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2.【動き出す時間】



雅臣「ぶ、ブサイク…!?」



見ず知らずの初対面の奴にいきなり罵られるとは思いもよらず、呆気に取られる。


そんな俺を無視し、おかっぱ頭は更に品定めするかのように失礼極まりない視線じろじろと寄越した。



「落ち武者みたいだな。ねぇ夕太くん?」



鼻で笑いながら、小柄で明るいヘーゼル色をしたくるくる頭の方に小首を傾げる。


お、落ち武者?


訳あって髪を伸ばしていたから適当に括ってはいるが、やっぱり初対面でそんなこと言うか?


もしかしてこれは名古屋流とか、なんかそういった地域的な挨拶なのか?


東京にはこんな失礼な奴はいなかったぞ?


あまりの言われようにそう思わずにはいられなかった。


夕太「やめなよでんちゃん、この多様性の時代に。男は短髪と決めつけるのは良くないよ」



「でも…ねぇ…?」



た、多様性……


確かに、そう思われても仕方がない髪型かもしれない。


しかし夕太と呼ばれる男の言葉なんて、目の前のこいつには何も響いていないのだろう。


俺を見ながらニヤニヤといやらしく笑う顔がその証拠だ。


苛立ちは募るばかりで、つい言い返す。



雅臣「…お前だって十分変な髪型だろ」


「は?初対面の相手にそういう事言っちゃうんだ

キモ、お前コミュ障?」



お、お前が言うな___!!


と俺が口にするより先に、くるくる頭は素早く俺とおかっぱの間に割って入った。


そして俺らを制するかのように、その身体に見合った小さな口を開く。



夕太「でんちゃんやめなよ、どっちも変だよ」



……へ、変、?


なんのフォローにもなってねぇ!!


ブサイク、落ち武者、多様性、そしてトドメに変。


呆然とする俺を横目に、おかっぱ頭は大きくため息をつきやれやれといったふうに肩をすくめて両手を上げる。


そのまま夕太の頭に手を伸ばし、絡まる大量の花びらの1つを取りその髪を軽く引っ張った。


「鳥の巣みたいだよ夕太くん。それから、俺はこの髪型が1番似合うんだから変とか言わないでよね」


夕太「でんちゃんはいつだって変だよ。あ、ねえ君も1年生だよね」


夕太は軽くおかっぱの手を跳ね除け、俺の袖を掴んだ。



夕太「遅刻だよ、入学式早く行きなよ」


雅臣「……いや、俺は」



そうだ、帰ろうとしていたんだ。


こんな奴らと話している暇はないと思うも、双方から見つめられる俺は完全に2人のペースに呑まれていた。


その時、カーンカーンと大きな鐘の音が響き渡った。


あの塔の上からだろうか。


鐘の音が響く空を見上げると同時に、風が吹き青い空を彩るよう自然と桜の花びらが舞う。


ああ、この方がやっぱり綺麗だな。


蹴ってまで散らすもんじゃないよな。


少しだけ可笑しくなり、フッと笑みがこぼれる。



雅臣「…じゃあな」



最初からこんな奴ら無視しておけばよかったんだ。


そう思いながら来た道を戻ろうと歩き出すと、一瞬何かに足を取られた。



雅臣「なっ…!」



何とか膝を着こうとするものの、そのまま体勢を崩しそれはそれは盛大に転んだ。



「行こ、夕太くん!」


夕太「あ!でんちゃん!」



這いつくばって見上げるとおかっぱ男はその辺に放り投げられていた2人分のカバンを勢い纏めて掴み、もう片方の手で夕太の手を引き走り出す。



「だっせ」



走りながら振り返ったおかっぱ頭は、そう言って俺に向けて舌を出した。


ようやく俺は転んだのではなく足を引っかけられ転ばされたことに気がついた。





雅臣「くそ__!!おい待て!!ふざけんなよ!!」





自分の意思とは関係なく、俺の止まっていた時間が動き始める。


2人と出会い、そして、これからまた出会う人達によって。


怒りにまかせて走り出した俺は、そんなことなど未だ知る由もなかった。


いつも読んでいただきありがとうございます。

読んでくださってる事がわかるととても嬉しいです!


もしよければブクマ、コメントもいただけると嬉しいです♪♪


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