157.【名古屋中華の真髄】
楓「お前がちまちま作るのなんか待ってらんねぇよ……ウーバーな」
夕太「うわ、ありすぎる」
急にお腹が空いたのか蓮池はUber Foodのアプリを開いた。
俺はアプリで好きな食べ物を選んで色んな店から配達員に運んでもらうUberを使用したことが無かったが送料が高いと聞いたことがある。
いくらぐらいするのか分からなくて現金を用意していると、
楓「一応泊めて貰うわけだし?俺が頼むから支払いは要らないよ。お前中華いけるよな?」
にっこり微笑まれ払わなくていいと言われてしまった。
…………。
…………ま、まじか。
蓮池が奢ってくれるなんて、これは俺に完全に心を開いてないか?
元々礼儀だけは正しい蓮池の言葉の通り宿泊代と受け取るのが正解だろう。
今までよりも距離が近く感じて友達に1歩近づいた気がして心が踊る。
楓「名古屋の中華の真髄を教えてやるよ」
夕太「でんちゃんさぁ……」
楓「夕太くんは黙ってて」
だってあそこでしょと柊はカナリアみたいな上目遣いで俺を見るが、名古屋を代表する中華の店があるのだろうか?
名古屋名物に中華があるとは知らなかったが大食いの蓮池が選ぶ店ならきっと美味しいものだろう。
雅臣「町中華みたいなものだろ?心配しなくても俺は食べれるよ」
俺の口に合わないかもしれないと柊は心配してくれているのだろうけど、味噌煮込みうどんだって少し濃いめの味付けなだけでとても美味しかった。
それに俺と蓮池は意外に味覚が合う気がして大丈夫だと微笑んだ。
雅臣「炒飯とかもあるのか?」
楓「ある、一緒に頼んだるわ」
珍しく機嫌良さそうにスマホを弄る蓮池に飯はこいつに任せておけば間違いないと柊の肩を軽く叩いてやると、
夕太「そう?なら俺これ片付けてくるね」
柊はどことなく怪訝な顔をしてキッチンへ行ってしまった。
もしかして柊は別の物が食べたかったのだろうかと俺も慌てて立ち上がる。
雅臣「柊は中華で良かったのか?」
夕太「え?うん、それは全然いーんだけどさ」
蓮池と俺がすっかり中華モードになっている上に俺の家に泊まるのもあって、普段は我儘な柊もさすがに遠慮してるのだろう。
雅臣「デザートにアイスもあるからさ、後で食べような?」
夕太「サンキュ!片付けたらウーバー届くまでもう1戦しようよ」
一緒に2人で食べ散らかしたままだった昼食の皿を片付けていると、リビングに注文したぞと蓮池のでかい声が響いた。
チェーン店のデリバリーのピザが宅配されるのとか憧れてたんだよな。
自宅に出前が届く楽しさに、俺もアプリを入れてみようかなと浮かれていた。
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雅臣「よし!!!」
楓「ゴミカスきっも」
夕太「でんちゃん最下位だからって全部言わないの」
マリゴーで初めて蓮池を抜いて3位でゴールした瞬間インターホンの音が響いた。
Uberの中華が届いたようだがゲームをしている間に忘れていた空腹感が蘇る。
何だかんだ言って俺も胃のキャパが広がったというか、2人といるうちに実は自分の胃の容量はもっとあったと最近わかったんだよな。
そんなことを考えながら中華を受け取りに玄関へ向かうと、
雅臣「ありがとうござ…い、ます」
蓮池が麻婆豆腐でも頼んだのか紙袋の上から覗いて見える料理が真っ赤に見える。
………。
雅臣「お、おい蓮池、お前四川料理頼んだのか?」
楓「これはね、名古屋の真髄〝味仙〟だよ」
いそいそと嬉しそうに品物を受け取りに来た蓮池が店名を教えてくれるが、そんな店を聞いたこともなくて俺は首を傾げてしまう。
さっさと開けろと急かされ袋を開けばラーメンも蒸し鶏も全て真っ赤でアワビの冷菜にまで赤いソースがかかっている。
