156.【フランス土産】
13時を少し過ぎた頃、インターフォンが鳴った。
カメラには手ぶらでピースしている柊と物凄い荷物を抱えて不機嫌そうな蓮池が写っている。
初めて2人以上の客を自宅に招いた俺は柊がちゃんと蓮池を誘ってくれたんだと胸を弾ませエントランスのロックを解除した。
2人揃って来るのは今回が初めてで、しかも俺の家に泊まるだなんて自分から誘ったはいいが変に緊張する。
その内玄関のレバーハンドルをガチャガチャする音が聞こえてきたので俺は小走りで鍵を開けにいくと、
夕太「やっほー!お待たせ!久しぶり…久しぶり?」
雅臣「久しぶり…か?いらっしゃい、蓮池も来てくれたんだな」
楓「夕太くんが泊まろうってうるさいから」
雅臣「荷物貸せよ、向こう持ってくぞ?」
今朝焼いたベーグルの匂いに釣られた柊が鼻をクンクン動かし靴を脱いだままリビングへ走って行ってしまった。
ため息をつく蓮池から差し出された荷物を受け取るが、柊の靴を揃えてあげてから自分の靴もきちんと揃える礼儀正しい姿を見てもう意外だとは思わない。
そういえば今日は草履じゃないのか……というか、着物も着てないな。
蓮池は胸元にレッドのサンゴのディテールを刺繍したブラウンの半袖クルーネックTシャツと、同色のサンゴ柄のバミューダパンツを合わせていた。
どうしても着物のイメージが強く蓮池の私服姿を見て異様な感覚に囚われる。
楓「じろじろ見とんなよ何だよ」
雅臣「いや、着物着てないの珍しいなって…」
楓「だからあんな不便な服___」
その言葉を遮るようにリビングから柊のベーグルだー!!と叫ぶ超えが聞こえてきて蓮池は顔を顰めた。
楓 「夕太くん静かにしなよ」
雅臣「いいよ、蓮池もランチ食べるだろ?準備しておいたんだ」
楓「へぇ……お手並み拝見してやるか」
2人が来ただけなのに一気に家がおもちゃ箱をひっくり返したかのように賑やかになった。
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夕太「うまー!!!」
楓「……まぁ悪くないんじゃない?」
雅臣「ほんとか!?ずっとパンが膨らまなくて苦戦してたからベーグルに変更したんだよ」
ローテーブルの上に事前に用意しておいた少し遅めのランチはベーグルサンドがメインだ。
サーモンとクリームチーズ、そしてアボガドとスパイシーなチキン、グリーンリーフと黒胡椒のチーズオムレツを挟んだ3種のベーグルサンドに夏らしく手作りオレンジゼリーを添えてみた。
蓮池はソファに座りながらチキンのサンドが気にいったようでもう2切れ目に手をつけている。
柊もお腹が空いていたのかハムスターのように頬を膨らませて床に直座りでオムレツサンドを頬張っていて嬉しくなった。
ベーグルの発酵が少し甘くてしっかり膨らみきらなかったが、2人とも美味い美味いと食べてくれるので限りない喜びに満ちる。
楓「てめぇはほんと何屋目指しとんだ」
夕太「雅臣ってほんと器用だよなー。ベーグルも結構難しいってしぃちゃん言ってたのに」
雅臣「まだまだだよ。でも夏休み明けまでにパンを完璧にしておくからさ、そしたら約束のサンドイッチパーティーしような」
笑いながら空いたグラスにアイスティーを注いでいると蓮池は飾り棚の前の花にチラと視線を移した。
楓「……花、まだ咲いてんだな」
雅臣「あぁ!さすがに少し萎れてきたけど、まだ十分綺麗だろ?」
蓮池は俺と目が合うとふんと鼻で笑って用意しておいたガムシロップをアイスティーのグラスに3個入れる。
入れすぎだとも思うが機嫌良さげにストローでかき混ぜるその姿につい笑みがこぼれた。
雅臣「蓮池、改めてありがとうな。あの時ちゃんと伝えられてなかった気がして……」
楓「あーウザい、お前の為にやったわけじゃねぇわ」
気まずそうに眉根に皺を寄せてベーグルにかぶりつく蓮池を見て俺はまた笑ってしまう。
蓮池が俺の為にしてくれた優しい気持ちをどうにか残しておきたくて、枯れる前に何とかドライフラワーに出来ないか調べていることは秘密にしておこう。
夕太「あ!てかお土産!」
柊はベーグルを口に詰め込みながら自分の持ってきた袋と大きなリュックサックから中身を出そうとする。
お菓子やジュースなど次々と出てくるのを見て、
雅臣「まだ入ってるのか?」
楓「え、夕太くんまさかそっちのでかい袋も全部お土産なの?」
夕太「今から1つずつ説明したげるから…雅臣キャメルラテ入れてくんない?」
