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160.【幸せな時間】



…………。



体が絶妙に痛い。


カウンター前の置き時計は既に朝の8時を示しているが、実は俺は6時から起きて朝食のパンを焼いていた。


柊が持参した謎の寝袋のせいで寝付けなかったとか、そういう理由ではない。


俺がキッチンで作業している音にも微動だにせずリビングのソファで直立不動で熟睡している蓮池を見ながら大きなため息が出た。


昨日柊には俺のベッドで寝て貰って結局俺はベッド横に寝袋を敷いて寝たのだがこれが大きな間違いだった。



柊は物凄く寝相が悪い。



あいつが何回もベッドの上から落っこちてきて、俺がそれを元に戻してはまた落ちてきての繰り返し。


しかも俺がようやく寝つけそうだという時になると必ず真上から落ちてきて痛いったらありゃしない。


10回以上そんな事をしていたら寝付けるものも寝付けなくて、途中リビングに移動しようかとも思ったが朝起きて柊が床に落ちてたら体が痛いよなと心配になりそれもできず……。


柊が以前腰を痛そうにしていたのを思い出して悪化させても良くないよなと考えていたら熟睡出来なかったのだ。


どうせ眠れないのならもう起きてパンを焼いた方がいいとちょくちょく柊が落っこちていないか見張りながら作業すること約2時間。


蓮池が俺を気遣ってあんな言い方をしていたのだという事実にパンをオーブンに入れながら気がついた。


寝相の悪い幼馴染を誰よりも知っているからこそミノムシみたいにくるまれと言っていたのだろう。


蓮池の家はベッドではなく布団だからどれだけ転がっても大丈夫なわけで、ベッドだと確実に落ちることを知っていたに違いない。


なら早くそう言ってくれとも思ったが、柊を寝袋で寝させられない気持ちも分かるのでやんわり勧めていたのだろう。


……まぁ、いい。


どちらにせよ蓮池が柊だけでなく俺にも気を遣ってくていたことが嬉しい。


ソファで1ミリも動かない蓮池にずれたタオルケットを肩までかけ直してやりながら、ふと家の中を見渡すと暖かい気もちになる。



誰かが家にいるっていいな……。



綺麗に片付けられた毎日とは少し違う散らかったリビングを見ながら、親父にもしたことがない事を俺は友達にしている事に気がついた。


お風呂の準備から朝ご飯まで、まるで大きな子供を持つ母親のような気持ちになる。


お母さんって大変で、でも幸せなんだなと伸びをしながら後30分程で焼けるオーブンのパンを覗いた。


待っている間にマットレスでも検索しようかとスマホを手に取ると、



夕太「おっはよー雅臣!!何このいい匂い!!」



目を覚ました柊が大きな声でリビングに入ってきた。


蓮池が起きてしまうとシーッと人差し指を口に当てて黙らすが、ソファを見ても1ミリも動かず寝息を立てている。


割と大きな声だったのに全く起きないだなんて蓮池は相当眠りが深いんだな……。


これなら少しくらい話しても大丈夫そうだと判断し、



雅臣「おはよう、今パン焼いてるから」


夕太「焼きたて!?」


雅臣「焼きたてだ。そうだジャムも作ろうか?」



冷蔵庫からフルーツを取り出すために立ち上がると小走りで柊が俺の傍にやってきた。



雅臣「何味がいい?」


夕太「んー…逆に何味作れんの?」


雅臣「桃かパインかキウイか……ブルーベリーかな」



何となく大きな鍋で永遠に煮詰めるイメージだったが少量を短時間で作る簡易ジャムもあると知った俺は何度かヨーグルトに入れる為に試しで作っていた。


せっかくパンを作るならジャムも作れた方がいいと事前に調べておいて正解だった。



雅臣「この前のアフタヌーンティーでジャムいっぱい付けてたろ?好きなのかなって思ってさ」



そう言うと柊は見てたの?と嬉しそうに体当たりしてくるが、ちょっと痛いけどこの嬉しそうな表情を見たら何も言えなくなる。


喜んで貰える幸せは何物にも代えがたく、



夕太「じゃあキウイがいい!」



と柊は緑のキウイを冷蔵庫から出してくれた。



夕太「でんちゃんのはどうする?」


雅臣「まぁ…今こんなにうるさくしても起きないあいつが悪い。柊が先に好きなの選べよ」



そう言うと柊は自分が選べる特別感が嬉しいのか満面の笑みを見せるから、天性の末っ子気質だなと俺はつい吹き出してしまった。



夕太「俺も手伝うね」



