18.【落ち着かないランチ】
……最悪だ。
信じ難いが、誰も名前を貸してくれない。
現在俺は柊が思いつきで作った合唱サークル...もとい作詞作曲歌っちゃおうサークル略して『SSC』というクソダサい名のサークルに名前だけ貸している状態だ。
3年の三木さんから直々に『いつ辞めても構わないが必ず代わりを見つけてから辞めてくれ』と連絡を貰い、楽勝だろと周りに声をかけてみたものの全員が首を縦に振らない。
誰かが嫌なのか、何が嫌なのか分からないが誰もいい顔をせず断られてばかりだ。
このままいけば確実にサークルメンバーとして認定されてしまう日が近いと他の部活を真剣に検討してみたが、バイトと同じく週1回からOKなんて所はほとんどない。
柊はサークル活動開始に向けてせっせと手続きに励み、俺の気持ちも知らずあと1人でサークルだねと呑気に浮かれていた。
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夕太・楓「「顧問?」」
わざわざ1年の教室まで尋ねてきてくれた三木先輩が俺達3人を呼びつけたのには理由があった。
三木「そう、顧問。部活、サークル共に設立には顧問必須なんだよ。人数はさておき顧問をどの先生に頼むかまず決めないとな」
さすがに3年生が1年のクラスにくると目立つのもあって、クラスの奴らがこちらをチラチラ盗み見している。
三木「先に色々当たってみたが割とどの先生も空いてなくてな」
そのまま顧問が決まらずこのくだらないサークルが廃止になってくれればいいのにと願う俺の横で、タイミングが良いのか悪いのか柊が大欠伸しながら歩いてくるうちの担任を見つけた。
