167.【更に加えてダサいだなんて】
あの後5人分のコースと別途ドリンク代を合わせた会計金額は中々のものだったが、本当に三木先輩が全部経費で落としてくれた。
帰る直前、隣の個室にいた梓志保達に挨拶をすると、三木先輩の母親は 2人きりの楽しいデートを邪魔されたからか早く帰れと言わんばかりの形相で、素早く頭を下げてお礼を言って皆で店を後にした。
蘭世「食いすぎた、腹苦しい」
楓「よく言いますよデブはよく食べるからって全部俺に食べさせといて……周りを太らせて自分は細いから安心しようったって___」
夕太「もー!どうせでんちゃんはコースじゃ足りないんだからちょうど良かったじゃん」
2時間かけてゆっくり食事が出てきたのもあって梓蘭世の言う通り結構腹が苦しい。
ショッピングしがてら少し歩けば消化するだろうとシャトルエレベーターに乗り込んだが、42階から名古屋が一望できる高さに改めて驚いた。
夕太「これ〝ケイジ〟だったら絶対死んでるよね」
楓「夕太くんこれ乗る度にそれ絶対言うよね」
エレベーターはぐんぐん下へと下りていくが、柊は景色を眺めながらガラスに手をついて自分の好きな映画の話をしだした。
夕太「ザワ·····ジリ·····ザワ……」
蘭世「無駄に高クオリティ」
どうやら高層階から落ちるか落ちないかのスリリングな展開がこの状況とそっくり同じらしく、柊はエレベーター内で大袈裟にその演技を真似している。
それが変にリアルで俺は何となくここから落ちたらと想像してしまい竦む足を誤魔化すように窓から背を向けた。
直ぐにエレベーターが1階へ到着して梓蘭世が商業棟から一条先輩と待ち合わせした場所へ行こうと歩き出す。
三木「蘭世、服は高島屋でいいのか?」
蘭世「一旦?てかとっと、お前いつも服どこで買ってんの?」
雅臣「基本ネットが多いです」
そう言うと梓蘭世は美しく整えられた片眉を上げて、上から下まで品定めするように俺を見た。
雅臣「それに俺ハイブランドとかはあんまり…」
蘭世「は?そのTシャツHARMANIのだろ?1枚8万はするやつじゃん。てかお前何でそれ選ぶんよ」
お下がりとはいえ全身超高級ハイブランドCHANELAで決めた梓蘭世に怪訝な顔をされる。
雅臣「え、これは俺もお下がりで……そちらのCHANELAとかに比べたら全然安いし」
蘭世「お下がりって……」
しかしその瞬間、後ろにいた蓮池が俺の尻を思い切り蹴飛ばした。
雅臣「何すんだよ!!」
楓「ギャグかよ、俺のFONDIもてめぇのHARMANIも対して値段変わらんわ」
夕太「雅臣ってほんとどっかズレてるよなぁ」
呆れたように俺を横から抜いて2人がさっさと歩いていってしまうので何だか俺が物凄く間違ってるようで恥ずかしくなる。
楓「シンプルで質がいいとか言い訳じみたこと考えんなよ。ハイブラはハイブラ、お前の服も鞄も全部デパートの特選売り場にしか並んでねぇだろ」
蘭世「それもあるけど、とっとがジジくせえのってお下がりだからか。とっとのとっと40代くらいじゃねーの?」
……。
…………え?
じ、じじくさい?
ようやく分かったわと頷いてる梓蘭世に俺は1人狼狽えてしまう。
確かに俺は親父の行きつけの店で買ったりそのお下がりを貰ったりしているが、その言い方だと俺の服は学生っぽくないってことなのか?
夕太「まぁ似合ってはいるけどね?」
___に、似合ってる!?
柊にこのタイミングでそう言われても全然嬉しくないぞ!?
似合ってるってかっこいいとか人を褒める時に言う言葉じゃないのか!?
今の流れだと俺がおじさんのような服が似合うと言われてるみたいなもので……。
梓蘭世と柊の言葉で自分の着ているものがハッキリ流行りじゃないと知って頭をかち割られた気がした。
救いを求めるように三木先輩を見るが、今日の先輩のファッションは俺と同じ全身黒なのによく見ればどこか自分と違う気がする。
三木先輩のコットンニットセーターはクルーネック、ショーウィンドウに映る自分の姿と皆を改めて見比べると……。
この中で俺だけがVネックで、そしてパンツも俺1人センタープレスが入っていて変にスリムだ。
慌てて周りを見渡せばおじさんばかりがこの形を着ていて若い男性は絶妙に遊びがある形だった。
蘭世「どーせとっとの店……あー、紛らわしい。お前の父親と同じとこのしか買わねぇんだろ?今日でフケ専卒業しような」
夕太「何その童貞卒業みたいな言い方」
蘭世「言ってねーだろ!!」
…………!!