中華には違いないだろうが見るからに辛そうで匂いも強烈すぎる代物だった。
夕太「でんちゃん、何頼んだのさ」
楓「コブクロと手羽先ホルモンの唐揚げ、ニンニクチャーハンに台湾ラーメン」
夕太「青菜炒めとアサリ炒めに…まぁまぁ頼んだね」
柊と蓮池が順にダイニングテーブルに並べていくが全てが真っ赤で、蓋を開けた途端に物凄い匂いが部屋に充満する。
夕太「ひー辛そう、でも味仙を中華って言うのどうかと思うよ?てか味仙食いたくて雅臣に選ばせなかったんだろ」
……。
………そういう事か。
訝しげに箸を用意する俺の顔色を柊が伺うのを見て、何故お前はいつも事前に詳しく教えてくれないんだとあまりの匂いに鼻をつまんだ。
楓「反対されたらたまったもんじゃないからね。おい陰キャクーラーガンガンに下げろ窓も開けろ」
俺にオススメを食べさせたいとか一宿一飯の恩義なのと思っていたが、注文画面を見せたら俺が嫌がるのが分かったのだろう。
実際は反対される前に蓮池が食べたいものを頼んだだけだったと知って項垂れるが、器に移し替えることなく運ばれた容器のまま食べようとするので慌てで止めた。
雅臣「待てよ、皿を出すから移してから___」
楓「ご自慢のマイセンの白磁器に漂白剤ぶっかけることになってもいいなら?てか金彩剥がれて何度洗ってもオレンジに染まったままになるぞ」
雅臣「じゃあそんなに辛いの頼むなよ!!」
言い返しても蓮池の目が完全にキマってて、柊が呆れ顔で洗うの大変だから蓋の裏で食べようと提案してくれた。
口から火を噴きそうで絶対に辛いのは分かっているが見た感じ美味しそうでごくりと喉を鳴らす。
雅臣「ところで台湾ラーメンってなんだ?」
夕太「鷹の爪満載のニラとかひき肉の入った……まぁ黙って食べてみなよ」
いただきますと目の前の辛そうな食べ物を眺めて確かにこれは自分で頼むのは勇気がいるかもしれない……というか絶対に俺は頼まないだろう。
蓮池と柊のおかげで最近は食事に色んな選択肢が増えてる気がするとラーメンを啜るが、
雅臣「かっ……!!」
喉に辛いスープが跳ねて思い切りむせ返る。
慌てて水を飲もうとすると蓮池にコーラを渡され、もう何でもいいと飲み込めば弾ける炭酸が痺れる舌に刺激を与えて余計死にそうになる。
楓「あーうま!!これこれ!」
夕太「美味い、ほんと名古屋って飯が天才だよな」
ラーメンを啜り物凄くご満悦な蓮池は顔を真っ赤にそのままホルモン唐揚げを汁につけて食べ始める。
何てものを食べさせるんだと思ったのも束の間、何故かもう1口食べたくなる謎の中毒性に俺も無言で食べ続けた。
楓「ほら見ろハマっとる」
雅臣「な、何か癖になるっていうか…でも辛すぎる!」
夕太「手羽先も美味いよ!雅臣手羽先はねこうやって骨を……」
柊に手本を見せて貰って箸で食べようとしてみたが安定せず肉が少しずつしか食べられない。
楓「上品ぶってねぇで手でいけや」
丁寧に骨を抜き取る柊の横で蓮池が骨ごと食べる勢いでゴリゴリと音を立てながら手羽先を食べているのを見て怖くなる。
こいつの歯は大丈夫なんだろうかと怯えるが結局その食べ方が1番いい気がして始めて手で掴んで食べた。
やっぱり蓮池が美味いというものは大体美味いよなと味の濃い手羽先を眺めていると、
夕太「でんちゃんは前世恐竜だったんだろうね」
柊の発言がツボでつい吹き出してしまう。
軟骨部分まで食い荒らす蓮池に机の下で思い切り足を蹴飛ばされるがそれでも笑いは止まらず、柊も嬉しいのか俺の隣からぶつかってくる。
ご飯の時間が楽しくて息が詰まりそうになる幸せを俺は初めて知った。
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