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185.【初めて名前で呼ばれた日】




雅臣「柊!!前も言ったと思うけど嬉しいからって俺に体当たりするな!!」



俺に体当たりしてきたのはやっぱり柊だった。


体育館の床に手をついて四つん這いになりながら振り返れば、尻を思い切り叩かれた。



夕太「やっぱ俺って見る目あるなぁ……雅臣ナイスKY!」


雅臣「け、KY!?止めてくれよ!!ボッチ陰キャコミュ障からダサいに加えてKYまで……これ以上変な呼び名を増やさないでくれ!」



起き上がろうとすると、四つん這いの背中を今度は足で誰かに蹴飛ばされた。


しかもぐりぐりとポロシャツに上履きの跡をつけるかのようにを踏みつけられ、こんな酷い事をする奴なんてこの中で1人しかいないとその名前を叫ぶ。



雅臣「止めろよ蓮池!!」


楓「やるじゃん」


雅臣「言動が見合ってないんだよお前は!!」



ところが何故か横からこの様子をパシャパシャと連写で写メる音が聞こえてきて、這いつくばったまま首を曲げて何とか覗き見れば一条先輩だった。



雅臣「一条先輩!?何で撮るんですか!?」


梅生「いや、継続者たちの映画の喧嘩と同じでつい……」


雅臣「全然違いますよ!」



食い気味に目を輝かせている一条先輩だが、この間見た映画はヒーローがヒロインを庇って蹴られるものであって、こいつらみたいに面白がってイジってるのではない。



楓「一条先輩、それ後で送っといてください」


雅臣「おい蓮池、お前またグループチャットのアイコンにする気だろ!」



俺の背中を踏み付けたままの蓮池は足に思い切り体重を乗せているせいで全く起き上がれない。


俺は這いつくばったままでいるが一体どんな構図になっているのか知るのも恐ろしい。


何とか起き上がろうと力を入れて顔を上げると目の前に同じ学生服のズボンだというのに見るからに細い足が現れた。



___梓蘭世だ。



梓蘭世は突然しゃがみ込んだかと思うと俺の顎を人差し指でクイと持ち上げ、淡い虹彩を持つ美しい目でジッと俺を見つめている。


今起きている全てを忘れるほどの美貌に撃ち抜かれ、黙ってその綺麗な顔を至近距離で眺めていると、



蘭世「ありがとな。…………雅臣」


雅臣「___まっ!?」



ま、ままま、雅臣!?


梓蘭世に初めて名前を呼ばれた事実に感極まってしまい、踏みつけられた体勢から気合いで抜け出し膝立ちになって梓蘭世の手を掴む。


とっと呼びじゃない!!


あの梓蘭世が、俺の、俺の名前を……!



蘭世「おー、キモいな」



秒で梓蘭世に振り払われた俺の手を三木先輩が掴んで立ち上がらせてくれる。


背中の靴跡まで払ってくれたのでお礼を言おうとした瞬間、



三木「雅臣、ありがとう。嬉しかったぞ」


雅臣「えっ!?えぇ!?い、いや、俺は何も……」



み、三木先輩まで……!?


寧ろ差し出がましいことをしたのでは無いかとさえ思っていたのに、感謝と共にポンポンと頭を撫でられ俺は戸惑ってしまう。


どこを見たらいいか分からず目線を泳がせていると、連写を終えて満足そうにほほ笑む一条先輩と目が合った。



梅生「2人ともずるいなぁ?俺もこれから雅臣って呼ぼうかな?」


楓「一条先輩、これは〝まぁ〟とかで十分ですよ。さとおとみは要らないんですよ」


雅臣「何でだよ!!」



やれやれと肩を竦める蓮池に、ずっこけそうになるがこいつはいつもいつも腹が立つな!


俺の名前を口にするのも嫌なのかとジト目で睨みつけるが痛くも痒くもない顔してやがる。



く、クソ野郎……!



せっかく梓蘭世や三木先輩が俺を下の名前で呼んでくれたというのにイライラしていると、さっき体当たりしたことを悪いとも思ってない柊が飛びついて俺の腕を組んだ。



夕太「本当はでんちゃんも名字じゃなくて、楓って名前で呼んで欲しいんだよね?」


雅臣「は?そ、そうなのか?じゃあ__」



それなら名前で呼んでやろうと振り向けば容赦なく太腿に蹴りを入れられる。


さっき蹴飛ばされた時より数百倍悪意を感じて、太腿をさすりながら俺は絶対今後何があろうともお前の名前なんて苗字以外で呼んでやらないからなと心に誓った。



蘭世「そゆこと?でも()()のがしっくりくんだよな」


梅生「んー、蓮池は蓮池なんだよな」



まぁ確かに2年の2人が言うように〝楓〟だなんて急には呼べないものかもしれない。



楓「はいはい、俺の名前なんか皆呼びたくないですよね。どうせ俺はでんでん虫のでんちゃんですよ」




…………で、でんでん虫……?


その言葉に全員が凍りついて蓮池を見つめる。


でんちゃんなんて、てっきり楓の『で』を適当にもじったあだ名か何かだと思っていた。


柊が蓮池のことをあだ名で呼んでいるのを特に気にしたこともなかったが、もしかしてカタツムリから取ったものだったのか!?



夕太「可愛いじゃん!何で嫌がるのさ!」



不貞腐れる蓮池を見て頬を膨らませる柊に、ふとこいつは飼い猫には天津飯、蓮池の家の鯉には鉄火でインコには酸辣湯と独特なネーミングセンスを炸裂させていることを思い出す。



夕太「な、でんちゃん?」



にっこりと満面の笑みを浮かべる幼馴染に蓮池は諦めたかのようにため息をついた。



梅生「へぇー……俺、〝かえでん〟とかあだ名が派生してでんちゃんなのかと思ってた」


三木「俺もそう思ってたな」


夕太「えー、全然違うよ?でんちゃん昔はでんでん虫みたいに足が遅かったから、でんちゃんになったの」


楓「夕太くんしか呼んでないよ……」



つまり鈍足だった蓮池を野次るよう付けたあだ名だったなんて、今日1番の衝撃が走る。


しかし蓮池の家に飾ってあったあの丸々とした子供の頃の写真を思い出すと鈍足なのが容易に想像出来て吹き出してしまった。



雅臣「うぉ!!」


楓「殺す」



それに気づいた蓮池は本気で俺を殴りにかかってきて、体育館を全力で走って逃げることになるがこれのどこが鈍足なんだよ!!



夕太「おー、実写版とび森」


雅臣「柊!!呑気に拍手してないでこいつを止めろよ!」



追いかけられて振り返れば過去1で殺気立った蓮池の目に殺されると必死で逃げ回る。



三木「さ、ふざけてないで練習しようか?お前ら部室で寝てたんだって?」


蘭世「2階でガチ寝、三木さん完徹?寝てねぇの?」


雅臣「練習の前に誰かこいつを止めてくださいよ!?」



慌てて三木先輩の背中に滑り込むように隠れるが、それを見て蓮池以外の皆が爆笑していた。


もちろん1番大ウケしていた梓蘭世が、恐ろしい程美しい微笑みを浮かべながら俺をドンと押して蓮池に人身御供のように差し出したのは言うまでもない。




読んでいただきありがとうございます。

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