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165.【かけすぎたフィルター】




雅臣「……えっ、と」



それぞれのテーブルの上に小さな菫のパンナコッタとバターヨーグルトがお口直しとして置かれるが、せっかく忘れかけていた合唱大会の結末をこうして掘り返されるとやはり気落ちしてしまう。



蘭世「へー、……負けたんだ」



梓蘭世は誰からも結果を聞いていなかったのだろう。


それなのに察しのいい梓蘭世は言い淀む俺の表情を見て結果を読み取ったようだ。



夕太「うん、負けた負けた」


蘭世「やっぱな」



まるで予測していたかのような言い方が気になるが、梓蘭世はそのままペリエに手を伸ばして口にした。



雅臣「や、やっぱりって……桂樹先輩は頑張ってたのにそんな言い方……」


楓「何が言いたいんだてめぇは」


雅臣「な、何って……悔しいだろ?」



俯きながらしみじみと負けた桂樹先輩の心境を代わりに明かす俺に、ふっと鼻で笑い蓮池が小馬鹿にしたような顔をする。



楓「どこポジだよ。お前ほんと自認ズレすぎだろ」


雅臣「……どういう意味だよ」



酷い言い草にジト目で見つめ返すが、蓮池は桂樹先輩のことを何とも思っていないからそんな態度でいられるんだ。


俺は桂樹先輩に憧れてるからそんな簡単には割り切れない。


言いはしないが今の梓蘭世の態度も何も無かったようにさっさと帰ってしまった三木先輩や柊のことも少し気に入らなかった。


桂樹先輩は三木先輩の友達で、梓蘭世にとっても柊にとっても先輩じゃないか。


皆桂樹先輩の努力を知っているはずなのに、どうしてそこまで冷たい態度を取れるのか不思議でしようがない。


それに梓蘭世の負けるのは当然と思っていたかのような口ぶりにも腹が立って、より恨みがましい目で見てしまう。



夕太「雅臣が考えたって仕方ないって言ったじゃん」


雅臣「分かるけど俺の気持ちは___」


蘭世「とっと桂樹さん好きすぎだろ」


楓「フィルターかけすぎなんですよこいつ」



パンナコッタをスプーン1口で掬って食べる蓮池に明らかに馬鹿にされてムカついた。


皆が何をそんなに熱くなってるいるんだという目で俺を見ているのが分かるから尚のこと腹が立った。



雅臣「……駄目ですか?」



桂樹先輩は俺に1番最初に優しくしてくれた人なんだ。


俺にとって特別な先輩なんだから好きで悪いかよと睨めば蓮池が嫌味たらしく大きなため息をついた。



楓「何だその目……100歩譲って梓先輩が負けたことを惜しむなら分かるけどさ、合唱部でもないお前が何しにそんなこと考えとんだ」


雅臣「だって___」


三木「去年の3年が主力だったんだよ。だからこうなることは予め予測がついていた」



すると三木先輩が淡々と抑揚もなく実情を述べた。



夕太「あー、甲子園でスター選手が抜けたみたいなね?俺今年西邦(せいほう)応援してたのに負けそうでさー」


蘭世「いやいや今年は山王(うち)よ、なんてったってうちのクラスのエースがホームランかなり打ってんだから」



三木先輩の言葉から急に柊と梓蘭世が野球の話で盛り上がるが、



夕太「ミルキー先輩達も去年地区大会勝ったならあの垂れ幕出たの?」



ふと思い出したように瞬きしながらそう尋ねる柊に、1学期の終わりにサッカー部や野球部の横断幕が設置されていたことを思い出す。


大会に優勝したり決勝戦に進出したりするとその部を祝うように大きな横断幕が校舎の上から垂らされるのだがもしかして合唱部も去年は設置されていたんだろうか。



蘭世「地区大会初突破ぐらいじゃなぁ…さすがに設置してくれんかったわ」


三木「お前は出てないだろ」


蘭世「まぁな?でも所詮そのレベルってことよ」




………。



……………。



え?設置されなかったのか?



そ、そういえばプールで一条先輩がうちは強豪校ではないと山王合唱部の事情を教えてくれてたよな。


しかも改めて聞いてみてもやっぱり去年初めて地区大会を突破したレベルで……。



夕太「ふーん、まぁいいや。それより蘭世先輩見て見て、俺野球のピンチヒッターとか行けると思わない?」


蘭世「おい危ねぇな!フォーク振り回すな!それにお前じゃ無理だわセンスなさすぎ」



ええーっと文句垂れる柊を放っておき、俺は手に持つ自分のフォークと柊を交互に見た。



〝自認がズレてる〟



その言葉を思い出しハッと顔を上げるとじっと黙って俺を見つめていた蓮池と目が合う。


その目はまるでその通りだと言ってるようで、俺が憧れのあまり桂樹先輩を勝手に持ち上げすぎていたことに今更気がついた。



地区大会なんか絶対通ると思っていた俺が間違っていたんだ。



桂樹先輩は俺と違って何でもできるから、歌もピアノも上手いだろうという期待がいつの間にか大会で勝つに決まってるって考えになっていたんだ。


結局俺が自分で勝手にハードルを上げていただけなのに勝手に落ち込んで……これじゃあ馬鹿みたいじゃないか。


合唱部の歌があまり上手く聞こえなかったことも、桂樹先輩がミスしたことも、勝てなかったことも全部俺が期待しすぎたのが間違いだった。


それなのに俺は三木先輩や梓蘭世、柊にまで過度な反応を求めて怒っていたなんて、蓮池にどこポジと言われるのも仕方がないと意気消沈してしまう。



雅臣「……俺は本当に考えなしかもしれない」


楓「てめぇはほんとにズレてんな」



思わず出た呟きに蓮池がこちらを見てドン引きしながら眉根を寄せる。


どうしていつも俺は自分の気持ちばかりで周りをきちんと見ることが出来ないんだと、穴があったら入りたい気持ちに駆られた。



夕太「何?何がズレてんの?」


楓「こいつの自認がズレてる話」



蓮池が俺を指差して笑ってるのを見るとより一層シビアに現実が見えてキツい。



三木「まぁな…そうだ、リオで思い出した」



考え込む俺に横に座る三木先輩と目が合う。



三木「藤城、お前の好きなバンド来日するらしいな」


雅臣「え、〝Not Bad〟ですよね?何で知ってるんですか?」


三木「タワレコにポスター貼ってあった気が……蘭世見たよな?」


蘭世「あー!あった気がする、あの派手なやつ?」



突然俺の好きな4人組ロックバンドの話を振られて、自分自身がいい具合に気が逸れる。


このままだと地の果てまで落ち込みそうだったので話題が合唱部からバンドの話に移り変わってくれてちょうど良かったと顔を上げた。



三木「今週末コンサートだろ?お前も行くのか?」


雅臣「___えっ!?こ、今週末!?」



コンサートの日程を三木先輩から教えられ驚愕に目を見開いた。


同時に桂樹先輩から一緒に行こうと誘われたのにまだ1度も連絡が来ていないことを思い出した。






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