179.【映画の誘いとゲームの誘い】
………………。
……………………。
梅生「刺したね……」
雅臣「刺されましたね……」
170分にも及ぶ超大作の外伝を見終えた俺達は、ミッドランドの下にあるカフェDEAN&DELUCHAでようやく一息ついた。
……一条先輩と同じミルクティーにして正解だった。
甘さが体に染み渡り、韓ドラならではの怒涛の展開を見て力が入りすぎていたんだと気がつく。
〝継続者たち〟シリーズ史上最高にハラハラする作品だと言えるほど、次から次へ登場人物とヒロインへの思いが交差する映画だった。
でもそれより……
雅臣「秘書が財閥社長を……」
梅生「しかもそれをヒロインが庇うなんてさ……」
俺の予測は見事に外れた。
秘書は自分が仕える財閥社長ではなく実はヒロインのことを想っていたのだ。
しかしヒロインの婚約者でもある財閥社長が彼女に罵声を浴びせた瞬間、怒った秘書がそれはもう迷うことなく社長をナイフで刺そうとしたのだが……。
何故かヒロインが彼を庇って刺されてしまった1番良いシーンで映画はエンドロールを迎えたのだ。
あまりの急激な展開に興奮した一条先輩はポップコーンを食べる手を止めて俺の膝をバシバシとも何度も叩いていたのを思い出す。
梅生「あんな良いところで続くなんて、もうどうしたらいいんだよ!」
一条先輩は勢いよくアイスミルクティーを吸うと再びため息をついた。
今回で終わると思っていた継続者たちの外伝はなんと来年の8月へと続くのだ。
雅臣「しかも予告でヒロインが何でか分からないですけど記憶喪失になってましたよね……」
梅生「そうそう!ヒーローも一緒にだろ?……あーあ、来年の8月までお預けかぁ」
名残惜しそうな先輩に、来年も一緒に見に行きませんかと言おうとした俺は慌てて口を噤んだ。
来年は先輩も受験だろうし勉強だって忙しいはずだ。
さすがにそんな先のことを約束するのは少し気が引けるが言うだけ言ってみるのも駄目なんだろうか……。
来年までの段取りは全部俺が取ればいい話で、声が掛かるのを待ってばかりじゃなく、一条先輩と一緒に行きたい自分から動くべきだと意を決した。
雅臣「あの……来年、もし良ければ外伝一緒に見に行きませんか?」
梅生「え!?お、俺も言おうと思ってた!行こうよ!」
興奮気味に席を立ち上がる一条先輩に周囲の注目が集まってしまい、我に返った先輩は少し恥ずかしそうに再び腰を下ろす。
同じ気持ちでいてくれたのかと瞠目し、やっぱりこうやって思った事は言葉にした方がいいと嬉しくなった。
雅臣「行きたいです!それと、今日は時間も全部決めて貰ってありがとうございました」
梅生「いいんだよ。俺が誘ったんだから」
雅臣「次は俺が計画しますね、大分先ですけど……」
かなり先の約束でも、桂樹先輩の時と同じ轍を踏まないよう今度こそ自分から細かく連絡しようと思う。
桂樹先輩の件で人より暇な自分が連絡くらいするべきだったと反省した俺は、来年の約束に向けて全てに早めの行動を取る事にした。
梅生「楽しみにしてるよ。そうだ、言うの遅くなったけどそれこの前買った服だよね?似合ってる」
雅臣「これ梓先輩に選んでもらって……」
褒められて照れながら頬を掻く俺を見て、
梅生「……藤城が今日とても楽しそうで良かったよ」
一条先輩が微笑んでくれて、俺も同じ気持ちですと答えた。
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昨日は本当に楽しかった。
帰宅して直ぐ一条先輩に教えて貰った別の韓ドラを見ていたのだが、途中で止めれる訳もなくそのまま朝方気絶するように眠りについて、起きたらもう昼過ぎだった。
