174.【いざ!採寸!】
夕太「よーしメジャー3個持ってきたから測るぞ!」
部室内で採寸が始まりシャッとメジャーを延ばす柊を見て、ふとここにはいない桂樹先輩のことを思い出す。
チャットも見ていなかったし、勝手に衣装作りまで話が進んでトントン拍子で採寸まできてしまった。
雅臣「あの、桂樹先輩のはどうします…?」
三木「合唱部の燕尾のサイズが俺と同じだから問題ない。細かいサイズも直ぐに分かるから直接チャットしとくよ」
1人だけ何も知らずに全てが進んでしまうのは桂樹先輩とて寂しいのではないかと心配したが、三木先輩の言葉を聞いて大丈夫そうだと胸を撫で下ろす。
蘭世「そーじゃん、燕尾のサイズで___」
三木「蘭世、お前のはしっかり測るぞ」
蘭世「はぁ!?いや俺この前二階堂さんとこで測ったっての!データ貰ってんだろ!?」
三木「その時よりお前痩せたろ?早く脱げ」
大騒ぎする梓蘭世を捕まえた三木先輩は柊からメジャーを受け取る。
プールで見た水着姿の梓蘭世は確かに細かったがあれよりも今は細のかと俺は1人戦慄した。
楓「一条先輩も測ります?」
梅生「俺はずっと燕尾ぴったりだからあれでいいと思うんだけど……」
三木「それなら一条は1年の測ってやれ」
三木先輩の触り方がキモいと大騒ぎしていた梓蘭世だったが、しばらくして観念したのか腕をクロスさせてポロシャツに手をかけると潔く脱ぎ始めた。
夕太「服の上からじゃダメなの?」
蘭世「どーせ俺だけここでキッチリ測っといて次の仕事に使うんだろうよ」
ご名答と三木先輩は笑ってるけど芸能人とはいえ寸分たがわずデータを把握しておかなけらばならないのも大変だよな。
夕太「じゃあじゃあ、梅ちゃん先輩はでんちゃん測って、俺はもう終わってるから雅臣やるね」
梅生「分かった、ほら蓮池手上げて?」
一条先輩は柊からメジャーを受け取ると蓮池の胴回りに通し始めるが、採寸ってのはどこを測る必要があるんだ?
たまに体重は測るけれど、こういった採寸なんてしたことがないからやり方が分からないんだよな。
服なんてMとかLみたいなサイズしか知らない俺は初めての採寸に戸惑いながらも柊の言われるまま手を上げた。
雅臣「ウエストとか測るのか?」
夕太「おう!これ測る箇所リストね。梅ちゃん先輩とミルキー先輩俺のスマホ勝手に見ていいからね!」
梅生「順番に測ってメモしてくよ」
柊のスマホを渡されメモを見ると、ウエストや肩幅、背丈にアームホールなど少なくとも10箇所以上は細かく書いてある。
夕太「雅臣もっとピッとしてて」
姿勢が悪いと叱られ俺は柊にされるがままだった。
梅生「蓮池体格良くて羨ましいよ」
楓「……デブって言いたいんですか」
梅生「違うよ、かっこいいってこと」
……ったく、何言ってんだあいつは。
それにしても採寸の割り当てが完璧だったな。
あの態度の悪い蓮池が一条先輩だからか遠慮して何も言わずに大人しくしている。
梓蘭世も三木先輩に悪態つきながらもされるがままだし、俺も柊だからか変に緊張することもない。
三木「蘭世お前痩せすぎだ。もう2kg増やせ」
蘭世「痩せろだの太れだの筋肉つけろだの足が短ぇだの鼻が歪んだだのうるせーよ」
雅臣「そ、そんなこと言われてるんですか!?」
夕太「もー!雅臣前向いて!」
衝撃発言に思わず振り返ると柊にメジャーでウエストを思い切り締め付けられる。
梓蘭世のモラの元凶は三木先輩なのではと思いながらもごめんと柊に謝った。
しかし三木先輩のあのハッキリとした物言いで顔から体型まで全てに口出しされているかと思うと俺だったら絶対に心が折れる。
梓蘭世のあの美しい鼻に一体何の問題があるのだと恐ろしくなった。
蘭世「まぁでも来月だっけ、二階堂さんとこの来シーズンのコレクション撮影。だからこんくらいで良くね?」
三木「その前に別の撮影があるから2kg増やせって言ってるんだよ。痩せる方が楽だからって調整面倒くさがるな」
二階堂さんのブランドの秋冬コレクションの撮影の前にも仕事が控えているのか、三木先輩は梓蘭世に異様に厳しい。
雅臣「あの、……そんなに調整って必要なんですか?」
蘭世「まぁ仕事だからな。好きなもん何でもバクバク食うわけにはいかねぇよ」
柊がせっせと俺のサイズをメモをしている最中に何となく尋ねてみたが、その言葉で俺は梓蘭世がイタリアンでほとんど食べずに蓮池に料理を回していたことを思い出す。
……ん?