先輩2人と並んで先を歩く柊と蓮池の服を見ながら、俺のセンスはもしかして相当おじさん臭いのではと固まってしまう。
三木「まぁ、実際色々見比べてみればいいんじゃないか?」
足を止めた俺を気遣うように三木先輩が振り返るので急ぎ足で追いかけた。
ボッチで陰キャでコミュ障で、更に加えてダサいだなんて終わってる……。
しかし俺が陰なのは最早変えようがないのかもしれないが、ボッチとコミュ障は前より格段にマシになったんだ。
今から皆に服を選んでもらえば〝ダサい〟はすぐに回避できると俺は気持ちを奮い起こす。
………大丈夫だ。
むしろ早めに気づけて良かったんだ。
あのまま人と関わらずに何も知らないまま親父が買っている店のサイトで買い続けてたら、ダサいと後ろ指をさされていたかもしれない。
心で無理やりポジティブに捉えながらオフィス棟から商業棟へ移動すると、高級ジュエリー店やブランドショップが色々と入っていてルイピトンやDiarの看板を眺めながらエスカレーターを降りていく。
夕太「このエスカレーターで5階に上がれば映画館だよ」
柊が今度一緒に行こうなと笑ってくれたのが、今の俺には本当に沁みる。
ダサい俺と並んで歩く柊まで笑われることのないよう絶対今日はVネックじゃないシャツを買うと胸に誓った。
夕太「蘭世先輩、梅ちゃん先輩って今日何してたの?」
蘭世「ぴよるん食ってたんだと。ったく何個食ったんだか…」
楓「あれ個数制限ありません?」
三木先輩が何も知らない俺の為にぴよるんとは名古屋の新名物スイーツで名古屋コーチンの卵を使ったひよこプリンだと説明してくれた。
ぴよるんは1つずつ表情が異なる可愛さも人気の1つだが賞を受賞するほど美味しいらしく、一条先輩は名駅の銀時計付近にあるぴよるんカフェにいたらしい。
ひよこのプリンを何個も平らげた一条先輩が簡単に想像がついて恐ろしいな……。
個数制限がないと本気で危ないと考えている間にプールの待ち合わせと同じ金時計横の高島屋入口前に着いてしまった。
真夏は名駅も栄も地下から行くルートの方が涼しくて今度からちゃんと道を覚えようと辺りを見渡していると、
梅生「お待たせ」
一条先輩が手を振りながら小走りで向かってきた。
……やっぱりだ。
一条先輩のTシャツもやはりクルーネック、そして白のフロントに海外の街並みがアートワークプリントされていてとてもお洒落だった。
プールの時と違う黒のフレアパンツは正に流行りの形で、ますます俺だけがダサい陰キャ確定となってしまい一刻も早く脱却したい。
蘭世「梅ちゃん!今日の服似合ってんじゃん」
梅生「これ蘭世がこの前選んでくれたやつだよ。それにしてもみんな勢揃いなんて…」
夕太「ランチ食べてたらたまたまミルキー先輩達に会って流れで買い物しよってなったの!」
柊がぴょんと跳ねて一条先輩の隣に立つのを梓蘭世が阻止しながら中央ブロック入口から高島屋に入っていく。
梓蘭世についてエスカレーターを上ると直ぐにハイブランドの入った特選売り場が見えた。
梅生「藤城の服を皆で見るんだって?」
蘭世「ついでに俺らも欲しいものがあれば、ね」
買う気満々の梓蘭世を見て一条先輩は苦笑しているか、俺は今まで親父としか洋服を買いに来たことがなくボッチで出かけることもなかったせいか私服なんて数着しか持っていない。
皆が選んでくれるなんて二度とない機会にドキドキしながら梓蘭世を筆頭にエスカレーターは7階のメンズ売り場へ到着した。
蘭世「三木さん鞄欲しいとか言ってなかった?デカいのじゃなくてショルダーバッグ買えよ」
目の前に蓮池がしていた眼鏡のブランドのPRADOが見えて早速梓蘭世が店内を覗く。
三木「お前の荷物入れたり書類入れたりするんだから入らないに決まってるだろ。買うならレザートートだな」
2人ともナチュラルに店に入って行き、柊や蓮池、そして一条先輩まで誰1人臆することなく店内へと入っていく。
高校生だけでこんなブランド店に入っていくなんて、店員も冷やかしだと思って相手してくれないんじゃないのか?
夕太「見てこれ、PRADOはクマのストラップが1番可愛いよ」
梅生「ほんとだ…って、俺カードケース欲しいんだよな」
蘭世「とっとはよ来いって!」
入口前でまごつく俺を梓蘭世が手招きするので慌てて中に入っていく。
梓蘭世はハンガーにかかったシンプルなトライアングルロゴ入りのクルーネックTシャツを手に取ると俺に宛がってくれるが正直とてもかっこいい。
まだこれしか見ていないが、天下の梓蘭世が俺の為に服を選んでくれているかと思うと感激で震えそうだ。
楓「結局PRADOはかっこいいんだよな」
三木「蓮池はFONDIのイメージだな」
楓「オールブラック似合わないんですよね」
皆詳しいと感心しながら梓蘭世にされるがままに動かずにいると、
夕太「俺GUCCE見たいなー…雅臣も後で俺に似合いそうな服選んでくれない?」
雅臣「お、俺が?俺で良ければ…」
柊はここには興味無いのか一条先輩と話ながらさっさと店の外に出てしまう。
ウロチョロと勝手に歩く柊が心配になるが一条先輩というお目付け役がいるから大丈夫だと鏡に映る自分を見た。
蘭世「すぐここで決める必要もないか……一旦他の店も見ようぜ」
他の皆も梓蘭世の言葉に従い楽しいショッピングの始まりを迎えた。
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