177.【一条先輩とスイーツ】
雅臣「あっついな……」
一応室内だというのにこの暑さだなんて、名古屋の濃尾平野という地形的な要因がそうさせるのだろうけど異常すぎる。
俺は現在一条先輩と韓ドラの映画を見る為に約束した名駅金時計前にいるのだが、この1週間はあっという間だった。
まずサークルで皆に勧められたTmitterを入れてから俺は連日自分の焼いたパンをアップしていた。
柊にTmitterはパンや料理専用アカウントにしてる人もいると教えて貰い、せっかくアプリを入れたのに触らないのも……とパンを撮って上げ始めたのだ。
心優しい一条先輩や誰かは分からないネット上の同じ趣味の人がいいねしてくれるのもとても嬉しくて、フォロワー欄にいつの間にか料理好きな人が1人、2人と増えたのも驚きだった。
俺のフォロワー欄の1番最初にいる梓蘭世に教えて貰った通り、インスマと違ってこだわった写真をあげることもない俺にはTmitterがピッタリだった。
雅臣「……あれ?」
ふと周りを見れば金時計付近には同じ黒いTシャツを着ている人の率が高いことに気がつく。
よく見れば何色ものペンキを散らしたしたようなデザインに〝2025.Not Bad〟と書かれていて、それは本当なら桂樹先輩と行くはずだったライブのツアーTシャツだと知る。
あんなに楽しみにしていたライブもTmitterやこの一条先輩との約束ですっかり忘れてしまっていたな……。
でもそのお陰で大して気に病むことも無く、むしろ楽しく過ごせたのだから良かったのかと思う。
それに昨日の晩は俺のクラスの全体チャットにクラス委員から連絡を貰っていて、そんなことを考えている暇も無かった。
うちのクラスは部活に熱心な奴が多い為文化祭1日目は展示で確定しているのだが、そのテーマを出校日に決めようという内容に本当に展示で良かったとホッとした。
あまり褒められたことではないが、実は俺は柊がTmitterで返信している相手を辿って3組の奴が演劇をやる情報を事前に入手していたのだ。
SSCで舞台に立つのも嫌なのに、クラスでもそんな事になったら恥ずかしくて仕方がない。
せっかく演劇は免れたのだから、このままジャンケン大会も負けてサークルの発表が何処かの空き教室になりますように……。
そんな事を願っていると誰かに背中をつつかれた。
雅臣「はい?__って、一条先輩!?」
梅生「随分早いね」
振り返ればてっきり正面エスカレーターから来ると思っていた一条先輩が笑っていて、予想外の登場に驚いてしまった。
優しく微笑むその顔は相変わらず透き通る白さで、プールであんなに真っ赤になってまで日焼けしたのは意味をなさずに結局元通りの白さに戻っていた。
雅臣「今日はエスカレーターからじゃないんですね」
梅生「さっきまで上にいたんだけどね。藤城見つけたらどうしても驚かせたくなって…高島屋抜けて降りてきたんだ」
意外とイタズラ好きというか、一条先輩がこうやって少し揶揄うのが好きな人だと夏休みに入ってから覚えた。
初めの頃と随分変わった印象に、こういうことを知るまで親しくなったんだと嬉しくなる。
梅生「行こっか。スパイラルタワーの下のお店予約してるから」
雅臣「はい!行きましょう」
映画の前に一条先輩の行きつけの店でランチをしようと予約の連絡を貰っていて、スパイラルタワーというビルの地下に向かって俺達は2人で歩き始めた。
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雅臣「い、一条先輩ここは……」
梅生「ん?〝デザートパラダイス〟だよ」
螺旋状のデザインを特徴とする現代的なガラス張りのビルはスパイラルタワーと呼ばれていて、ファッションなどを学べる専門学校が入っているそうだ。
その地下には学生が利用しやすいようカフェや飲食店も入っているのだが、随分ファンシーな店構えに本当にここでランチなのかと疑う。
しかし一条先輩は迷わずそのまま中に入って行ってしまうので慌ててその背中を追いかけた。
予約をした一条先輩が名前を告げると店員が席まで案内してくれるが、店内に漂うその甘い匂いとずらりと並ぶ様々なスイーツに圧倒されてしまう。
雅臣「あ、あの……」
梅生「120分あそこにあるスイーツか食べ放題なんだ」
雅臣「ら、ランチがスイーツバイキング……」
梅生「何回も取りに行っていいんだよ。うどんとかカレーもあるから心配しないで?さ、時間が勿体ない…
蘭世には絶対言わないでね」
一条先輩は俺の腕を引いてスイーツの並ぶショーケースへと連れて行ってくれるが、並んでいるのは女性ばかり。
女子学生で賑わうこの列に俺達が並ぶのは恥ずかしくて仕方がないが、いつもの何倍も嬉しそうな一条先輩を見たら苦笑するしか無かった。
雅臣「何か俺達悪目立ちしてませんか?」
梅生「そう?誰も俺らなんか興味無いよ、蘭世じゃあるまいし…お、ラッキー」
一条先輩は目の前のプリンロールを3/4切り取って自分の皿に盛り付けると、その残りを俺の皿に載せてくれる。
俺の後ろに並んでいる女子達が完売となったプリンロールを見て舌打ちしているのが怖い。
ただこのファンシーな店内が程よく気を紛らわすというのもあるが、やっぱり一条先輩との時間は無言でも苦じゃなかった。
何回も取りに来れるというのに一条先輩の皿には既にケーキが山盛りで、俺も甘いものが嫌いなわけでは無いが採寸で柊にデブ扱いを受けたのもあって少し控えたい気持ちが生まれる。
ショーケースの中には和菓子もあるのでせめて低脂質な和菓子にしようかな。
そんな事を考えていると、
梅生「これも美味しいよ?あれも人気だから早めに取った方がいい」
一条先輩が好意でオススメのスイーツを俺の皿に次から次へと乗せてくれるのであっという間にケーキまみれになってしまった。
さすがに手が足りずに列を途中離脱して一旦席に戻ることにした。
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