今日こそ、今日こそは宿題をやろうと思っているのだが、その前にちょっとだけTmitterを開いてみる。
一条先輩が俺と撮った映画の半券と外伝のポスターの写真を載せてくれたのが上がってきて、嬉しくてまた昨日の余韻に浸ってしまう。
その投稿には30もいいねがついていて、それは一条先輩の人望にも思えた。
雅臣「いくら何でも夏休みを満喫し過ぎてるな……」
最近の自分はあまりにも堕落している気がするが、夏休みなんて本来こういうものなのかもしれない。
この間買った服を着てステバで宿題でも……いや、先に食材を買いに出かけるのもありだよな。
昨日一条先輩と行ったカフェの横に、家の近くのスーパーホランテでは買えない〝福澤商店〟というスパイスやドライフルーツを扱う店があるのを知った。
名駅で少し距離があるとはいえ30分もかからない場所だ。
そこに行った後宿題でもするかとベッドから立ち上がった瞬間、スマホが震え出して誰かと見れば柊だった。
雅臣「柊?どうした___」
夕太『ぎゃー!!!!!甲羅ぶつけたの誰!?あれ雅臣出た!!』
スマホ越しに柊の大きな悲鳴が聞こえてきて思わず耳を離す。
〝甲羅〟というワードからどうやらまたゲームのマリゴーをやっているようだが、この電話の流れだともしかして俺も誘ってくれるつもりなのだろうか?
でも俺は今日こそは買い物に行って絶対宿題をやると決めている。
悪いけど断るぞと口を開こうとすると、
夕太『頼む雅臣!!プールの時作ったグループチャットにもう1度電話かけるから絶対出て!!』
ブチッと思い切り切られたと思った数秒後に今度はグループに電話が掛かってくる。
相変わらず慌ただしいなと画面を見れば柊だけではなく蓮池に梓蘭世、そして一条先輩までもが通話に参加していた。
蘭世『おー、とっとやっほ』
夕太『雅臣今日予定ある!?』
楓『陰キャに予定なんか無いって』
毎度毎度予定がないと言うなと蓮池に対して少し苛立つが、今日の俺には勉強をするという立派な予定がある。
いつもとは違うぞと意気込むが、
雅臣「あのな、俺は今から名古屋駅に買い物も行くし宿題も___」
夕太『ええええ!?頼むって!!2時間だけ接待マリゴー手伝ってくんない!?』
雅臣「接待、マリゴー?」
聞いてよ、と疲れた声を出す柊の話によれば元々は柊と梓蘭世の2人でマリゴーをやっていたらしい。
しかし柊が梓蘭世に勝ち続けてしまったのが問題で、面白くない梓蘭世は蓮池なら勝てると招待したものの、今日に限って蓮池まで調子が良く梓蘭世どころか柊にも勝つほどの強さで……。
絶対1位になるまで止めないという梓蘭世の要望から、マリゴー初心者の俺が招集されたらしい。
雅臣「いや、何で接待なら柊が最初から程よく負けとかないんだよ」
蘭世『舐めんな!!手加減なんかぜってーいらんわ!!』
楓『手抜いたら怒るし勝っても怒るし……もうどうにもなんねぇんだよ』
ため息をつく蓮池に、これは相当2人が手を焼いてるんだとチラと時計を見る。
梅生『悪いね藤城、俺からもお願い。蘭世に付き合ってあげてくれない?』
一条先輩にここまで言われたら断れるわけもない。
まだ昼過ぎだし、いい塩梅で梓蘭世を勝たせれば直ぐにお開きとなるだろう。
雅臣「分かりました。少しだけなら参加しますね」
夕太『神様仏様雅臣様!!そうこなくっちゃ!今ゲーム招待するからこのまま電話繋いだままやろ!』
相変わらず調子のいい柊につい笑ってしまうが、ここで俺が誘って貰えたことが嬉しいよなとテレビとゲームの電源をつける。
しかしこの誘いに乗った俺はこの後心底後悔することになるとはまだ知らなかった。
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