2人でキッチンに立つのも楽しいなと朝ご飯の準備を始めた。




______


____________




しばらくジャムを煮詰めている間にオーブンから音楽が流れてパンの焼き上がりを告げる。



夕太「このリズムいいね」



音に合わせて踊り出す柊を見て笑いながら、柊が希望したキウイと蓮池の為に甘めの桃のジャムを用意した。


更にスクランブルエッグとベーコンをカリカリに焼いて、レタスやラディッシュ、キャロットラペと一緒にベーグルを添えれば完璧な朝食の出来上がり。


準備万端でコーヒーを入れる直前に柊に頼んで蓮池を起こしてもらうが、叩いても何をしてもピクリともしない。


柊の大声にも全く反応せず生きているのか不安になるくらいで、



夕太「これ毎日起こしてた俺偉くない?」


雅臣「偉い、偉すぎるぞ」



思わず拍手して柊の頭を撫でると嬉しそうに蓮池を蹴飛ばした。


さすがにそれはと焦る俺とは違って柊が気にせず数回蹴飛ばしたところでようやく蓮池は目を開ける。



楓「……」



無言のままのろのろとローテーブルに置いてあったメガネを掛けるが、オリーブグリーンの細いスクエアフレームの眼鏡は品が良く蓮池にとても似合っていた。



楓「何見とんだ」


雅臣「いや、おはよう」


楓「アイスカフェラテ作っとけよ。俺顔洗ってくるわ」



首を左右に振ってゴキゴキ音を鳴らしながらそう命じた蓮池は体を伸ばしてから洗面所に向かった。


寝起きは悪いのに起きた瞬間から直ぐに行動できるタイプなのかとマシンを動かそうとすると、



夕太「俺フォームラテがいい…って、でんちゃん!今日は一々顔作んなくていいからねー!」



柊が意味不明な声掛けをした。


顔を作るとは何だと思いながら蓮池と柊の分の飲み物を用意するために急いでグラスを準備する。


しばらくして戻ってきた蓮池は少し伸びた前髪が邪魔なのかカチューシャで額を出しスッキリとした顔で席に着いた。


全員揃って手を合わせた瞬間、柊は俺の作ったキウイジャムをベッタリとベーグルに乗せて頬張り始める。



夕太「むぁさうぉみって……んぐ、今日は1日空いてる感じ?」



一気にアイスラテでベーグルを飲み込むその口にはサンタクロースの髭のようにムースフォームつけている。


しょうがないなと横からティッシュで拭いてやろうとすると柊は子供のように口を突き出し世話を焼かれた。



楓「バカだな夕太くん。陰キャに予定なんかないよ」


雅臣「……お前な」



蓮池が断定するからイラッときたが、正にその通りなので何も言い返せない。


強いて言うなら宿題をやるか韓ドラを見るかゲームをするくらいなので、我ながらろくでもないと思いながらホットコーヒーを口にした。



夕太「ならさ、今日の昼俺らとランチしない?」


雅臣「えっ?」


夕太「元々でんちゃんの華展お疲れ様会やる予定だったんだ」



聞けば今日は元々蓮池の母親と柊、蓮池の3人でランチをする予定だったらしい。


だが蓮池のお母さんに急な予定が入ったらしく1つ席が空いたようで、柊はもし良ければと俺を誘ってくれたのだ。



雅臣「いいのか?」


楓「好きにしろよ」


雅臣「……それなら行こうかな」



あくびをしながらカフェラテを飲む蓮池に確認を取るがどうでも良い感じで、これなら一緒に行っても良さそうだと判断した。


改めて蓮池が俺と2日も一緒に過ごしてくれるだなんて驚きだが、弁当の時からよくぞここまできたものだと自分の成長を噛み締める。


そして普段から大した予定のない俺にまた新たな予定が入るのが嬉しくて頬が綻んだ。



夕太「ならこれ食べて11時くらいまで宿題やってから準備しよ!」


楓「……おい、お前やってみたいゲームとかないのかよ」


雅臣「蓮池……さすがに宿題やりたくないからってそれはどうかと思うぞ」



連日食べっぱなしだが夏休みを蓮池と柊と一緒に過ごせることが1番嬉しくて、食べ終えた食器から片付けることにした。








読んでいただきありがとうございます。

ブクマや評価していだだけて本当に嬉しいです!

いただけると書き続ける励みになるので、ぜひよろしくお願いいたします♪♪


そして本日で160話✨✨

読み続けてくれて本当に嬉しいです!

山王学園シリーズ、まだまだ増やすつもりです。これからもよろしくお願いします!!

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