19.【食堂ストリップ】
梓蘭世の絶叫よりも早く桂樹先輩は椅子に立ち上がり、素早く上着のチャックを下ろしたかと思うとそのままシャツを脱ぎ始めた。
___な、何故!?
何故脱ぎ始めるんだ!?
突然のことに面食らっている俺を置いてけぼりにしたまま、周りの3年生から次々と野太い野次と口笛があがる。
「よっ!桂樹男優!」
「お捻りぶちこんでやるよ!!」
「バッカだなほんと!見たくねえんだよ野郎の上裸は!」
周囲の大爆笑と失笑の渦のが巻き起こる中、その原因の真横にいる俺はめちゃくちゃ気恥しい。
こ、これも名古屋流とかなのか?
いやそんなはずない。多分男子校故のノリなのだろうが余りに突飛すぎて俺は驚くことしかできない。
桂樹「特大サービスな」
類稀なる美貌の持ち主の桂樹先輩が俺にウィンクをしたかと思えば、ついにはガチャガチャとベルトに手をかけ始めた。
ヒュー!という煽りや口笛、笑い声に交じってズボンまで脱ぎ出す桂樹先輩を見て梓蘭世が更に悲鳴を上げ、食堂が阿鼻叫喚を極める。
蘭世「桂樹さんマジでやだ!!信じらんねぇ!!
下品!!汚ぇ!!梅ちゃんも見るなよ!!」
梅生「えっ?」
目の前で常人離れしたスタイルを披露する桂樹先輩を見ることを許さず、梓蘭世は一条先輩の目に手を当て見えないようにする。
三木「相変わらず蘭世は潔癖だな…おい、リオ!」
見兼ねた三木先輩が口を挟んだかと思いきや、
三木 「お前は本当にボディラインもEラインも美しいな!」
騒がしい食堂によく通る三木先輩の声が響くと、更に爆笑の渦に飲まれる。
何を言ってんだと俺1人だけがこのノリについていけない。
どうして俺の周りには的外れなことばかり言う奴しか集まらないんだ。
この理解不能なストリップを止めることもせず、ひたすらに桂樹先輩の顔だけを称える三木先輩に頭を抱える。
「よ!!三木プロ!!!」
「さすが三木プロ!!未来の社長は見る目あるね!」
続々と飛び出す『三木プロ』という煽り声が拍手と共にヒートアップしていく。
三木プロ?社長?一体何の話だ?
混乱する俺の頭に疑問がよぎると同時に、
三木「そこまで言われたら俺もやるしかないな」
三木先輩までもがシャツに手をかけ上裸となる。
目の前で最悪だと舌打ちする梓蘭世の気持ちが手に取るように分かる。
真横でパンイチと上裸の2人がポージングを取ることも、やれお捻りだの持ってけだのと食券をパンツやらズボンやらに入れ込む周りの奴らも全部含めて何が面白いのかわからない。
意味がわからないし、わかりたくもない。
蘭世「最悪だ!!見たくねぇんだよ!!梅ちゃん行こ!」
梅生「えっ?え……」
速攻で2人分の弁当を片付けた梓蘭世が、意外に楽しんでいたのか名残惜しそうな一条先輩の腕を強く引きそのまま行ってしまった。
一通り楽しんだのか大騒ぎしていた輩も落ち着き出し、あー笑った笑ったと次第に周りの人波もそれぞれの場所へと戻っていく。
桂樹「いやー儲かったな。食券はアツい、おい三木それ寄越せ」
三木「俺に捩じ込まれたものは俺のものだ」
桂樹「金持ちの三木には食堂の飯は口に合わねえだろうから貰ってやるって言ってんだよ」
軽口を叩きながら、騒ぎの当事者である先輩2人は制服を片手に下着のまま食堂を出て行ってしまった。
取り残された俺は嵐のような出来事に驚きを隠せないまま、このままでは食べそこねてしまうと慌ててコーヒーでパンを口に流し込む。
二度と先輩達と飯なんて食うものかと胸に誓い、何も食べた気がしないまま騒がしい食堂を後にした。
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