171.【初めてのネックレス】
___ど、どうしたんだ今日は!?
誕生日でもないのに梓蘭世が恐ろしく優しくて不安になるくらいだ。
さすがに買ってもらうのは申し訳なくて慌てて首を振るが、デザイナーとそのモデルが似合うと言ってくれた記念にこのTシャツは自分で買おうと財布を取り出す。
蘭世「バーカ、先輩が買ってやるって言ったらありがとうございますでいいんだよ」
そう言って俺の頭を軽く叩いた梓蘭世が素早く二階堂さんに話をつけてしまった。
楓「ありがとうございます」
夕太「蘭世先輩あざす!!」
蘭世「てめぇらには買わねぇよ!!」
しかしノベルティを選んでいたはずの2人が俺の隣にやってきて突然梓蘭世に頭を下げる。
柊なんかは飛びついてお礼だと頬にキスしようとしたので店内に梓蘭世の悲鳴が響き渡った。
店内に他の客がいなくて良かったとヒヤヒヤするが、二階堂さんも三木先輩も特に気にすることなくそれを見て面白そうに笑っていた。
蘭世「シャツ包んで貰うからノベルティ選んでろよ」
柊を乱暴にひっぺがした梓蘭世はあまりにも優しくて明日はどしゃ降りかとさえ思ってしまう。
雅臣「ありがとうございます、大切にします」
蘭世「後生大事に取っとかんでいいから着ろよ」
雅臣「は、はい!」
俺が梓蘭世のファンと公言したのもあって着ずに保管することのないよう念入れまでされてしまったがそれもまた嬉しい。
行け行けと手で追い払われ俺も一緒にノベルティの入った革のトレイを覗かせてもらった。
梅生「藤城、ネックレスかブレスレットどっちにするる?」
雅臣「えっと…ブレスレットだと料理する時つけられないしネックレスにしようかと…」
夕太「雅臣はシルバーって感じするな」
俺はアクセサリーなんて勿論つけたこともなくて、せっかく貰うなら汚したくない。
その都度外せばいいのだがネックレスならずっとつけていられると考えていると柊に試着を勧められる。
夕太「ほらこのサンプル試しにつけさせて貰いなよ」
フックを外して首の後ろでに止めようとするが、初めてネックレスなんかつけるので上手く止まらずもたついてしまう。
その様子を蓮池に鼻で笑われるが、
三木「つけようか?」
三木先輩が俺の背中に周って後ろから優しくつけてくれた。
壁面ミラー1面に映るネックレスをつけた自分の姿を見て目一杯背伸びをしたみたいで気恥しい。
でもアクセサリー1つでこんなにも気分が高揚するのかと頬が赤くなりながらも今日の記念にこのネックレスを大切にしようと思った。
雅臣「あ、ありがとうございます……」
三木「よく似合ってる。俺もシルバーにしようかな」
蘭世「三木さんアクセはクロムだけじゃん」
三木「たまには後輩とお揃いもいいじゃないか。な?藤城」
三木先輩が軽くウインクするのを見て俺はぶんぶんと首を縦に振る。
出会った当初は怖い人としか思えなかった三木先輩が実は優しかったり面倒見が良かったりと1番イメージが変わった気がする。
夕太「えー!俺どれにしよ!」
楓「俺はゴールドのネックレスにしよ」
夕太「雅臣とイロチじゃん!……いいの?」
チロ、とふざけた顔をした柊が上目遣いで蓮池を見つめている。
陰キャとお揃いだなんてよく考えたら嫌だね、とでも言われるかと身構えるが、
楓「花生けるからね。ブレスは付けられないよ」
至極真っ当な理由でネックレスを手に取った。
意図せずだがスノードームにネックレスと蓮池とお揃いのものが少しずつ増えていて嬉しい気持ちでいっぱいになる。
まだ友達とは言い難い関係だけど蓮池とももう少し上手くやっていけたらなと見つめていると、
楓「ブルベマウント取っとんなよ」
雅臣「は、はぁ!?何だよそれ!」
いつも通り睨まれ訳の分からないことを言われてしまい、やはり友達への道のりは長そうに感じた。
