを大好きなんだと知り、分かりますよ、かっこいいですもんねと心でしみじみ頷いた。



梅生「はは…中田は相変わらずだね」


蘭世「桂樹さんが教祖な、キメェよあれ」


中田「いいから蘭世も正座しろ!」


蘭世「足の形崩れるからやだ」



中田さんが大声を上げるが、さすが合唱部で声量が凄い。


中田さんの隣に腰を下ろした梓蘭世だが、ソロ問題で揉めていたのは外野だけで当の本人達は仲が良さそうに見える。


その声を皮切りにゾロゾロと合唱部が中田さんの後ろに移動し、俺達もそれに倣って体育館の床に腰を下ろした。



中田「先輩への礼儀がねぇな……ぶちょ……間違えた、三木先輩、蘭世躾といてくださいよ!!」


雅臣「お、俺が代わりに正座します」



梓蘭世を庇うようにその後ろで正座する俺を中田さんは振り返りチラと見ただけで何も言わない。


ドンと俺の横に腰を下ろした柊と蓮池は冷めた目で中田さんを見ているが、気にしている余裕は無かった。



桂樹「いやもっとやりずれぇわ!!」


三木「ほら早く披露しろ、待ってるぞ」



三木先輩は肩をトンと押し、桂樹先輩は金髪の髪を掻きむしりながら渋々舞台へ向かう。


舞台に手を付き飛び上がると桂樹先輩はそのままピアノの椅子に座った。



楓「お手並み拝見だな」


夕太「俺の曲のが上手いと思うけどね」



同じSSCだというのに蓮池と柊は闘志に燃えていて、俺は2人を眺めながら桂樹先輩は〝絆〟をテーマにどんな歌を作ったのか、そしてまだ聞いた事のない桂樹先輩の歌声もとても楽しみだった。


ピアノの椅子の高さを調節してから桂樹先輩はブームスタンドのマイクで歌声を拾いやすい位置に調整している。


マイクに向かって軽くハミングしながら音を確認する桂樹先輩はもう様になっていて、ダサいと評判の山王の盛夏服だというのに少女漫画の王子様みたいだった。


チラと周りを見れば皆楽しそうにしていて、俺も期待が高まってくる。


先輩がすっと息を吸うと、




桂樹「どうして君との明日を信じたのか___」




叙情的なピアノ伴奏に乗せ、桂樹先輩の低くて甘い歌声が体育館に響く。


歌詞はまさかの女性目線で、でも桂樹先輩の少し掠れた声が切ないメロディーに重なり心に染みる。


3年のテーマである〝絆〟をこんな風に解釈するなんて俺には全く思いつかず、失って初めてその存在の大きさに気づいた心情を歌う先輩の表情も完璧だった。



桂樹「君と__っておい!!中田お前撮ってんなよ!」



突然もうすぐサビに入る手前で桂樹先輩が歌を止めて立ち上がった。



中田「あー!!いいとこなのに!!何で続けてくれないんですか!?iPhone16の力をここで発揮させてくださいよ!?」



本気で撮影をしていた中田さんに気がついて、急に照れたように演奏を止めてしまったので俺も惜しくなる。



雅臣「あの!!!ほ、本当に凄いです!!名曲ですよ!!」



思わず立ち上がって拍手すると、桂樹先輩が参ったなと破顔した。


俺の拍手を皮切りに体育館にいた全員が拍手をして感動の渦が生まれる。



雅臣「最高です!!ありがとうございました!!」



やっぱり桂樹先輩は俺の憧れの人だけあると感動しながら横の2人に目を向けると、



楓「ラスソンかよ」



蓮池は鼻で笑いながら批評した。


___ら、ラスソン?


聞いた事のない単語で首を傾げていると、柊はニヤニヤしながら急に舞台目掛けて走っていく。



夕太「リオピ……!!」



柊は突然舞台上に飛び乗るとピッタリと桂樹先輩の腕にしがみついて甘えるように顔を寄せた。


……ピ?


ピって、3年の先輩に向かっていきなり何を言い出すんだと向こう見ずな柊を見つめた。





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