俺と蓮池の頭の上でハテナが飛び交うが、柊が大きな目を上目遣いにしておねだりするのでつい笑ってしまった。
雅臣「了解。蓮池も飲むか?」
楓「いらん」
雅臣「飲みたくなったら言ってくれ」
マジックのように次から次へと袋からフランス土産を出して床に1つずつ並べていく柊を見ていたらいつの間にかマシンが止まっていた。
キャラメルソースを上から追加したグラスをローテーブルに置くと、床に可愛らしい形のお菓子やマグネットと一緒に大きな箱が並べて置いてある。
夕太「雅臣が気にいると思って!」
手渡しされた包装紙を開けてみれば、箱の中からペーパーオルゴールとシルバーのエッフェル塔が入ったスノードームが現れた。
オルゴールの側面にはパリ・メトロの入り口や可愛らしいカフェの風景が描かれていて、回してみれば曲はフランス映画の代表作のもので可愛らしい音に心が休まる。
揺らすとホワイトのラメと銀色の小さな星がキラキラと舞って輝くスノードームは手のひらサイズの小さなオブジェで、シルバーカラーのエッフェル塔とパリの街並みが入っていた。
他にもモン・サン・ミッシェルやベルサイユ宮殿のマグネットまで、こんなにたくさんいいのだろうかと気後れするが初めて貰う友達からの土産に感動してしまう。
夕太「でんちゃんはこっちの金色のスノードームと免税で買ったFONDIのリスね」
楓「うわ、これ誰が買うんだろって思ってたのにマジ?」
俺と色違いのスノードームと20cmくらいのリスのぬいぐるみが付いたキーホルダー柊は蓮池に手渡すが、クロヒョウといい柊はこういうマスコット系が好きなのだろう。
しげしげとリスを眺める蓮池とスノードームを逆さにして星が舞う様子を楽しむ俺を見ながら柊は道中のハプニングや旅行の思い出話を聞かせてくれた。
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………どうしよう。
夕太「どわー!!!!誰だよバナナここに置いたの!」
楓「てめぇ陰キャ追い抜いとんじゃねぇぞ!!」
雅臣「そういうゲームだろ!?」
さっきからゲームが楽しすぎて止めたくても止めれずにいて困ってしまう。
現在俺達はゲーム対戦中で、柊はクッションを胸にあて床に寝転がっていて俺と蓮池はソファに並んで座っている。
一通り土産話も終わった頃にそろそろ宿題でもやるかと皆でテキストを開いたのだが、蓮池が英語のテキストに出てきたcarとgameという2つの単語から突如〝マリゴー〟の話をし始めたのだ。
〝マリゴー〟とは何かを尋ねればとび森と同じ会社から出ているゲームで、カートやバイク、バギーなどにキャラクターを乗せてレースするものらしい。
様々なゲームの世界観をモチーフにしたコースをアイテムを使用しながら走ったり敵を妨害しつつゴールを目指すカーチェイスゲームで、柊が参加者が多ければ多い程白熱する対戦型のゲームだと説明してくれた。
夕太「俺らもゲーム持ってきたからこのテレビに繋いで大画面でやろうよ!」
リュックサックからゲーム機を取りだす柊に俺は宿題をちゃんとやるべきだと主張したのだが、オンライン上の通信とは違って自宅でワイワイ皆でゲームをする誘惑に少しだけならとあっさり負けてしまったのであった。
雅臣「は、蓮池お前どっから出てきた!?」
楓「ショートカットが!あんだよ…っと!!っしゃーゴール」
夕太「おー!ラスト5人ぶち抜きアツい!!」
ドヤ顔の蓮池とまたも最下位で項垂れる俺に柊は爆笑している。
このゲームは確かに楽しいが俺には向いていないのかもしれない。
さっきから何度もコースアウトをしたり蓮池が後ろからから投げてくるアイテムを避けることが出来なかったりで散々な目に合っている。
それでも負ける度に悔しくてこれでは勉強どころじゃないと柊から貰ったトリュフ塩入りプラリネチョコレートを口にした。
楓「とっとのお気取りポルシェとは訳が違うんだよ」
雅臣「何で知って……お、お前か!?とび森の車を川に乗り捨てた奴は!!」
夕太「でんちゃんしかいないよ。そんなんすんの」
二重の意味で落ち込みながらふと時計を見ればとっくに18時を超えていた。
柊の持ってきた菓子を摘んでいたせいでそこまで腹が減ってるわけでもないが、甘いもの続きでそろそろ塩気のあるものが食べたくなっている。
雅臣「2人とも夜飯どうする?せっかくだし作ろうか?」
しかし蓮池は俺の提案に首を横に振った。
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