夕太「えー、なら俺はブレスにしよっかな!俺はゴールドの方が合うんだよね」
梅生「それなら俺はシルバーのブレスレットにするよ」
夕太「やったー!!梅ちゃん先輩とお揃い!」
ぴたっと腕に抱きつく柊を梓蘭世が後ろから無理やり剥がして何も言わずにそのまま一条先輩とお揃いのシルバーのブレスレットを手に取った。
蘭世「二階堂さんまじありがとう」
「蘭世の友達出来た記念だからな」
壁に凭れて笑う二階堂さんは大人びていて、1つ1つの仕草がどこか艶めかしい。
蘭世「……揶揄うなよ」
二階堂さんを前にすると梓蘭世がいつもより子供じみて見えて少しだけ不思議な感覚を味わった。
梅生「すみません、この星座モチーフのカードケースってあります?」
一条先輩の質問に二階堂さんがガラスのショーケースから革のカードケースを取り出す。
1つずつ星座が丁寧に刻印されていて、黒、ネイビー、カーキにワインレッドとどれもエイジングが楽しめそうなものばかりだった。
一条先輩は自分の星座を一生懸命探しているけれどなかなか見つからないようだ。
「梅生くん何月生まれ?」
梅生「2月で…うお座です」
「それ結構売れちゃってて、もしそこに無ければ来月また新しいの作る予定」
梅生「あ!それならまた蘭世と買いに来てもいいですか?」
「もちろん。うお座多めに作ろうかな」
その言葉に一条先輩は吹き出した。
二階堂さんは梓蘭世経由で一条先輩のことをよく知っているのかかなり親しげで、何だよと笑って軽く肘で小突く。
少し緊張気味の一条先輩も頬を赤らめていて、その気持ちは俺も何となく理解できると背の高い二階堂さんを眺めた。
日本人にしては少しバタ臭い妙に色気のある二階堂さんは明らかに真面目に学生生活を送っていたら関わることの無いタイプだ。
芸能人やデザイナーなんて東京でもそうそう会えないのに、名古屋に来てからこんな事ばかりだと空気が漏れるように笑った。
夕太「えー!このカードケースもお洒落!俺も欲しい!」
楓「……ここ服も小物も全部こだわって作られてるし俺めっちゃ好きかも」
「ありがとな。またいつでもおいで」
興奮する2人の間で苦笑する二階堂さんは別の店員の方から紙袋を受け取ると梓蘭世に手渡した。
蘭世「ほらよ」
雅臣「ありがとうございます!」
家に帰ったら直ぐに着てみようと浮かれながらふと腕時計を確認すると、もうそろそろここに来てから1時間も経ってることに気がつく。
いくら何でも長居しすぎたと二階堂さんにお礼を言った俺達は足早に扉まで向かった。
「ちょっと待って、君が藤城くん?」
「あ、え、あ、は、はい……」
外に出ようとした瞬間、二階堂さんに呼び止められ俺の目の前で扉が閉まってしまう。
皆の声が扉越しに聞こえる中、突然名前を確認されたから何かしただろうかと首を傾げると、
「蘭世をよろしくね」
雅臣「えっ……」
「優しい後輩が出来たって喜んでたから」
口元を抑えて笑う二階堂さんの言葉に、俺は驚きが隠せない。
や、優しい後輩だって?俺が?
梓蘭世にそう思われていたとは思いもよらず驚いて目を見開いてしまう。
雅臣「あの___」
蘭世「おいとっと!ちんたらしとんなよ!!梅ちゃんがもう台湾カステラ屋に走ってんだって!!」
しかしその喜びも束の間、再び思い切り扉が開いたかと思えば名古屋弁丸出しの梓蘭世に叫ばれる。
蘭世「二階堂さんまたな」
梓蘭世の手首にはもうシルバーのブレスレットがつけられていて、皆でお揃いのアクセサリーを持てることがとても嬉しい。
それにしても俺の背中を思い切り叩く梓蘭世は本当に俺の事を優しいとか思ってるんだろうか?
嘘か誠か分からなくて後ろを振り返ると、二階堂さんは笑顔でひらひらと手を振って笑っていた。
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