じゃああれは特にお腹がいっぱいだったわけではなく食べたくても仕事があるから調整してたってことなのか!?
あの野菜だらけの弁当も本当は梓志保の好みでもなんでもなくて、仕事のために仕方なく食べていたのかと目を見開いた。
雅臣「それならランチでコースなんて……」
蘭世「あ?いいんだよそのために三木さんいんだろ」
この言い分だともし俺達がいなくても最初から料理をほとんど残して三木先輩が食べる予定だったのだろう。
そりゃあ芸能人だから多少控えたり運動したりと想像はしていたが、実際に聞くとあまりにもシビアすぎる。
美しさや求められるものによって食べたいものが食べれないだなんて常人には考えもつかず、むしろ梓蘭世が大須であのクレープを食べていたことの方がレアだったと気づいた。
それに比べて俺はどれだけ食べてもそこまで問題はない。
体質的にも何を食べてもそこまで太らないタイプで良かったと胸を撫で下ろすが、さっきまでうるさかった柊が何故か無言で自分のスマホ見て首を傾げていた。
俺のサイズを順に測る度に柊は眉間に皺を寄せて数値をメモしているが、
夕太「雅臣ってでんちゃんと身長あんま変わんないよね?」
雅臣「え?あぁ、多分身長も体重もそこまで変わらないはず……」
柊は何度も俺と数値を見比べていて、測り間違えでもしたのだろうか?
楓「夕太くんハッキリ言いなよそいつがデブだって」
雅臣「___は、はぁ!?デブってお前な!!」
夕太「デブっていうか……びっくりしただけだよ。だってでんちゃんのがちょい細いくらいなんだもん」
ほら、と柊が一条先輩が測って打ち込んだ蓮池の数値を真顔で見せてくれる。
実際自分のと見比べると蓮池より数cmずつ俺の方が太くて衝撃を受けた。
___い、いやいやいや、待て待て!
何故俺は一般人なのにいちいちこんな体型如きでショックを受けないといけないんだ!?
確かに名古屋に来てから特に運動なんかしてなかったが生活は東京にいた時と変わってないぞ!?
目は口ほどに物を言うとは正にこの事で明らかに柊の目は俺をデブと言ってるようだ。
柊が蓮池に口癖のように言う〝デブ〟とは違ってその目つきは本心のようで色々キツイ。
俺は別に普通体型で蓮池が少し締まっているだけじゃないかと焦っていると、
蘭世「とっとなんかデブじゃねぇだろ、普通だよ普通」
梓蘭世がため息をつきながらこちらを見た。
ガリガリで奇跡の等身を持つ梓蘭世に普通を語られても1ミリも信用ならないとフォローに変なショックを受ける。
蘭世「てか三木さんこそ測り直せよ。あんた4月に燕尾着た時パッツパツだったじゃん」
三木「俺はジムで鍛えてついでに今度測るから別に大丈夫だ」
蘭世「はー男病キモすぎ、ぜってーかかりたくねぇわ」
ポロシャツの二の腕を見れば三木先輩がジムで相当鍛え上げているのが分かる。
余分な贅肉がないのが羨ましく思えてきて恐ろしく俺1人だけスタイルが悪く感じるが、そもそも梓蘭世の言う男病とは一体何だ……?
後で調べてみるとして、とにかく家に帰ったら久しぶりに体重計に乗って現実を確かめよう。
そして今日からバランスの良い食事を心がけようと胸に誓った。
そんなこんなで手際よく採寸は終わって柊が全ての数値を確認すると全員が一息ついた。
蘭世「無駄に疲れたな……とっと、アイスコーヒーカフェインレスにして」
夕太「俺はアイスホワイトモカ!」
急にカフェの店員如く注文を受けて俺はまたマシンに向かうが、よく考えたら柊の作ってくれた歌に燕尾なんて似合うのか……?
楓「ぼーっとしとんなよ、俺はアイスカフェラテな」
雅臣「はいはい」
しかし人使いの荒い蓮池の言葉に、そんな考えも消え去りいつの間にか気も逸れてしまった。
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