夕太「小夜せんせー!!」
ぱっと廊下に出たかと思うと柊は担任の前に立ちはだかり、
夕太「俺たちのサークルの顧問になって!」
小夜「え」
突然お願いした後、状況が全く理解できていない担任の腕を掴んで上に挙げ、
夕太 「いいってー!」
と無理やりその場で承諾させた。
正確にはその後直ぐに三木先輩の交渉が入り、あれよあれよという間に担任がサークル顧問と決定したのだ。
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…………焦るな、俺。
どれだけ自分に言い聞かせてもなかなか俺の代わりが見つからないので胃が痛い。
しかも未だ7人目のメンバーも決まっておらず、5月末までに決まらなければこのサークルの話自体が流れることになる。
これ以上関わりたくないから、せめて俺が自分の代わりを見つけた上で7人目が見つからない形にしておかないと先輩達に何を言われるか分からないので必死だ。
名前を貸しただけなのに、責任を感じる必要などあるのだろうか。
活動内容だって5月だと言うのにまだ何も決まっておらず、このままうやむやになくなってくれるのを祈る事しかできない。
そんな淡い期待も虚しく、昼休みに飯を食べながらこれからの活動内容について話し合おうとやる気満々の柊に無理やり引きずり出され食堂に初めて来たが……
デカい、そして広い。
中等部・高等部ともに使えることもあり購買も充実しているため食堂は大変賑わっている。
柊といつでもワンセットの蓮池がいるのが難点だが、そんなに心底嫌そうな顔をするなら俺が1人で弁当を食べることを良しとしない柊に文句を言って欲しい。
結局昼休みはいつでもこの3人で食べることがいつの間にか定着してしまったのだ。
夕太 「最後のメンバーは活動内容がしっかりしてくれば楽しそうだと思った誰かが入ってくれると思うんだけど……、それにしてもすごい人だね」
柊はうどんの乗ったトレイを両手で持ち、話し続けるもあまりの混雑具合に一旦席を探そうと辺りを見渡す。
楓「だから嫌だって言ったのにこんなくそ混んでて…」
制服のラインが朱色、俺らと同じく1年生が多く溢れかえっていた。
新入生の殆どが学園に慣れるまで弁当を持参し教室で食べていたが、5月に入り次第に食堂を利用するものが多くなったのだろう。
楓「あ、夕太くんそこ空いた」
夕太「やった!……でも」
柊がチラ、と俺と空いた席を交互に見る。
どう見ても2人席なので椅子を持ってこれば何とか3人で飯は食えそうだ。
俺が椅子を探す素振りを見せた瞬間、蓮池はどかっと勝手に着席した。
楓「あー腹減った、夕太くんも早く前に座りなよ」
蓮池は持参したデカいお重の弁当箱を素早く机に置いて広げ始めて、早くどこかへ行けよと言わんばかりに眉根に皺を寄せる。
夕太「じゃあ雅臣、真ん中の辺り空いてるから行ってきて。食べ終わったら迎えに行くよ」
指差してからすとん、と柊が残りの席に座り何事も無かったかのようにうどんを啜り始めた。
__それなら最初から教室で食べればよかったじゃないか!!
そう言えない自分に苛立ちながら目当ての席を探れば、凄まじい混み具合に席は瞬く間に埋まってしまった。
馬鹿らしくなって教室に戻るかと踵を返すと肩を叩かれる。
「藤城、席がないのか?」
低音にゆっくり首を傾けるとトレイを持った三木先輩が立っていた。
三木「俺らの横1つ空いてるから座れるぞ」
いや大して仲良くもない先輩と飯なんて食えるかよ!
しかしこの混雑具合と教室に戻る時間、そして先輩からの誘いを断るという全ての手間を考えたら頷く他無かった。
桂樹「おい三木遅せぇよ!!コーヒー取りに行ってどんだけ時間…て、あれ?」
三木 「横座らせていいか?」
桂樹「おう、全然いいぜ…藤城?だっけ、下の名前何だっけか」
三木先輩が示す空いた席の隣には桂樹先輩がいた。
あの後連絡先を交換したが何か連絡を取り合うこともなくただ追加しただけになっていたが、覚えててくれたんだ。
雅臣「雅臣です。藤城雅臣」
桂樹「そう雅臣だ、OK覚えた」
居るだけでその場が明るくなる笑顔を見て、三木先輩と2人だけで食べることにならなくて良かったと心底安堵した。
こうして久しぶりに見ると桂樹先輩の顔の良さは本当に際立っている。
小さく頭を下げ席に着席して前を向くと、ギョッとした。
桂樹先輩ばかりに目がいって気が付かなかったが、目の前の席にはあの梓蘭世が座っていた。
蘭世「梅ちゃんいらねぇって…知ってるだろ?野菜飽きてんだよ」
梅生「駄目だよ蘭世、ちゃんと食べないと…」
蘭世「じゃあ梅ちゃんが食べさせて」
梅生「そ、それはちょっと…」
…………。
…………何だこのクソみたいな会話は。
その隣に座る一条先輩は梓蘭世の前に置かれた野菜だけが敷き詰められた恐ろしく綺麗な弁当をせっせと彼に勧めていた。
もう十分細いだろうに芸能人だからダイエットとかしなきゃいけないのか?
梓蘭世は意地悪く笑いながら口を開け、一条先輩が箸を差し出すのを待っている。
仲直りしたのかは知らないが、痴話喧嘩の次は夫婦漫才かとうんざりしながら持ってきたパンの袋をワザと音を立てて開くことで漂う変な空気を断ち切った。
三木「何だ藤城、昼飯はパンだけか?」
雅臣「えっ、まぁ…」
桂樹「三木モラかよ、好きなもん食わせてやれよ」
なあ?と桂樹先輩が庇うように俺の肩を抱き三木先輩の発言をゲラゲラと笑い飛ばす。
彼が靴のまま椅子に片足を乗せ、持ってきた自分の弁当の唐揚げを箸で刺すのを横目に、あれから三木先輩と仲良くやれてるんだろうかと思いを巡らす。
でも今こうして2人で隣同士に座れるくらいなら問題は無いんだろうなと結論づけると、桂樹先輩が目の前に座る梓蘭世の野菜弁当に手を伸ばし勝手に探り出した。
しかも、そのまま人参を手で摘み口に放り込んだのだ。
綺麗な顔にそぐわない、よく言えば豪快な食べ方に梓蘭世がうげっと声をあげる。
蘭世「桂樹さんまじで汚ねぇ!!弁当ほじくりまわすなよ!!」
桂樹「あー?汚ねぇとは何だ蘭世。可愛い後輩の嫌いなもん食ってやってるだけじゃねーか」
蘭世「しかも素手とか最悪すぎる何のための箸だよ!!ほんと無理!!汚ねぇ!!」
大騒ぎする梓蘭世を一条先輩は苦笑して見ている。
その姿を見て、どうやらこの2人はいつもこうらしいと察した。
桂樹さんは梓蘭世の反応を見て大笑いすると同時に、にやりと口角を上げる。
桂樹「まじで汚ねぇとこ見せてやろうか」
そう言うと突然、桂城先輩は椅子に乗り上げる。
水泳部よりすげえの見せてやるよと制服のチャックに手をかけた。
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